145 誕生日プレゼント : 宇宙船 4

キサラは『後で戻すから』という約束でケイスケの車をワゴン車へ、物質変換の能力を用いて改造して、俺達はそれに乗って市民球場へと向かった。
車内でキサラに何を作って欲しいのか説明する。
ひと通り聞いた後、
「ほんっ…とにつまんないものを要求すんのね!」
と言うキサラ。
「何がつまんないんだよ!宇宙船とかいいじゃん!ロマンじゃん!」
「それで何をするの?無許可でそんなものをあげたら撃墜されるわよ?」
あーはいはい、そうですよねー。前に無許可で軍のネットワークに接続された状態の戦車をコーネリアが作ったら、ものの1分経たないうちに鉄塊になった記憶が蘇ってきたよ…はいはい、凄いですねー、日本の軍事力凄いですねー。
「キミカ部屋の中に入れるの!」
「き、キミカ部屋ぁ?アンタの部屋って球場よりも大きいの?」
「キミカ部屋っていうのはァ…前にも一度話してるけどォ…あたしが持ってる異空間なの。宇宙なみに広いから何でも入るよ」
「ますます意味わかんないんだけど…宇宙船を異空間に放り込んで、何?異空間を旅するの?その異空間には地球と同じ環境の星でも存在してるの?」
「なーんにもないよ。なーんにもないっていうのは空気も無いから宇宙船を入れてその中に食べ物とかを入れようと思ってるの。今までキミカ部屋の中には宇宙空間でも保存出来るタイプのものしか入らなかったから、これが出来たらキミカ部屋は本当に『部屋』らしくなる」
「何よそれ、面白そうじゃないの!!」
急に活き活きし始めるキサラ。
「な、なんだよォ…キサラのものじゃないからね。あたしのものだから。キサラは欲しかったら自分で作ればいいじゃん」
「空間なんて作れるわけないじゃない!!」
小一時間かけて到着。
夜の市民球場。
そこならスペース・シップの1台ぐらいは余裕で…入るはずだよね?
「んじゃ、とりあえず…」
そう言って変身の際の仕草である『メガネを指でクイッと押す』をすると、キサラの身体は一瞬でオッドアイのドロイドバスターへと変わる。
「で、なんだっけ?韋駄天を作ればいいんだっけ?」
「『疾風』だよ!『疾風』!!間違わないでよ!っていうかアカーシャ・クロニクルで作るのに存在しないものなんて作れないでしょ!!」
「作ろうと思えば作れるわよ。なんか『韋駄天』って感じのものを作ればいいんでしょ?例えばこんな感じのォ…」
と土からドロイドを創りだすキサラ。
それは運動場を走る。走る。走りまくる。
俺は一瞬でドロイドバスターへ変身すると、ショックカノンをキミカ部屋の中から引っ張りだして、キサラが創りだした『韋駄天』って名前の架空のダサい感じなドロイドを木っ端微塵に破壊した。
「『韋駄天』じゃなく、『疾風』です」
キサラは手をひらひらさせて「わかったわかった」というニュアンスのジェスチャーをしてから、その掌を地面に置いて、
「土遁!!疾風の術!」
とNA◯UTOっぽい事をする。
地響き。
地面がどんどん巨大な宇宙船に変わっていく。
もうこれは凄いとしか言い様がない。
俺達は巨大な宇宙船を作るわけだからと球場の端っこに居たのだが、グラウンドの土が宇宙船に変わるだけに留まらず、客席やら市民球場外の駐車場やら、駐車場の前の産業道路やら、産業道路前のコンビニ跡地も、全部宇宙船に変わっていくのだ。サイズが意外と…大きいぞこれェ?!
っていうかこれ、疾風が補給をしてた宇宙ステーションじゃないか!
…ってことはまだまだサイズが大きいぞ!!
「ちがーーーーーーーう!!!」
俺はキサラの首をチョークスリーパーする。
市民球場横の市民センターの一部を宇宙ステーションに物質変換したところで、キサラの能力は止まった。俺がチョークスリーパーで止めた。
「早く言いなさいよもう…」
ナツコがaiPadを持ってきていた。
疾風のホログラム映像を見せる。これは今日の夕方のニュースで公開されていたあの映像そのままだ。
「これです…『疾風』は」
ナツコが言う。
「あー。これ?このことかぁ…これが『疾風』なのね!…あーこれ見たわぁ、5年前に見たわぁー…」
キサラが開き直る。
「おい!」
俺がツッ込む。
ソラが言う。
「お前、今までなんの事だと思ってこれ創ってたんだ?」
「だから『疾風』」
「まさかお前、夕方のニュースで『疾風』の特集やってた時、宇宙ステーションのほうを『疾風』だと思ってたのか?」
「もうどっちでもいいじゃないのよ、似たようなもんでしょ?」
なんだよお前はお母さんかよ、全然わかってない系のお母さんかよ。いるよなージャンプ買ってきてって言ったらマガジン買ってきてキレたら「どっちも似たようなもんでしょ」とか開き直る奴ゥ…。
ケイスケが言う。
「こ、これは知らないにゃぁ…ん…絶対に怒られますぉ…」
球場も市民センターも駐車場も産業道路も、宇宙ステーションが土にめり込んだ状態に変わっている。俺は覚えてないからな、どこに何があったのか、覚えてないからな!
「あー!もう!戻せばいいんでしょ?!戻せば!」
はい…。
続けて、
「球場ぐらいのサイズになりそうね。外だけ戻すか…」
言うが早くキサラの地面は以前メイリンが乗っていた『空中に浮かぶスノボ板』みたいなものに変わって、それで宙を浮かびながら球場の外へと飛んでいく。そして、空を飛んで追いかける俺。
「確かこのへんにはコンビニがあったわよね…」
「うん」
コンビニの跡地がね。
って、何してんねん!コンビニが出来たぞおい!
電気も灯って、アンドロイドの店員も居るコンビニが出来た。しかもロゥソン跡地だったのにセブンになってるし!!ご丁寧にも商品運搬トラックから商品運びだしているドロイドまで創ってるし!
おい!客が入っていったぞおい!!
「ここは、産業道路ね」
はい…ここは道路が途切れてるだけだから、それを創り直すだけで…。
おい!歩道橋とかないから!!!
「歩道橋なんて無かったよ!」
「え?でも、ここのコンビニに行くのに歩道橋ないと不便じゃない?」
「ま、まぁ…そうだけど…さぁ…」
いいよもう好きにして。
「で、ここは、市役所だっけ?」
「市民センター!」
「だいたい市民センターってなんなのよ?」
「え?」
なんなんだ?
そういえば、そうだ。
市民センターっていうのが前からあったのは知ってるけど何をするところなのか全然興味ないし、もちろん入ったこともない。市民なのに市民センターで何をするのか知らないっていうのもアレだけど…。
「どうせ税金の使い道に困ったから要りもしないものを創ったんでしょ。こんな馬鹿馬鹿しいものに税金が使われてるのが甚だしいわ。もっと役に立つものに変えるわ!例えば、この立地ならラブホテルね!」
おい!
確かに街外れだからラブホテルってそういうところにあるけど!!
…というわけで、キサラが間違えて宇宙ステーションに変換してしまった場所は、キサラの独断と偏見で元あったものと別のものになった…。