12 優等生の憂鬱(リメイク) 5

ひたひたとあるく廊下は、いつのまにか濡れたシート生地の感触が足の裏に響き始める。プールに来てるんだな、という感覚。
デジャブというやつか。
子供の頃に家族と行った市民プールに似ている。
それから塩素の臭いやら、むわっとする暖かい空気…。
プールだ。プールが見える。男達が望んでいた、女子校の女子高生が普段から利用している、プールが俺の目の前にある。
女子高生は泳いでいない…あぁ、プールサイドにみんなして揃って座っている。俺はその女子高生達の姿を舐めるように見た。目から舌が出てきて本当に太ももから股間、腰、脇、首筋にうなじ、頬に唇と、舐め回すように見た。そして俺の脳は、その女子高生たちの競泳水着を脳の中にあるメモリー領域に大事に大事に保存されているエロ画像領域とマッチングを行って、過去に俺が1人エッチで使用したであろうエロ画像のどれに近いのかを必死に探っていた。
そりゃもう頭のCPUが完全に発火してツムジで玉子焼きが出来るんじゃないかというぐらいに、サーチしまくっていた。サーチしまくっていてもまったく出ないのだから、そりゃもう必死にサーチしまくる。
「あれ?あれれ?…おかしいな」
俺は思わず口走ってしまった。
俺としたことが「あれれおかしいな」と頭をポリポリ掻きながら、更衣室に戻ろうとしてしまったのだ。
いや、マジでおかしい。
「ちょっ、ちょっ、キミカっちィ!!なんで逃げるのよ」
と俺の白くてすべすべした女子高生のプニプニの肌をムニュと掴んで、プールサイドに引き戻そうとするナノカ。
しかし、俺は、俺の頭のCPUはフル回転で、
『何かおかしいぞお前』
と俺に問いかける。
「いや、何かね、おかしいの」
「どーしちゃったんだよ、キミカっちぃ」
「だって、ほら、女子高生のスクール水着でしょォ?興奮するかと思ったんだけど…あれれェ?」
と、その時だ。俺のサーチ結果がもう完全に『エロ画像領域』から外へと飛び出して他の領域を検索し始めたのだ。
ここまででエロ画像とのヒットはなし…。
で、いきなり、ヒット。
あぁ、そうだよ、オリンピックの女子水泳のシーンとヒットしちゃったんだよ。おいおいおいいおいおいィィ…それとヒットしちゃう?それ、全然ヌけなかったから。それエロ画像違うから。
「こんなの絶対おかしいよ!!」
俺は気づいたらナノカの腕を振りきって叫んでいた。
「え?なにが?ほら、キミカっちの好きなスクール水着…」
「ゴリラがスクール水着を着てるよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
凄まじい速さでナノカが俺の背後にまわって俺の口を塞いだ。お陰様で俺は「ゴリラがスクール水着…(以下略」の『ゴ』までしか言えなかった。もう殆ど「ごォ」と叫んだアホな女子高生に見られているだろう。
そしてナノカは俺の背後から小さな声で、そして確かな声で、一言一言をゆっくりと言った。
「キミカっちィ…ホラー系のFPSで、狭い部屋の中で音に感知して襲い掛かってくる敵がいるよねェ…そんなところでキミカっちは…声を出してしまうのかなぁ?」
「んーっ…んーッ!!」
「しーずかに…しずかに…。そうすればキミカっちはゴリラに殺される事はないんだから…賢くなろうよ」
「(頷く)」
「それじゃぁ…今から手を話すからね」
ナノカがゆっくりと、俺の口を塞いでいた手を放した。
「アメコミのヒーローの男がスクール水着を着てるよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
凄まじい速さでナノカが俺の口を塞いだ。お陰様で俺は「アメコミのヒーロー(以下略」の『ア』までしか言えなかった。もう殆ど「あァ」と叫んだアホな女子高生に見られているだろう。
「キミカッちィィィ!!!それは一番言っちゃダメな事だよ!!なんでピンポンとでブラックワードが出ちゃうんだよォ!!」
いやだってさ、女子高生のスクール水着見れると思ったらゴリラみたいな体格の人とかアメコミのヒーローみたいな体格の人とかがスクール水着、着てるんだからそりゃ叫んでしまうよ。友達がラブホテルで熟女の風俗嬢を呼んだら母ちゃんが出てきて思わず叫んだ時みたいな感じだよ。騙されたっていうのを通り越してるんだよ。
なんなんだ、あの本格的に水泳やってます感は。
「本格的に…鍛えられてますね…」
「そうそう、アンダルシア学園の水泳枠で入学してきた、身体に自信がある人達で構成されてるんだよォ〜!大会ではいい成績だしてるんだから!!それでこの温水プールも用意してもらったんだし!」
身体に自信がありますって、そりゃゴリラかアメコミのヒーローとして自信があるのか?姿は女性だけど途中から特殊メイク無しで変身するし、スタントマン無しで男殺せます的な自信か?
