92 突入せよ浅間山ホテル 1

1月が行くで、2月が逃げる、3月が去る…。まさにそんな勢いで時は忙しく進んでいくであろう2月の終わりだった。
早朝に俺とマコトは庭で修行をしていた。
修行っていうのもドロイドバスターとしての修行って奴です。
マコトのドロイドバスターとしてコスチュームもケイスケが用意していよいよ本格的にドロイドバスターとしての修行みたいなのがしたいって言い出したのは、他でもないマコト自身だった。
マコトは俺を守れるような男になりたい、って言ってやる気になってた。もう女の子になってしまってるのにね…。
という冗談はさておき、マコトに与えられたコスチュームは俺の黒を基調にした肩・お腹露出のセクシーな戦闘服とはちょっと違って、同じく黒なんだけど「ポンチョ」をベースに作られている。しかもこのポンチョ、光学迷彩のように機能してて完全に透明化するらしい。
たぶんドロイドバスターとしてはまだ未熟であるとケイスケが判断して渡した装備だとは思う。それゆえにマコトはちょっとそれを装備するのは拒んでいたんだよね。
「せっかく正義の味方になれたんだから、ボク、頑張るよ!困ってる人達を助けれるように!!」などと言いながら意気込むマコト。
「気持ちはわかるけど…ん〜…そんなに背中に背負い込むものじゃないよ正義の味方だなんて。辛くなるだけだし」
マコトは熱血漢資質があるからなぁ。なんか見てるこっちが危なっかしい気持ちでドキドキしてしまう。
「戦いには流れがあってね、流れを見きらなきゃ負けるよ。流れっていうのは押し際、引き際の事なんだけどね」と、俺はいつしか心眼道の師匠から教えてもらった事をマコトに伝えてた。
「せめてキミカちゃんだけは守りたいよ!」
「ああ、うん、ありがと…」
とにかく俺の前ではいい格好はしたいらしい。
「修行なんだけど…あたしはグラビティコントロールしか使えなくて、で、マコトはエントロピーコントロールだから…ん〜あんまり教えれる事がないんだよね〜…」
とポリポリ頭を掻きながら言う俺。
「キミカちゃんが戦ったっていうジライヤっていうドロイドバスターはボクと同じエントロピーコントロールを使うんでしょ?どんな戦い方をしてたの?」
前に俺が話したことを言ってるのか。
「どうって…こう、(印を結んで)土遁『電光石化』(ゲロを吐く仕草)とか…。う〜ん…印を結ばなくてもマコトは出来るんだよね。やっぱり機構は違うんじゃないのかな?」
「ぼ、ボクに出来るのかな…」
「まぁ、とりあえずはどこまで何が出来るのかってやってみないとわかんないや。何かやってみてよ」
と俺が言うと、マコトは近くに転がっている石を睨む。
「ていッ!」
すると石が火をつけて燃え出して、そしてドロドロに溶ける。
「おおおお!凄い!!」
「おりゃあああ!!!」
マコトを中心として炎があがる。すごい。温かい。燃える燃える!!うわああああ!!火事だああああああ!!!
「あわわわわ!!どうしよう!火事だ!警察を…!!」
「いや、火を消せるはずだよ!エントロピーコントロールで!」
「そ、そうだ。えっと…」
再びマコトは腕を胸の前で組んで目を瞑る。
炎は消えて地面は固まった。石みたいに。
「ふむふむ…応用はできそうだね」
「なるほど〜…。ボク、頑張ってみるよ!」
それから小一時間、マコトは色々と工夫を凝らして自らの必殺技みたいなのを編み出そうとしていた。
ケイスケがドロイドバスターとしての能力はカルマみたいなものだと言った意味が俺にもわかるような気がする。マコトはそれまで何一つドロイドバスターの能力を扱った事があるわけじゃない。俺もそうだけど…。それが今日のほんの僅かな時間で本能的になのか、扱えるようになっていった。
まずマコトのエントロピーコントロールはジライヤのソレとは若干異なる。あいつはプラズマとエントロピーコントロールの複合を行なっていておまけにグラビティコントロールも扱えるから自らが編み出した炎などを遠くまで飛ばすことができる。しかしマコトはグラビティコントロールも使えなければプラズマも生み出せない。
だから必然的に近距離の攻撃となってしまうという事。
ただ、それでも近距離でのエントロピーコントロールは確実に相手にダメージを与えるみたいだ。バリアが無効化されている状態では触れただけで相手を気化させる事も出来るだろう。
現に、マコトは俺が投げた小石を掌打突きで一瞬に気化させた。
また、口から吐き出す空気を炎のようなものに変える事も出来る。もうそれはドラゴンのブレスのように。距離はドラゴンに比べたら短いけど、3メートルかそこらは射程距離だから十分な攻撃力がある。ちなみに冷たいブレスも吐けるけど、これはドロイドには無効だろうな…人間にはそれだけで凍らせて殺せるだろう。
「う〜ん…やっぱり技には名前がいるかな?」
とマコトが言い出す。
「な、名前ェ?」
俺はあんまり意識したことないな…確かに「キミカインパクト」は俺が編み出した特殊な技だから名前をあえてつけたけど、普段から使ってるグラビティコントロールとかでわざわざ名前つけないし。
「よし、この炎の技は…『破爆掌』」
は、はばくしょうゥ?
