92 突入せよ浅間山ホテル 2

その週の週末に同窓会は行われる事になっていた。
たまたま3連休があってそれと重なっている。幹事さんはそこんところを考えてこの日を選んだんだろう。
場所は軽井沢。日本有数の避暑地の一つ。ともなれば冬の間は結構な積雪などが予測されるとは思う。
山口の空港から東京経由で長野県軽井沢へと到着。空港を出た所で既に5センチぐらいは積もっていた。さらにバスでレイクニュータウンへと進むわけですがどんどん雪景色は広がっていった。
「すっごいねぇ…北の冬は厳しいねぇ…」
などとマコトはバスの窓の顔を貼り付けて外を見ながら言っている。元々は台湾に居たという事だから日本の冬の寒さはまだ未体験かもしれない。でもまだまだこんなもんじゃないよ。まだ北海道という試される大地があるわけだからね。
「こんな寒い日は熱燗をクゥーィッ!と飲みたいなー」
と俺が言うと、
「あはは、キミカちゃんはもー、お酒の事ばっかりじゃないかー。今から行くホテルは露天風呂があるらしいよ!こんな雪景色の中での露天風呂は最高だと思うな!」
「露天風呂かぁーいいなー、露天風呂で熱燗をクゥーィッ!と…」
「あはははっ」
などと話しながら、俺とマコトとその他を乗せたバスは無事に浅間山ホテルのあるレイクニュータウンへと到着した。そしてしばらく歩くと本日宿泊するホテル「浅間山ホテル」へと到着。
ホテルの周りは車が無事に入れるようにと除雪車がごっそりと雪を削り取っていた。立派な作りのフロントはさすがはお金持ちの別荘地の中にあるホテルって感じだ。誇りのようなものを感じるよ。しかも屋上には病院の屋上にもあるようなヘリポート?がある。空からのお客様はあそこが入り口になるのかな?
玄関には「上関高校同窓会ご一行様」って書いてある。
「タダで招待してくれるような同窓会ってボク、初めてだよ」
「ケイスケの家ってお金持ちだからなー…普通はありえないよ」
俺が今持っているチケットはこのホテルの宿泊やらここまでの交通費・帰りの交通費、そしてお土産の代金まで全部含んでいるから驚きだった。これだけ楽しめてもケイスケはやっぱり同窓会には参加したくないらしい。でも、その気持もわからないでもない。
俺は同窓会なんて一度も言ってないし行くような年齢でもないけども、中学の時の文化祭の打ち上げなんてのをクラスの連中が計画して、仮にもし俺がそれに呼ばれていたのなら多分断っていたと思う。それが同窓会を断ったケイスケと同じ気持ちではないか…なんて勝手に思ってしまう。ちなみに呼ばれなかったけど。
フロントで招待状を渡すと、
「こちらがお部屋のキーです。それから同窓会会場は2階の〜(略)」などと色々とご説明を貰った。俺はただホテルで温泉浸かったり料理とお酒を楽しみに来たんだからまったくもって同窓会なんて参加するつもりはないんだけど〜…。
「同窓会って出なきゃいけないんですか?」
と俺が聞くと、
「え?…は、はい。でなければいけません…」と、フロントの人にとんでもない返事を貰い俺とマコトが顔を見合わせる事になった。
「どどどど、どういう事??」
「聞いてないよォォ!」
困惑する俺達にフロントの女性は、
「本日は上関高校同窓会貸切となっておりまして、お料理などは同窓会会場でお出しすることになっております…」
ヌゥゥ…。
そういう事ですか…。
ケイスケめ。ハメたな!!
俺とマコトは渋々と渡されたキーの番号の部屋へと向かった。
「どど、どうしよう…ボク…同窓会で粗相をしなきゃいいけど…っていうかこの服でいいのかなぁ?」
マコトが着ているのはどう考えても同窓会に出るような服ではなくて女子高生がお出かけをするような格好だ。ポンチョにバルーンパンツ、その下には黒のストッキング、そしてブーツに帽子。
「まぁ、なってしまったものは仕方ないよ。別に粗相をしても咎められるような理由はないもーん。ケイスケが悪い!」
と俺が言う。
俺も格好はマコトに同じ。どうかんがても同窓会に出て良いようなものではなく、このまま参加してしまえば「女子高生は帰れ!」と追い出されそうな格好ではある。上はスヌード付きセーターで下はチェックのハーフパンツにニーソックス、そしてブーツ。
「あぁ、お食事の時間だ」
マコトが腕時計を見て言う。
俺達はホテル2階の会場へと足を運んだ。
「立食…パーティ…」
会場に入ってからまず俺がそう言って酒を呑む前に息を飲んだ。
パーティというからには女性も男性も正装だった。ちなみに正装って言っても2chの正装とは違って全裸にネクタイとかじゃない。ちゃんとスーツを着てるし、女性は女性で結婚式やらに着ていくタイプのドレスを着込んでいる。さすがに着物はないな…。
「ボク達…浮いてるね…」
「う、うん…どっか離れたところで食べよっか…」
立食パーティ…それは西洋の文化。
そしてそれは「ぼっち」を許さない文化である。
海外の映画なんかで見る立食パーティではみんな必ず誰かとペアかそれ以上の人数で行動しており、黙ってお酒を飲んでいたり食べ物を食べているぼっちは映画の中では必ず悪役かその場に馴染めない主人公クラスの人間だけだ。ここでマコトと離れるのはすなわちぼっちになる事を意味しており、すなわち死を意味している。
どこかテーブルをとってそこに食べ物を寄せ集めようと思っていたけど、わずかしかないテーブルはリア充どもに占拠されており、俺とマコトのような非リア充は食べ物の皿を手に持ったまま、ウロウロとするしかないのであった。
「ど、どこにこのお皿置けば…」
「そうだ、あのバーカウンターみたいなところに行けばいいんだよ。あそこに置こうよ」って俺が指さす。
バーカウンターはバーテンダーがお酒を配る為に用意されている程度の小さなものではあった。まさかアレを待機用テーブルとして扱う人は居ないだろう。俺達以外は。
料理はその全てがお酒のおつまみになる程度の軽いものばかりだった。手のひらサイズのオードブルのようなそれらを取ってきては小さなスペースに並べて「おいしいね(もぐもぐ)」「うん、おいしいね(もぐもぐ)」などと言い合いながらお酒を飲んだ。
お酒は残念ながら日本酒は無かった。このホテルはそういう変なこだわりでもあるのだろうか?それともこれは幹事のこだわりなのだろうか?用意されているお酒はビール、ワイン、シャンパン、カクテル各種…。後はウイスキーやバーボンや、とにかく洋酒全般。
最初のうちはバーテンに言ってからお酒を貰ってはいたんだけど、いちいち並ぶのが面倒臭くて勝手にお酒の瓶を拝借してコップに注いで飲んでいた。こっちのほうが経済的。
マコトは最初はシャンパン、次にワインに行き、そこで既に酔っ払って顔を真っ赤にして壁に寄りかかって眠そうにしている。お酒はあまり飲めないらしい。
俺のほうはあいも変わらずハイペースで飲んでいた。最初はビール、次にワイン、それからウイスキーになってチェイサーにカクテルなどを呑んでいました。はい。
だんだん幸せな気分になってきたァ…。