「脂肪とかも余分なところがなくて…」
「いいよねー!!うちもケーキとかお昼ごはんの代わりに食べてたら最近お腹まわりがやばくって…!!でも、そういうの全然気にならないぐらいにみんなトレーニングやってる!!」
肩幅広すぎ、肺が滅茶苦茶デカすぎ、ケツ小さすぎ。完全に非安産型体型じゃないか。ありゃ鍛えられた膣圧で赤ちゃんがでかかったところを首締めて殺すぐらいの力があるぞ。
「なんか、コロって感じに、イチコロって感じに男の子も女の子も堕としちゃいそう(赤ちゃんを)」
「だよね!!好きな男とか完全に落としちゃいそうだよね!」
胸とかぺっちゃんこなのに胸がめっちゃ大きく見える。女性としての胸の大きさっていうより男性としての胸の大きさってやつ?
あれに抱きしめられたらそのまま肋骨の骨は砕けて肺にささって背骨は圧迫骨折してゼリーみたいにグニャグニャにさせられそう。
「胸とかも…ハト胸なのかな…なかなか…大きくて」
「そうだよね!!うちよりも断然大きいし!!脂肪ついてなさそうだし!すべすべして綺麗な肌だし!!」
そこから脂肪とっちゃダメだろ…。
そこの脂肪は男性に喜ばれるところなんだから…下手すりゃナノカのペチャパイよりも酷いじゃないか。
「ナノカぁ〜そのコが新入部員?早く紹介してよ!」
一番がガタイの良さそうな女性がナノカに言う。
「うん!今、みんな可愛いよねー!って噂してたところ!」
え…えぇ…可愛い…ゴリラですね…。
「きゃーっ!ちっさーい!!」
見れば俺は女型巨人どもに囲まれていた。
俺の身長は男の時には170以上はあったが、それでもここの女子達と背を並べるぐらいだ。今は140センチあるかどうか…まさに彼女らからすれば俺は小人だった。そして当然だが肩幅だってジャミラみたいな肩じゃない。頭と肩が並ぶぐらいに…美少女の理想体型と、体育会系理想体型。それが並ぶとある意味、公開処刑だ。
「そっか、なんか今日はめっちゃ男子がウロウロしてるって思ったら、キミが来ることになってたからかー!!」
とそのショートヘアーの体育会系女子が言う。
どうやらリーダーは彼女なのか。一番ゴリラっぽい人がリーダーかと思ってたがそういうのとは違う大人の風格が…言葉を正しく言うのなら年齢が一番上のような女性だ。先生かと思ったぐらい。
「滝口ィ!窓閉めて窓!」
そう叫んだ。
すると女子がドタドタとプールサイドを走って壁に添えてあるスイッチのようなものを足でベシンと叩いたのだ。
窓が…一斉に曇りガラスへと変わった。
もう外の男子からはゴリラもアメコミのヒーローもペチャパイも2次元から出てきた美少女も見えなくなってしまった。