149 簀巻きラバー 10

チョークでユウカ妹の彼くんを沈めた後、ユウカは事情を聞いて、妹の頭にたんこぶを3個作った。妹は泣きながら「いたいよぉ!!」と叫んだ。
で、今。
海の見える丘にユウカ妹と彼くんが佇んでいる。
もう夕方。
夕焼けが綺麗に波打ち際に反射してキラキラと二人の顔を照らしている。いい雰囲気…だけれど、どこか淋しげな表情のユウカ妹。
『早見さん!』
『は、はい!』
突然の呼びかけに身体をビクつかせる妹。
『僕…早見さんの事が好きです!』
言った!
ついに、直接自分の言葉で言ったか。
ユウカもナノカもスピーカーの前で緊張した面持ちで待つ。
『…』
「「「ごくり」」」
3人がじっとスピーカーに耳を傾けて次の言葉を待つ。
『あなたは、私の事をとても良く知ってて良く理解してくれてる…だから、私はあなたの側にいることはできないよ』
ユウカもナノカも顔を見合わせる。
『ぼ、僕のどこが気に入らないの?!治すよ!』
必死にユウカ妹の心に語りかけようとする彼くん。
『あなたと私は…違うから』
その瞬間だった。
ユウカ妹は彼くんに手をつきだした。
彼くんの顔の前に。
あの黒い煙だ。
黒い煙が彼くんの頭の後ろからぼうっと噴きでて空気の中に消えていく。しかし、それは俺の動体視力をもってすると様々な国の文字だという事がわかった。
見覚えがあるぞ…これは、アカシック・レコードによって再現されたシュミレーターの中で空間の裂け目で見えていたものと同じだ…。
『さよなら』
スピーカーからも黒い文字の塊が溢れだしていた。
…。
翌日。
「それで、結局あの後どうなったんだよ?」
とユウカに訪ねてみる俺。
「へ?」
「あの後だよ、あの後ォ。ユウカ妹が彼くんのお誘いをお断りしたじゃないか。家に帰ってから様子はどうだった?」
「は?何の話をしてるの?」
俺は目ン玉が飛び出るかと思った。
ユウカの馬鹿は既にこの年齢で痴呆症が進んでいるのか?!17歳だぞォ?!
「いや、だからさ昨日海浜公園に行ったじゃんか?!」
「行ってないわよ?」
俺はそのまま背後に倒れ込んだ。途中でメイリンとコーネリアのスカートを掴んでしまってずり降ろして二人ともパンツ丸出しにさせてしまった。
「Oh!何ヲスルンデスカ!!」
「おい、やめろクズムシ」
「ごめん、あまりのインパクトに途中でスカートを掴まずにはいられなかったよ。このまま倒れると脳天を机の角にぶつけて死ぬ可能性もあったからね、正当防衛だよこれは。裁判でも有効な証拠になr」
「だからさっきから何を言ってんのよ?」
ユウカがまだすっとぼけてる…。
「ナノカ!ナノカ!一緒に海浜公園行ったよね?!」
「何言ってるのキミカっち。行ってないよ」
「またまたご冗談を…」
「え?本当だってば!!」
二人が変な目で俺を見てくるぞおいやめろそんな目で見るな!!
「あんた黄色い救急車で病院に行ったほうがいいんじゃないの?」
「なんでそうなるんだよォォ…あたしが狂ってるとでも言うのォ?!」
「夢と現実を混合しないでよね。昨日は家に居たわよ?」
クソッ!
おかしいぞ絶対に…。
ナノカを睨んで俺は言う。
「ナノカは昨日はどこにいたの?!」
「えっと、昨日はねぇ、水泳部の部員でカラオケに…」
「マジでェ?!」
それなら嘘かどうかはわかる。クラスメートの水泳部部員に聞けばいい。俺は血眼で水泳部部員の机まで駆け寄り、
「昨日はどこにいた?!ナノカとカラオケに行ってたの?」
「そうだけど…」
俺は思わずその水泳部部員のスカートをずり降ろしてしまった。
「ぎゃー!!!」
すぐさまスカートを装着する部員。そしてすかさず俺の背後を取りチョークスリーパーをキメるユウカ。ナノカは正面から俺のおっぱいを揉みしごきながら、
「おかしいよキミカっっちィ?!」
などと言ってる。
どうなってしまったんだ?
俺は狂っているのか?
それとも世界が狂ってるのか?
いや、世界が狂ってるに決まってるぞ。
「ア、たしは…おカシくないヨ?(白目」
「ひぃー!キミカっちが狂ったよォ…!!」
「ちょっとナノカ!あれ持ってきて!あれ!発作の時に飲む奴よ!」
「オッケー!フリスクと炭酸水ね!」
ナノカが俺のカバンの中から勝手にフリスクを持ちだして、案の定、俺の口の中へと放り込み、そして案の定、その後から炭酸水を放り込んだ。
「(ぶぶッ、ブクブク…)」
「誰か!!救急車を…黄色い救急車を…!!それか、この中に、この中に精神科のお医者さんはいらっしゃいませんかァァァァ!!!」
叫ぶナノカ。
やめろ…。
やめろォォォ!!
俺は狂ってない…俺は狂ってないんだよォォ!!
「(ざわざわ)」「キミカがユウカのチョークスリーパーで堕ちてる」「うわぁ…白目剥いてる人始めてみたよ…」「失禁するんじゃないの?!」「ユウカ、プロレス技は危険だからダメだってあれだけ自分が言ってたくせに」
その時だ。
ガラーっと教室のドアが開く音が聞こえる。
そして象でも歩いてるんじゃないのかっていうぐらいにフロアを揺らす重低音。これは…この足音は!
「何をしてるんですかォォォ!!」
「げ、先生」
「プロレス技は危険だからダメだってあれほど先生が言ったのにまだやってるとはどういう事ですかォォォォ!!!イジメの時は必ずと言っていいほどに『プロレスして遊んでただけですゥ』とか言うんですにィィ…プロレス・イコール・イジメ認定して説教部屋行きですにぃぃ!!!(怒」
「いや、だからこれは、キミカが狂って、」
「はッ!!」
俺に駆け寄ってくるケイスケ。
「息を…してない…」
いや、してる!してるって!!
「人工呼吸を!!先生が人工呼吸をするにゃん!」
「してるしてる!息してるから!」
俺は起き上がって泡を口から拭きながらも弁明した。
呆れた顔をするケイスケ。
それから、
「まーたキミカちゃんの『AKIRAの根津』の真似ですかぉ?いい加減その真似やめないと心臓病の人権保護団体から文句がくると思いますにぃ」
などと、俺のおでこを指でコツンと突きながら言う。
もうだめだ。
誰も俺の話をまともに聞いてくれない。
…。
いや、1人だけ、1人だけ俺の話を聞いてくれそうな奴がいる。
俺の『彼女(キリカ)』だ。