「キミカちゃん!石を投げて!」
「う、うん」
俺は近くに転がっている石をグラビティコントロールでぽいっとマコトに向かって投げつける。とその瞬間、マコトは片手を開いてその石に向かって波動を放つように体全体を前に打ち出した。
「破爆掌!!」
その石は強烈なエントロピーコントロールによって発せられた熱により一気に溶岩のようになり、その溶岩をも通り越して黒い煙となって完全に分解されて飛び散った。
俺のほうからはマコトの手から赤黒い炎が出たように見える。
「これは…氷獄殺!!」
ひょ…ひょうごくさつゥゥ?!
マコトが吐きかけた息は氷のブレスとなって目の前にあった木の葉っぱを凍らせた。凍らせるのを通り越してそれはパラパラとただの炭素の塊になって空に向かって散っていく。
他にも色々と技を考案はしていたけどネタが尽きているのかワザに名前を付けるまでには至っていない。辞書で語呂がいい言葉がないか探しているぐらいだ。
「ねぇ、マコトブレスはないの?」
と俺が聞く。マコトブレス…まぁ普通に吐いた呼吸をエントロピーコントロールで炎にして吹きつけるっていうマコトが一番最初にやってみせたヤツなんだけどね。
「ま、マコトブレス?!ぼ、ボクが技にそんな恥ずかしい名前付けるわけないじゃないか!!」
いやいやいや、今までの技の名前も十分恥ずかしいよ…。
「炎獄殺!!」
え…えんごくさつゥゥ?!
マコトはそう恥ずかしい技名を叫んでから息を吸い込んで吹き付ける。そのブレスは高温の溶岩のような液体で炎が液体となって飛んでいるかのようにも見える。
手加減なしのマコトのエントロピーコントロールは庭と隣家の境界線にある壁を思いっきり溶かして炎を立ち上がらせた。
「火事!火事ィィ!!」
俺が叫ぶ。
「氷獄殺!!」
炎に向かって白い息を吹きかけるマコト。あっという間にその炎をは消えて半分だけ溶けた隣家との壁がそこに残った。
「うわぁ…この壁ってケイスケの家のほうだよね」
「ど、どうしよう…溶かしちゃった」
俺とマコトがそんな『変な修行』をしているのを庭先で見ている人がいた。玄関のところで今にも手紙をポストに入れそうになってるおじさんだ。どうやら郵便配達の人みたいだ。
「こんにちはー」
と言いながら俺はグラビティコントロールで郵便物を引っ張り寄せた。さすがにこれに驚いて郵便局から来た人っぽい彼はそそくさとケイスケの家を後にしてたけど。
「ふむふむ。どれどれ〜…温泉旅行と同窓会のお知らせ」
温泉旅行?
「ええ?凄いじゃないかー!キミカちゃんが出したの?」
「いや…ケイスケかな?」
それを家に持ってはいり、ケイスケに聞いてみると、
「あぁ、それはいらないにゃん」
「えぇ?マジで?もったいないなぁ…」
「キミカちゃん行きたいなら行ってくればいいにゃん」
「っていうか、これなんなの?同窓会って書いてあるけど」
「あーッもう!それは高校の同窓会ですにぃ!同窓会に温泉旅館に集まってくださいって意味の案内状だにゃん!!行くわけないでしょうがにぃぃぃぃぃ!!!」
額に血管を浮き上がらせて今にもその案内状を切り刻もうとする勢いだ。なんてもったいない事をするんだ。俺はすぐさまケイスケからそれを取り上げて、
「んじゃ、あたしとマコトで行ってきてもいいの?」
「いいですにゃん」
「本人じゃないんだけど…」
「本人じゃなくてもその招待状持っていたらいけるニィ…」
ケイスケの家はお金持ちだからいいよなぁ…俺、貧乏人だからこんなのタダで貰ったら必然的に参加になっちゃうかも。でも、同窓会か。知ってる顔が来るのならケイスケが嫌がるのもわからなくもない。学校ではイジメられてたって前に話してたし。
「き、キミカちゃん…い、いいの?ぼ、ボクと一緒に温泉とか…その…それって、いわゆる…デート?」
と顔を真っ赤にして恥ずかしがっているマコト。
ふむ、浅間山ホテルか。
なんとも温泉って感じのいいところっぽいじゃありませんか!