131 スカーレット星人 4

『キミカ君…大丈夫かね…凄まじい爆発があったようだが…』
俺の電脳通信にはマダオの声がする。
『大丈夫…じゃない…よォ…』
『敵の新兵器か?』
『味方の…新…兵器…』
瓦礫をなんとかグラビティコントロールでどける。
俺の目の前には黒い玉の周囲に集まるバカ2名の姿が飛び込んでくる。一人はもちろんコーネリアでもう一人はボロボロのメイド服のメイリンだ。暫くするとマコトと全裸のソンヒも合流した。
「What…?!Fuuucccckkk!!!」
そう叫びながらコーネリアがキーボードクラッシャーのように黒い玉から出てきてるキーボードを叩く。叩く。叩きまくる。
「何やってんだよォォォ!!!」
俺が叫びながら駆け寄る。
が、それをメイリンが制し、
「シッ!静かに!」
そう言った。
ったくコイツらは!!
スカーレット逃しちまったじゃないか!
どうしてくれんねん!
って、何やってんだ?黒い玉がなんでここに転がってるんだ?
「何やってんの?」
「Ohhh…。Mother Fucker!!」
キーボードを放り投げるコーネリア。
「どうしたの?」
俺が聞いてみると興奮して話せる状況じゃないコーネリアやメイリンに代わってマコトが事の次第を説明してくれた。
黒い玉が現れたと思うとそこの画面にはエラーメッセージが表示されていて、しかもそのエラーメッセージの後にメイリンとコーネリアの頭上にあった王冠やら点数表示が消えてしまったのだ。というか、むしろそっちのほうが黒い玉よりも重要らしい。
「せっかく貯めた点数、なくなった!!パチンコで確変来た後、バグでそれが無しになった気分!!許せない!!」
興奮気味にメイリンが言う。
どれどれ…黒い玉の画面にはなんて出てるのかな?
ふむふむ…。
<Exception in thread "main" java.lang.NullPointerException at Gantz.NumberController.main(Gantz.NumberController.java:473)>
Gantz.console $ _ >
…。
ぬるぽ…」
「?」
ぬるぽになってる」
「ナンデスカァ?!ヌルポトハ?!」
NullPointerException
「ドウナッテルノデスカァァァ!!!チャント、Testハシタノデスカァ?!早ク!システムエンジニアヲ呼ブベキデス!!寝サセズ対応サセマショウ!!私ノPointカカッテルノデスカラァ!!!」
「っていうか、これjavaで動いてたの?!え、ちょっ、どういうことなんだよこれェェェ!!!」
黒い玉の前で大騒ぎしている俺達。
そんな時、突然黒い玉が音を立てて開いた。そして中から…。
キリカが出てきた。
「何やってんの…」
「中で観戦してた」
「…バグが出て、点数とか全部無くなったんだけど…」
キリカは無言でケータイを取り出す。
いかにも中二病が持ってそうな魔法陣みたいなのが書かれて色々な呪文の柄がプリントしてあるケータイである。
「もしもし…キサラ先生?バグがでたみたい。うん…うん」
しばらくしてケータイを切ったキリカが俺達に向かって一言、
「本日のゲームは終了…」
そう言った。
「Heeeeeeyyyy!!!」
真っ先に反応するのはコーネリア。
「私ノ財布返シテクダサーイ!!」
「財布ならポケットに入ってる」
「Whhhaaaattt?!…Oh…入ッテマシタ…」
あら?
