144 キミカのお誕生日会 8

結局、俺の誕生日会に来たのは俺の彼女であるキリカと熱心な俺のファンであり、誕生日会を企画してくれたマコトと、それから後でチナツさんが何故か誕生日のプレゼントを持ってきて来てくれた。これだけだ。
というかチナツさんなんて告知してないのに来てくれるのはありがたいのだけれども、そもそもどこからの情報源で誕生日というのを知ったのか気になるところだ…俺の誕生日がネットにバラされてるって事はないよな?
そして、翌日。
俺は俺の誕生日会に来てくれなかったクラスメート達がどんなゲッソリした顔で登校してるのか楽しみでしょうがなかった。
しかし、教室に入る前に異変は始まっていたのだ。
校門前でキャーキャー騒いでる集団がある。
下級生の女子だ。
俺を見るなり近づいてきて「どうしてお誕生日会あるの教えてくれなかったんですかァ!」と言いながらもそれぞれ思い思いの誕生日プレゼントを俺に渡す。
「さ、さすがミス・アンダルシア…凄いですわね」
とそんな光景を後ろのほうでナツコが見て言う。
マコトはマコトで不貞腐れながら、「誕生日会に呼んだのに来てない人がプレゼント渡してきたら蹴ってやるよ!ボクが!」と意気込む。
マコトの予測とは裏腹に、誕生日会を告知した人は誰ひとりとしてプレゼントを渡しに来てない。本当に俺のファンだけが俺にプレゼントを渡しに来てるようだ…っていうことは…今まで女子しか見てないから男子は…。
なんとなーく俺は嫌な予感をしていたら、やっぱり案の定…男子は直接俺に渡すのは恥ずかしいのか、俺がプレゼントを受け取らない可能性があると考えてそれが怖いのか、俺の下駄箱前で沢山のプレゼントを置いていた。
置いていただけでなく、今も、誰が下駄箱の中にプレゼントを入れるのかという争奪戦をしている。
「そんな大きなものが下駄箱に入るわけないだろうが!!どけ!キミカ姫に一番近いのは俺だ!お前はその下の置いとけ!」
「うるさい!お前のそんな小さなプレゼントで喜ぶわけないだろう!いいから黙ってゴミ箱にでも捨ててろ!まだ下駄箱には余裕があるから9割ぐらい外にはみでるけど俺が置かせて貰う!」
という、プレゼントを置く位置の奪い合いだ。
「あのぉ…」
俺が話しかけると、
「キミカ姫!おはようございます!」
と元気よく挨拶をする。
そして、
「あ、あの、こ、これ…プレゼントです」
と俺にプレゼントを渡すキミカファンクラブの男。
「ありがとう!」
素直に俺は喜んだ。
誕生日を祝って貰って悪いと思う人はいない。
いや、俺は祝ってもらうはずだったのに、特定の人以外、身近な人は祝ってくれなかったからこそ、俺は祝ってくれる人のありがたさに気づいたというべきなのだろうか…例えそれが男子であっても。
「姫…どうして誕生日会の事を教えてくれなかったんですか!」
「大混雑になるとヤバいと思って…っていうか、3人ぐらいしかあたしの誕生日に来てくれなかったよ…」
すると、わなわなと震えてファンクラブの男は言う。
「ゆ、許せない…キミカ姫の誕生日だというのに、それを知りながらも、彼女を祝わないなんて…!!!誰ですか!今から復讐に行きます!…いえ、復讐なんて生易しいものではすませない、俺が天罰を与えてやる!!」
いやいや、天罰はもう…。
「天罰はもう『くだされた』みたいだから」
と俺はニッコリ微笑んで言う。
「え?そ、そうですか…」
何故なら、彼の背後に、コーネリアの誕生日会に来ていてキリカのマインド・ブラストを食らって精神的に疲弊した連中がよろよろと登校する姿が見えたからだ。
「実に清々しい気分…元旦の朝にパンツを履き替えたように…!」
そう言って、俺は清々しい気分で教室へと向かった。
教室では鬼の面を被ったキリカが歩きまわって、コーネリアの誕生日会に来ていたクラスメート達を泣かせるというシュールな光景が広がっていた。
「おはよう。キミカ」
鬼の面を持ち上げて仏頂面をのぞかせるキリカ。
「何やってんの?」
「偶然、鬼の面を持ってきたら突然クラスメート達が泣きだした」
いや、それ狙ってるだろう!
