144 キミカのお誕生日会 7

コーネリア宅の隣は米軍基地に所属する軍人達用のスポーツ施設である運動場があったはずだったが、その日だけはコーネリアの誕生日会場となっていた。
会場前には鬼の面をかぶり、マントで身体を覆った俺が立っている。
英語で書いてあって最初は読めなかったんだが、さすがのバカの俺でも『Birthday』という単語はわかる。コーネリアの奴は物質創造の力を使って自らの誕生日会場を創りだしていたのだ。しかもその『Birthday』っていう部分は金やプラチナで加工されており、とてつもない自己愛のようなものを感じる…俺の家ではBirthdayはマコトがマジックで書いたんだぞ…!!こんな、金だか銀だかプラチナで『自分で』作った看板なんかよりも、俺のほうが…俺の誕生日会のほうが、絶対ココロが篭っているんだよ…絶対に!!
入り口のドアに近づくにつれてBGMやら笑い声やらが聞こえてくる。
それを聞いてるとどんどん俺の精神は追いやられていく…本当だったら俺の家からこの声が聞こえてきたんだと思うと…もう…。
会場の大きな木の扉を開く。
中では既に盛り上がっている参加者達の笑い声。アカシック・レコードで見せてもらった会場の映像よりも生々しく精神的にキツい光景が広がっていた。精神的にキツいっていうのは俺にとってね。
俺がゆっくりと中へと入って行く…すると、何を思ったか米軍基地の軍人ども(コーネリアの知り合い)がケタケタ笑いながら俺に近づいてきて英語で何か話しかけてくる。それから俺の鬼の面をつまんだり、「Hey!」と言いながら俺の背中をペシンと叩いたりする。
それを無視して俺は中へと入っていく。
ユウカもナノカもいる。楽しそうに語らい合いやがって!!
ケイスケは黙々と食べてる…てぇめぇぇ…今日はアニメの発売日じゃなかったのかよォォォ!なんで嘘ついてまで俺の誕生日会参加しないんだよ!
キサラもソラもいる。キサラなんてパーティに参加するのにドレスまで着込みやがってクソが!!
水泳部の後輩の名前忘れたけどなんかあの2名もいるし、女子水泳部のキャプテンもいる。男子水泳部のキャプテンはさすがに本当に都合が悪かったのか。正直でいいよね、このクソどもに比べると。
クラスメートの女子の何人かもいる…てめぇら…いつもは俺やメイリンやコーネリアを外国人変態3人組とか言って俺までその外国人に含めてる癖にいざコーネリアが派手に金使って(実際は全然使ってないし全部自分で物質変換の能力使って作ってるんだけど)パーティ開くと犬みたいに尻尾振ってついてきやがって…これだから女って生き物は嫌いんだよ!!信念もクソもあったもんじゃない!!クッソガァァァァァァ!!!
しかもコーネリアの誕生日会、2次会だぞ?!2次会に参加してるって事は1次会にも参加したって事だぞ?!俺の誕生日会サボってコーネリアの誕生日会2次会に参加するとか頭にウジ沸いてるとしか思えないじゃないか!
気がついたら俺はまた泣いていた。
ぽろぽろと鬼の面の間から涙が零れて地面に落ちる。
泣いてるのに周囲は陽気なんだよ。
陽気にサンバ踊りながらピエロの格好のコーネリアが近づいてくる。
「HaーーーーーッHAHAHAHAHAHA!!!ナンデスカァー!?ソノ格好ハ?鬼ノコスプレデスカァー?!Haーーーーーッ…」
俺が誰だか分かってはいないようだ。
そして、俺が何をしにきたのかももちろんわかってない。
なぜ鬼の面を被ってきたのかも。
ただのコスプレだと思ったかッ!!
