132 孤高のヒーロー 1

ここ数日、頻繁にスカーレットは銀行を襲撃していた。
主に九州の銀行だったが、その魔の手は南首都(博多)から遠く離れた鹿児島にも、そして時として関門海峡を渡って山口にも及んだ。
軍は対応を追われた。
通常の強盗団であれば警察が出動すれば済む話だがスカーレットの配下にいる連中は強盗以前にテロリストで十分な重火器を装備しており、しかもドロイドバスターが首領を務めている。警察や軍がまともに戦っても被害が増えるだけなのだ。
で、俺の登場となっていたのが今まで。
ヒーローモノのアニメでは悪の首領が登場する時にヒーローがちょうど居合わせたように登場するものだが、現実はそうはいかない。俺は毎回毎回、スカーレットがいようがいまいが呼び出されて体力的にも精神的にも限界が来ていた。
警察や軍が南軍司令部で会議をすることになった。
本庁からやってくるはずのミサトさんの双子の妹のミサカさんは結局会議には来なかった。代わりにハリーって呼ばれてるミサカさんの上司(実は俺は以前アキバでこの人に会ったことはあるのだが…向こうは覚えてないようだ)がやってきた。
南首都の博多県警の人達と南軍のマダオを筆頭にした軍幹部、そして本庁のハリー(針井)、そしてマダオサポートのミサトさん、兵器サポートとしてケイスケが呼ばれ、俺はオマケのようにそこにいた。ちなみにマコトは外国人なので基本的に南軍司令部には入れない。
「初号機もそろそろ限界がきている…」
マダオが渋い顔でそう言う。
「おいぃぃぃ!!!『初号機』って言うなって何度いったらわかるんだよォォォ!!!」と、俺はグラビティコントロールマダオの首根っこを掴んで宙に上げながら叫んだ。
「このように、僅かな精神的攻撃で激情してしまう」
グラビティコントロールで首根っこを掴まれているのを指指しながらマダオが言う。
ハリーが渋い声で、
「キミカ君の代わりはいないのかね?」
そう、マダオに問う。
「残念ながら…他の人間は外国人なので手伝ってもらう事は『後々の事』を考えて難しい…。しかも、うち二人は敵国の人間だ」
メイリンとソンヒのことか。
「後はケイスケのところのダミーシステムか」
「だ、だみぃーしすてむぅ?」
またエヴァだかオヴァだかのゲロオンの話かぁ?
「にぃぁは暴走したらまずいにゃん」
にぃぁの事かよ!!
「ふむ…やはり、今後もキミカ君に一人で頑張ってもらうしかないか。というわけでヨロシク」
「ヨロシクじゃないよォォォ!!!」
俺はグラビティコントロールマダオの首根っこを掴んで宙に上げてガクガクブルブルと震わせながら、「こんだけ人を集めておいて何か他に策がないの?!ドロイドバスター使わない作戦とかァ!!」
「き、キミカくん…そろそろ下ろしてくれないかな…揺らされるせいで酔ってきたのだが…司令官が司令室でゲロを撒き散らすとか、また変な噂が南軍の間で流行ってしまうのを防ぎたいのだが…」
とかどうでもいいことをほざいてくるマダオ
「そんなのどうでもいいんだよ!それよりも『労働基準法違反』だよ!ストだ!ストに訴える!!残業代未払い請求だ!」
「金なら払ってるじゃないか…」
「お金はいらないよ!!時間が欲しい!!」
ぶーぶー言ってる俺をなだめようとするミサトさん
「まぁまぁ、落ち着きなさいな、キミカちゃん。まだ決まったわけじゃないのよ?」
「だって、引き続き働けとか…」
俺はマダオを床にゴロンと降ろす。
ぐったりと床に寝転がり伸びるマダオ(司令官)
その後静かにマダオはゲロを吐いた。
「中央軍ではこういう場合はどうしてるんですか?」
ハリーに質問するミサカさん。
「このように大規模に強盗団に襲撃されることはないが…テロの場合は大抵は『不知火』と呼ばれる日本人のテロリスト集団が未然に防いでいるようだ。彼等は彼等独自の情報網を持っているようだな。ただ、彼等は彼等でテロリストであることには変わりないからな。一般人にも被害が出ている」
不知火?
「あぁ、その人達は、中…」
と俺が言い出しそうになったのを喉の3センチぐらい手前で止め、そのまま唾を飲み込むように言葉を飲み込んだ。
「ん?中?」
「な、なんでもありません…」
中央軍の司令官が不知火の首領のジライヤだとか言っても信じてもらえないだろうけども…何かそれを言ったら言ったでややこしい事になりそうだから黙っておこう。
代わりに俺は、以下のような話題を振った。
「『不知火』はスカーレット一味とは敵対してるらしいから、いっそのことぶつけたらいいんじゃないのかな。一般人への被害はうまく南軍と警察で食い止めるとして」
「それはまた…」と俺の意見に何か言いたそうなハリー。
「え?だってそれ以外にはあたしが『フリーダム』になる道はないんでしょ?しょうがないじゃん、それいこう、それ」
「キミカちゃん…それは警察が『ヤクザが気に入らないからヤクザを嫌ってる共産党とぶつけたらいいからやってみた』って市民に対して言うのと同じことよ…。それを聞いて市民はどう思うの…」
「『いいぞ…もっとやれwww』って思うんじゃないの?」
「キミカちゃんの中の市民は2chの中にしかいないみたいね」
しかし一方でハリーは顎を手で触りながら考え中だ。何やら俺の奇策が捨てようにも捨て切れない意見として受け取っているらしい。
「確かに、キミカくんの意見は…表向きには難しいが…。ひょっとしたら妙案どころか名案かもしれないな」
「ですよねー」
「しかし、仮に不知火とスカーレット一味をぶつけるとして、アポイントメントというのはどうとる?」
俺は直接ジライヤこと東条に話はできるが、それは俺が『不知火』というテロリストと繋がりがあるって事になるからなぁ。
黙っておこう。
2chで騒げば気づくと思いますにぃ」
ケイスケはノートパソコンを広げて2chのまとめブログを見ながら、そう言ったのだ。