144 キミカのお誕生日会 6

「うわぁぁああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!!」
俺はキレてキレて、もうリビングに飾ってあった『お誕生日おめでとうキミカちゃん』の額縁っていうかアレを思いっきりブレードで刻んだ。
それからマコトが用意してくれたケーキを抱えてそれを床に投げつけ、ようとしたところで、マコトが俺に抱きついてそれを止めた。
「待ってよ!キミカちゃん!それを、それをしたら…!それをしてしまったらキミカちゃんが、キミカちゃん自身の誕生日をバカにすることになるじゃないかァァ!!」
投げつけようとしていた俺の手は止まった。
それでも、このどうしようもない怒りの行き場が…。どこにもない。
俺は泣き声でそれに答える。
「だっで、だっで…誰も゛来な゛い゛誕生日会な゛ん゛で、ぜん゛ぜん゛意味な゛い゛じゃな゛い゛がぁ…!!!!」
泣いた。
俺は泣いていた。
藤崎紀美香17歳、高校生、女。
マコトの胸の中で無く。
と、その時だ。
キリカが震える声で俺の名を呼ぶのだ。
俺は凄まじいほどに嫌な予感がした。
「き、キミカ…」
「なんだよォォ!!!」
「お、怒らないで、落ち着いて聞いてほしい」
「怒るよ!!落ち着かないよォォォォ!!!」
この状況を察してくれたのかマコトはキリカに向かって言う。
「これ以上キミカちゃんが不安になるような事を言わないでよ、お願いだから。お誕生日会にボクとキリカちゃん以外誰も来なかった以上に不安になるような事なんてもう必要ないんだよ…」
と、マコトは俺の頭をなでなでしながら言う。
「で、でも…」
「お願いだよォ!!」
「わ、わかった。言わない」
「あ、ありがとう…」
二人はそれでいいのだろうが俺はだんだん気になり始めた。
なんだ?これ以上俺が知ったらいけないことがあるのか?コーネリアやメイリンが来てない、それにキサラやソラも来てないし、連絡も入ってないのだ。もしかして何かあったんじゃないのか?
何かあったのに俺がのんびりここで誕生日会をしていていいのか?
怒りや不安はだんだん、別の強い不安へと変わっていった。
俺はマコトの胸から顔を放して涙を手で拭いながら、
「もしかして…キサラとかコーネリアとかメイリンも関係してるの?」
と聞いてみる。
「き、キミカちゃん…」
「何かあったらヤバイし…」
俺の思いが伝わったのか、マコトはキリカに向かってこくりと頷く。
キリカは再度、俺に向かって「落ち着いて聞いて」と言ってから、何故かテレビのチャンネルをつけたのだ。
「言葉で言うよりも映像で見せたほうがいいから…というより、私の口でこれを説明するのは精神的な重圧に耐え切れられない…キミカとのソウルリンクに大きな亀裂が入ってしまう恐れがあるから…」
そう言ってチャンネルを変える。それがアカシック・レコードのちからなのだろうか、本来ならニュースを放映しているであろうチャンネルからはどこかの広いパーティ会場の様子が映っているのだ。
楽しそうに語らう人々。
立食パーティーのようだ。
そしてドレスやタキシードに身を包んだ…よく知る顔がある。
沢山。
まるでカメラが会場を映すように、アカシック・レコードの能力でパーティ会場の中をゆっくりと映していく。そこにはコーネリアやメイリンがいる。二人は何かのゲームをしているようで、そこで勝てばコーネリアが金の延べ棒をプレゼントしていたのだ。メイリンは連続勝ちしているようで、延べ棒がバッグに入りきっていない。
キサラとソラもドレス・タキシードに身を包んでBGMにゆだねてゆっくりと踊っている。ふたりともとても楽しそうだ。
あの水泳部の後輩2名も来ている…名前はなんだったかなぁ…マなんとかと、ミなんとかだったっけ…どうでもいいかぁ…。どうでもいいよ。俺の誕生日会に来なかった奴の名前なんて、どーーーーでもいいよもう。
それからユウカとナノカも来てるよ。
えぇ。来てますね。
楽しそうですよね。
映像はさらに奥へと進み、立食パーティの目玉であるバイキング料理の手前にくると、そこには山盛りの残飯の前で、バイキング料理を残飯へと変換する巨大な肉の塊…ケイスケが居た。
「き、キミカちゃん?」
マコトが俺のほうを見ている。
「んふ…」
「キミカ?」
「んふふ…」
「お、落ち着いてよ!落ち着くんだ!いつもの冷静なキミカちゃん戻ってきてよォ!!!たまたま用事があっただk」
「んふふ…ふふふふふふふ。…んふ。んふふふ。あは…あはははは…あはははははははははは!!!あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
俺は笑っていた。
藤崎紀美香17歳、高校生、女。
突然立ち上がり天井のほうを見て笑っていた。
その頬には涙がこぼれ落ちて、泣きながら笑っていた。
「き、キミカちゃーん!!戻ってきてよォォ!!!」
「キミカ、円環の理に導かれた…」
…。
ひと通り笑った後、俺は再び深呼吸をしてから、
「ちょっと、『散歩』」
「え?!」
「!!」
俺がリビングの外に出ようとしたその時だった。
マコトが俺の前に立ちはだかり、手を広げて進行を邪魔する。
そして無言で首を振った。
「そこをどいてよォ…マコトォ…」と、俺は精一杯の笑顔を作って、それでも涙が溢れる頬をマコトに見せながら、そう言ったのだ。
「キミカちゃん…散歩…どこに行くの?」
「ちょっと、コーネリアの家までいくの(はぁと」
それから俺はレールガンを出して、
「ん。弾は十分にあるか!」
そしてショックカノンを出して、
「よし。メンテナンスも行き届いてるね!」
それからグラビティ・ブレードを引っ張りだして、
「刀が血を欲しがっておる」
と言った。笑顔で。
その時だった。
俺の背後に近づく影。
それはキリカだった。
キリカは俺のほうをじっと見つめてから、
「キミカのつらさはわかる。痛いほどに。見ていてとても痛々しいぐらいに。だから、私に協力させて。キミカのつらさを知っている私だから、キミカの望みを叶えてあげられる」
そう意味深な言葉を吐いた。