「ポゥッ!」
(ドスン)
俺の拳がコーネリアのみぞおちにキマる。
「そうそう…肺の中の空気を1cc残らず絞り出せ…」
押し殺すような声で俺は言う。
鬼の面を被ってマントの身体をすっぽりと包んだ俺の前で、会議の主催者であるコーネリアが前屈みに倒れて気を失う、これだけで十分に会場をシーンとさせる要素はあったようだ。
あれだけ大笑いして騒いでいた民衆どもは一斉に静まり返り、その視線は会場の中心に立っている小柄な何者か、つまり俺に集中している。会場にはBGMとケイスケがバイキング形式の料理を貪る「クチャクチャ」といった音が聞こえるだけだ。
俺は空を見上げて泣いていた。
肩をピクピクと引き攣らせて泣いていた。
そして、前を向き、印を結び、
「口寄せの術…」
そう静かに言った。
キミカ部屋(異次元空間)の中からドロイドバスターに変身した状態のキリカが呼び出される。
キリカは俺と同じくお面を被っており、その手には中二病臭い剣が握られていた。そしてキリカがその中二病臭い剣を(名前はなんとかかんとかなんとかかんとかブレードとか言ったけどあまりに恥ずかしい名前なので記憶から抹消した)地面に突き立てる。
その瞬間、地面には魔法陣が現れ、それらの陣形やら文字やらが青く光り輝いた。それを見た哀れな民衆どもはコーネリアの誕生日会のパフォーマンスとでも思ったんだろう、活き活きした眼差しでそれらを見て興奮している。
しかし、それは一瞬で悲鳴に変わった。
魔法陣はまるでその下に火山でもあったかのようにひび割れて赤く輝く地面の中へと落ちていき、そのひび割れた地の底へと続くかのような割れ目から、頭に王冠をかぶっている巨大なスケルトンが這い上がってくる。それから神話のガーゴイルのような姿の悪魔、頭が3つある犬、両目に釘が打ち込まれた人だかなんだかわからない何か、道化師の頭で身体が蜘蛛の男などが這い上がってくる。
ケルトンはナノカに杖を振り下ろすと、ナノカは一瞬で肌から血の気が引いていき、どんどんシワだらけになって、ついには肉がボロボロと落ち始める。その状態で「ユウカッチィ…あたし、どうなってるのォ?」と声帯が裂けたような声を振り絞ってユウカに話し掛ける。泣き叫び近づいてくるナノカの顔を押すユウカ。するとナノカの顎が外れて千切れ、地面に肉片が落ちる。さらに叫ぶユウカ。
逃げ惑う民衆が入り口付近に押し寄せると、先回りした頭が3つある犬が睨む。すると、あっという間に睨まれた人々が石へと変わる。石に変わった端からガーゴイルがメイスを振り下ろし、粉々に打ち砕いていく。
両目に釘が打ち込まれた全裸の男みたいな奴はカチカチと歯を鳴らしながらキサラとソラのそばへ四つん這いのまま近寄ると、「イィィィイーーー!!」と不気味な叫びを上げる。するとどこからともなく鎖が飛んできて、キサラの顔に命中…その鎖はキサラの頬を貫通して、別方向から現れた鎖は今度はソラの頬を貫通…鎖はどんどん二人の身体を貫通し、血だらけにしていく。
もう、モザイク必須である。
こんな大騒ぎの中、クチャクチャと未だにバイキング形式の料理を貪っているケイスケのところに巨大なスケルトンがやってくると、ケイスケが食べている物を指差す。
すると、皿の上の食べ物がどんどん蛆に変わっていく。
ケイスケはそれでも蛆を口にほうばりながら、
「ん!この蛆、美味しいぉぉ!!」
と目を見開いて言う。
(さすが石見博士…強靭な精神力…)
キリカの声が頭の中に響く。
それから、
(味も蛆に変える)
そう言った。
すると口の中からウジをまき散らしながら、
「蛆、苦くて美味しくないぉぉぉ!!!」
と涙声になって叫ぶケイスケ。
騒ぎの中、金の延べ棒を抱えて逃げようとするメイリン
その背後からニタニタ笑いながら道化師の頭で身体が蜘蛛の男がやってきて、メイリンの持っている延べ棒を指さす。
…すると、延べ棒が一瞬で石へと変わる。
床に石がゴロゴロと転がる。
メイリンはポロポロと涙を零して元『金の延べ棒』の前で両膝をついた。
コーネリアの誕生日会(2次会)は大惨事となった…。
まぁ、これ、全部、キリカの生み出した幻術なんだけどね。