さて、ユウカはどうしてるかなァ?
ナノカがユウカの先の前に座っている。
話しかけようとするも、ユウカは目を逸らして、顔を近づけないでと手でナノカを遠ざけていたりするのだ。
「んもぅ、ユウカっちぃ〜どうしたんだよォ」
「どしたの?」
「ユウカっちが『来ないでゾンビィ!』ってあたしを避けるんだよォ…」
うへへへ…。
殆どのクラスメートが今日は休みかァ…。
お。
コーネリアが来たよ。
ん?
なんかシスターみたいな格好してるんだけど。
相変わらずキリカは鬼の面を装着してコーネリアに近づく。っていうか、クラスメート全員にそれをやっているようだ。
コーネリアは過剰反応というぐらいに驚いて十字架を手に持ち、ガタガタと震える手で英語で何かブツブツ呟いている。悪霊退散とでも言ってるのか?
ん?メイリンは…休みか。
俺はコーネリアにニタニタしながら話しかける。
「昨日は大変だったそうじゃん?自宅に悪魔が出たとかで」
「ンノォォォォォォゥ!」
効いてる効いてる。
「そういえばメイリンって今日は休み?やっぱ人様の誕生日会勝手に欠席してコーネリアの誕生日会2次会に出席してそこで悪魔に出会ったショックで休んだのかな?」
と、まるで見てきたかのように(見てきたけど)俺が言う。
メイリンハ…マダ、私ノ家ノ隣ニイマス…」
「な、何やってるの?」
「金ノ延ベ棒ヲ…探シテル…」
どんだけ執念深いんだよ!!
さて。
ホームルームが始まる。
ケイスケは清々しい顔で教室に入ると、
「昨日はコーネリアの誕生日会2次会お疲れ様でしたぉ」
と言った。さらに続けて、
「途中から食べ物が蛆に変わって大変でしたにゃん」
などと言う。
コイツ、食べ物しか見てないのかよ。
っていうか蛆になってる時点で食べるなよ。
どんだけ食べ物に執念深いんだよ。
もっと大変な事が起きただろうが。
俺はケイスケに向かって、
「キミカの誕生日会に来ないからバチに当たったんだよ!」
と口をふくらませ真っ赤な顔をして言った。
「そうだそうだ!」
マコトも言う。
「天罰があたった」
仏頂面でキリカも言う。
しかし意外にもケイスケはそれに対して、
「キミカちゃんが誕生日会があるっていうのを教えてくれないから先生は出席出来なかったんですぉ!!!怒るなら先生じゃなく他の人に怒るべきだにぃ!」などと、教卓をドンコドンコと叩きながら言うのだ。
あぁ、そうだったな、ケイスケには言ってなかったっけ…。
「あぁ、ごめん、教えてなかったね」
と、俺は素直に謝る。
いや、待てよ。
ケイスケは誕生日ってのを知ったら俺に何するかわかんないからわざと教えなかったんだよ!!…そうだったよ。そうだった。
思い出した思い出した。
「先生はあたしの誕生日のプレゼントで精液がどうとか言うからわざと教えなかったんだよ!!そんなの欲しくないっ!」
「ティヒヒ…」
不敵な笑みを浮かべるケイスケ。
ん?
まさかな。
いやいや…まさかありえないっしょ。
ありえないありえない。
ありえないありえないって。
冗談だと思ってたもん。
…。
冗談でしょ?
普通…。
い、いちおう…確認しとくか…。
俺は恐る恐る、机の引き出しを開k
(ねちょ…ォ…)
引き出しをあけようとした俺の親指に白い液体がついた。
粘り気がある。
変な臭いがする。
全身の毛が逆立った。
「う…うわぁぁああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!!」
…。
それからの事は覚えていない。
キリカとマコト曰く、俺がケイスケに斬りかかるのを止めるのが大変だったらしい。