92 突入せよ浅間山ホテル 8

「ふぅぅぃぃぃ〜!」
と言いながら俺はバンっと更衣室の扉を開ける。
と、そこで俺は警備員みたいな服来た男とばったりと出会ってしまった。なんでここに男がいるの?女子更衣室でしょ?
「ふぅ」
と遅れてマコトが現れると俺と同じく驚く。
「ななななな、何してるの?痴漢?」
その美少女、いや、元男のマコトは警備員風の男を見て言う。
「違ッ、違う、違う!」
「違うって何が違うんだよ!女子更衣室に居る時点で痴漢じゃんか」
俺はグラビティブレードを抜いて男の首筋に素早く持っていき寸止め。もう直ぐにでも首を撥ねる準備は整ってますアピール。
「ストーップ!!待った!話を聞いてくれ!」
年齢は40かそこら。白髪の混じった頭をしているその男は自分は全然痴漢する気なんてありませんアピールをしているのか、直ぐには動けない姿勢である土下座をして俺達の前にいる。
「見てのとおり、俺は警備員なんだよ。突然銃声が響いたと思ったらあのフロアでテロリストがホテルの従業員とお客さん集めているだろ?ビックリしちゃって逃げ出したよ。そしたら警察はホテルを取り囲むしマスコミも集まってくるし、町内会は炊き出しを始めるし…俺ァどうすりゃいいのかと思って」
「逃げたらいいんじゃないの?」
「逃げたらそれを知ったテロリストが客や従業員に何するか解ったもんじゃないよ!」
そんな事よりもまずなんで女子更衣室にいたのか説明しろよ。
「それで…なんで女子更衣室にいたの?」
「いや、お風呂から音が聞こえるからテロリストに捕まってないお客さんが居るんじゃないかと思って…その、慌ててたから女子更衣室とかそういうの全然考えて無かった…すいません」
などと言う男。
「まぁ、悪い人じゃなさそうだね」とマコト。
「お嬢さん達、どこかに隠れておいたほうがいいよ」
と男は言う。
「え?なんで?今から夕御飯食べに行くんだけど」
俺はそう返した。
「えええええ?!ど、どこに?」
「そりゃ同窓会のあったフロアに」
「ダメダメ!あそこはテロリストに占拠されてる」
「いいよ別に。関係ないし」
「お嬢さん、馬鹿な事はやめるんだ!」
「大丈夫だってば。テロリストの野郎はさっきも2人殺したし」
「え?」
俺はグラビティブレードを引っこ抜いて見せて、
「バッタバッタと斬り殺したよ。またあのクソテロリストどもが銃を向けてきたら今度はそれを理由に一人残らず皆殺しにしてあげるよ。まぁちょっと巻き添えで客か従業員の誰か死ぬかも知れないけど…そこはまぁ、ご愛嬌ってことで」
と俺がハニカムと、
「大丈夫!今度はボクも手伝うよ!ハァァァァァァッ!ボクの拳が唸る…!悪を叩き潰したいと唸っているんだァ!!」
とマコトが可愛らしい声で拳をブンブンと前に突き出している。
「でも、お嬢さん達…」
とまだ何か言いたげなおっさん。
「いいからいいから、オッサンこそ隠れてなよ。見つかったら確実に殺されちゃうよ?武器も無いんだしさ。っていうか早く更衣室から出て行ってよ今からあたしたち着替えるんだからさ」
俺はそう言って力づくてオッサンを更衣室の外へと叩き出した。
それからさっさと着替えて髪を乾かした美少女2名、いや俺とマコトはさっき同窓会をやっていたフロアへとエレベーターを使って降りた。その時、警備員のオッサンは心配そうに俺達を見ていたがさすがに俺達についてくることはしなかった。
同窓会をやっていたフロアには既にテロリストが見張りをつけてるからね。エレベーターを降りたところでオッサンは殺られるかもしれない。俺達は大丈夫だけど。
そしてエレベーターは指定した階へと着いた。
開くと、そこにはテロリストが見張りをしていた。案の定だ。
しかし俺とマコトを見て銃を仕舞う。
よくわかってるじゃないか。俺に銃を向けるって事は殺してくださいって言ってるようなものだからな。
同窓会が行われていたフロアの扉を開ける。
俺とマコトの目に飛び込んできた光景は最初俺達がそこへ来た時とは違っていた。テーブルや椅子がちゃんと用意されてて鍋やらが設置してある。付き出しらしき小鉢もある。昼間はオードブルの洋風料理だったけどもしかして夜は和風かぁ?ククク…。
しかしそれにしても、同窓会メンバーのシケた面はなんだ。
苦虫を噛み潰したような顔でお通夜みたいにメソメソしながら料理を食べるじゃないか。なんだ?誰か死んだのか?あぁーん?