どういうこと…だ…いやいや、そうだ。これがアカーシャクロニクルの能力だった。コーネリアは財布がなくなったものだと思ってたわけだ…。っていうことは、マコトは、
「財布もメモも入ってたよ〜…よかった」
安堵の表情。
「ニダァ…」
ソンヒは最初っから財布がなかったわけだしな。
それより早く服を着ろよ…。
あとはメイリン…か。
「財布があったが、金がない!」
「嘘ぉ?」
「確かに、ここ、銀行強盗から奪った金が…!」
「奪うなよ!!」
「クソッ!!くたびれ損の骨折り儲けだ!!」
「逆、逆!」
確かに疲れただけで終わったな、メイリンの言うとおり…。スカーレットには逃げられるしゲームとしては破綻してるし、動きまわってカロリー消費して結局お金は減りはしないけど増えもしなかったし。
このまま帰るのか。
俺が変身を解こうとしたその時だった。
俺達が暴れた衝撃でひっくり返った乗用車の隙間から人の手が見えたのだ。一瞬、戦闘に巻き込まれて(俺達が暴れまわったせいで)車の下敷きになった人がいたのかと思った、が、その手は明らかに助けを求めるというよりも、なんとか俺達に気付かれない間に写真を撮ってやろうとカメラを構えているように見える。
そんな俺の視線を気づいたかメイリンは持っていた矛をやり投げ選手よろしく空に放り投げた。
矛は乗用車と地面の間に突き刺さり、衝撃で乗用車が持ち上がった。そして間に隠れていたカメラ小僧…いや、カメラ女らしき人物を露呈させたのだ。
「何を盗撮してる!」
メイリンが怒鳴る。
「ひぃぃいぃいぃぃぃ!!!すいません!すいません!」
その女の子…というより、大学生かそこら、俺達よりも年上の「女性」はペコリペコリと謝っていた。黒髪のロングストレートにベレー帽を被っている。顔は頬が普通の人よりも赤い。俺がマスコミに抱いているイメージとはちょっと異なる、新米っぽいカメラマンだ。そのとくダネ写真は高く売れるのかな?なにせ今回はドロイドバスターが4種類とも揃ってるからなぁ。
「みなさんの勇姿を、カメラに収めようと思って、」
「その写真、高く売れるのだろう!!」
やっぱりメイリン気づいてたか…。
「え、えっと…多分。売ったことないからわからないですけど…」
「一枚5000円だ!」
手を差し出してメイリンが怒鳴る。
しぶしぶその女性は金をメイリンに渡した。その5000円という価格は高すぎず、かといって安すぎない微妙な値段で即座には「無理です」と断りにくかったらしい。
俺は言う。
「こんなところで何してるの?危ないよ?」
「私はドロイドバスターの追っかけ取材をしている、久万田えるな(くまたえるな)と申します!!み、みみ、みなさんはLIGHTって週刊誌ご存知ですか?そのドロイドバスターコーナーにみなさんの事をいつも載せてるんです!悪を倒すヒーローだから!!」
いきいきした目で俺達を見ているエルナ。
「取材ぃ?受けないよ。あたしはマスゴミだいっきらいだし!」
と俺は一蹴。
「ぼ、ボクは早く夕ごはんの買い出しに行かなきゃ…キミカちゃん、そろそろ行こうよ。もう終わったし」
と、マコトも俺と同意見らしい。
人様の前に出るのは恥ずかしいようだ。
「私も、マスコミには出てはならない身だ」
矛をどこかへと仕舞い、メイリンは俺に目で『運んで』と合図。
「終わったなら早く家に帰ってテレビを見るニダ…はぁ、今日は散々な一日だったニダァ…」
黒い玉の周囲に散らばっている自分の学生服を拾い集めるソンヒ。
コーネリアも日本のマスコミは嫌いみたいだ。無言で中指を立てて、自らグラビティコントロールで空に浮かんだ。ソンヒとメイリンを引っ張り上げるとそのまま空へと飛び立った。
「んじゃ、そういう事だから、さようなら」
俺が言う。
「い、いつか、いつか取材させてください!!」
「みんな目立ちたがり屋さんじゃないんだよ」
俺は黒い玉をキミカ部屋へと吸い込んでからマコトとキリカを連れてグラビティコントロールで空へと飛び上がった。俺が黒い弾を吸い取ったのが珍しいのだろうか黒い玉の周囲を写真に収めまくるエルナを後にして家路についた。