「和食の鍋料理かぁー!」
マコトも喜んでテーブル席に座る。
「これは…すき焼きかな?」
俺は鍋の蓋を取って中身の出汁を見てから言う。濃い出汁だからなんとなくすき焼きっぽい。そんな気がするよ。
「すいませぇーん」
俺は従業員っぽい服装の人に手を振った。
そいつは「え?俺?」って顔をして俺に反応。そして渋々こちらに向かってくる。
「生ビールをください」
「は、はい」
「マコトも飲む?」
「あ、うん」
「んじゃ生ビール2つ」
「はい…」
従業員っぽい奴はそのまま振り返って厨房へ向かっていく。しかし俺は見逃さなかった。この従業員、背中に武器を装備してる。ハンドガンだけど。これは…従業員に化けてるテロリストかぁ?
「キミカちゃん、どうしたの?」
「ん〜…なんかね、テロリストの奴ら、従業員にふんして紛れ込んでるっぽい。さっき背中に銃が見えた。ズボンに挟んでる」
「ええええ?」
「多分、警察が踏み込んできた時に殺されないようにしてるんだと思う。もしテロリストの格好してたら殺されるじゃん?」
「ヌゥゥゥ…!やり方が汚いよ!汚すぎるよ!」
マコトが文句を言う。
「まぁまぁ、ここは飲んで忘れましょう」
さっきの従業員にふんしたテロ野郎がビールを持ってきたので、さっそく俺とマコトはビールとビールをゴッツンコして「かんぱーい!」とやってからゴクゴクと飲んだ。
「ぷっはぁぁあ!!」
「ぷはー!」
「やっぱりお風呂の後のビールは美味しいねー」
「ねー」
「あ、キミカちゃん、もう2杯目いくの?」
「ぷはー!いくよー!おーい!2杯目ー!」
従業員にふんしてるテロ野郎にジョッキを差し出しす俺。
また「え?また俺?」って顔をして渋々ジョッキを持って厨房のほうへと向かっていくテロ野郎。
「ったく、従業員にふんしてるんだから従業員の仕事はちゃんとしろよっていう…!」と俺は口を尖らせて文句を言う。
「ふむふむ、お刺身はとてもコリコリして美味しいね」
マコトが言う。なるほど、お刺身はコリコリしてるのか。この近くに漁港でもあったっけ?新鮮な状態でここまで持ってくる技術があるわけなのかな?実に料理に対する情熱を感じるよ!
ふむふむなるほどなるほど…このブリも脂が乗ってて美味しいなー!うんうん、実に素晴らしいよ!
「持って来ました」
少し息をきらせてテロ野郎が言う。
「あ、はいはい、どうもー」と俺はジョッキを受け取ってまたゴクゴクゴクゴクとそれを飲み干す。
「ぷはぇぁ〜…(白目」
2杯目を飲み干した時、俺の耳にはテロリストのボスらしき奴が電話で誰かと話をしている声が聞こえてくる。
「金が振り込まれたのは確認した。仲間の開放はまだか?脱出用のヘリはそれからだ。なぜ直ぐに出来ないんだ?!」
警察を相手に話ているっぽい。
「人質の様子?あぁ、今は夕食を食べているところだ」
そう言ってテロのボス野郎は仲間にカメラみたいなものを持たせて俺達の席に来た。なんか俺とマコトが飲んで楽しんでる姿をカメラに収めようとしてるぞ。
「あぁぁーん?何勝手に撮ってんのォォ?」
俺は真っ赤な顔をしていると思う。その酔っぱらい俺が悪態をつけてカメラマン役のテロリストとボス野郎に言う。
そのテロボスは「警察やマスコミに人質が元気でいる証拠を見せろと言われてるんだ、カメラの前で笑顔にしていろ!」とか言い出す。
「これ、肉はまだなの?肉で出汁を取ろうと思うんだけど」
マコトが鍋の蓋を持ち上げてテロボスに言う。
「に、肉?」
慌ててテロボスが言う。
「肉だよ、肉。すき焼き鍋じゃないの?」
「あ、あぁ、直ぐに持ってこさせる」
「それよりお酒はまだなの?」
俺はカラになったビールジョッキを付き出して言う。
「さ、酒か。直ぐに持ってこさせる。ビールか?」
「もうビールはいいや。ステップアップが大切なのですよ、ステップアップ。ビールの次はビールよりもアルコール度数が多いお酒が重要になってくるんですよ。日本酒の熱燗で」
という俺とテロボスのやり取りも淡々とカメラに収めている。が、そこでテロボスは「いつまで撮ってるんだ?!」と部下を怒鳴りちらしてカメラを止めさせる。
「あっちのほうを取ればいいじゃん」
俺は通夜会場みたいになってる同窓会メンバーのテーブルのほうを指さしてカメラマン役のテロリストに言う。
「あんなのを取ったら警察が色々と文句をつけてくるからダメだ。人質に虐待してるんじゃないかとか、そういう」
「あー…」
でも人質ってああいう雰囲気じゃん…普通。