6 気になる転校生(リメイク) 7

「ねぇ、よく考えたら」
そう俺は言いかける。
俺とナノカ、ユウカはプールサイドへと向かう廊下にいたわけだ。
「ナノカのほうがあたしよりも背が高くて身体も大きいわけだからさ、ナノカの水着を着たらフィットしなくてやばいんじゃないかな」という俺の純粋な疑問を問いかけたのである。
「水着はフィットするから大丈夫。フリーサイズなんだよ」
「え、本当?本当かなぁ…」
水着がフリーサイズってそれはコスプレ用とかの水着はそうなんだけど実際の水着は身体の形に合わせて作られるはずじゃんか。男のもそうだったのに。
「ほら、コスプレ用の水着とかはフリーサイズでしょ?」
ってそっちかよ!!そっちを参考にするなよ!!
ぬぅぅ…冷たくて動きづらい。
でもこの苦痛を超えた先にはプールサイドが、女子高生が、ポロリが待っている。
今の俺の行動力はすべてその欲望だけの為に存在していると言っても過言ではない。室内プールらしき巨大ウィンドウガラスから木漏れ日が入ってくるフロアが俺の目の前に。
どこだ?どこにいる?どこに女子高生が…?!
いな…い…。
「いない!」
思わず俺は叫んでしまった。
「ごめん、今日は筋トレの日だった」
なにぃぃぃ!!!
「男子しかいないや」
ぎゃああああ!!!
俺はジト目でペチャパイ女を睨んだ。
「も、もう、そんな目でみないのー!」
という俺とペチャパイ・ザ・ナノカさんのやり取りを見て、
「レズめ!」
とユウカが言う。
まぁ、普通の男なのです。はい…。
「お、(幽霊部員の)菅原さんじゃないか」
男の声だ。ぬぅぅ…。
男しか居ないプールに用事はねぇ。
「かっこはいりませんよ…」
ナノカはその声の主のほうを見ないで言った。
俺が振り返るとそこには実に水泳部員っぽいマッチョな感じの男がいる。顔もまぁ、それほど悪いわけじゃあ無いけど、いかんせんマッチョが玉にきず。いや、俺は男だからさ、同じ男でも中性的な奴を好むんだよ。マッチョとかしょうゆ顔な体育会系っぽい奴はダメなんだ。性格が合わないんだよね、根暗な俺とは。
あ、目があってしまった。
「…」
男は固まっている。俺のほうを見て固まっている。
「ちょっ…先輩どうしたんですか?なに固まってるんですか?あ、キミカっちのことを見て固まってるという事は一目惚れ?ダメですよ!キミカっちは渡さないんだから!」という菜々香の冗談半分の(若干本気の)言葉も頭真っ白になってるのかその男には届いていないみたいだ。
「あぁ、あ…」
はっとしてる。それから
「…あ、あ、俺、水口明と言います。あ、よろしければ、お、お名前を」
と俺に向かって手を差し伸べて、握手しろっていうのか。
「藤崎…紀美香です」
先輩というからには俺よりも年上なのだろう。
敬意を示して俺は若干角度を出してぺこりとお辞儀をしながら握手をした。しかし何故かそのお辞儀の後、水口先輩は俺に背中を向けて、「も、もし水泳部に入るのなら歓迎するよ!マネージャ募集してるんだ、男子の部のほうだけどね」と言う。
なんだツンデレ
「先輩、ちゃんとキミカっちのほうを見てから話なよ」
と言うナノカ。
タメ口とは、情けなく扱われてるな。
「先輩〜?もしかして恥ずかしいのかなぁ?」と言うナノカ。
俺はもしかしてこいつ泣いてんじゃねーのか?とか思いながら、ぜひ泣き顔の水口先輩を見てみたいと思ったわけだ。女に出会って感動のあまり無いてる男なんて見てみたいじゃないか。
男の前では見せないナヨってる男って奴をさ。
俺は素早くステップを踏んで水口先輩の正面へと回りこんで顔を、
「な、いてない」
泣いてないじゃん。顔真っ赤にしてるだけか。つまんないn…え?
今俺はとんでもないものを見てしまったぞ。
おそらく、俺が男だったとしても、同じ男がプールサイドで…いや、プールサイドだからこそ、そうなってはならない『状態』になっているのを発見してしまった時のような、「おい、馬鹿!なんてことをしてるんだ!!」状態だ。
そう…。
「ちんちん立ってる…」
立ってる。
勃起してる。
男根が空を向いてる。
興奮して硬直している。
「いやぁぁぁぁぁ!!!変態ッ!キミカっちの水着姿で興奮してる!!変態!変態!」「先輩…さすがの私もヒクわ…」とナノカ・ユウカ両名は散々水口先輩を避難する。
俺は男なので気持ちはわからないでもないから何も言うまい。
でも見てからすぐ勃起とかするものなのか?
「ちょっ…立ってねーっつの!立つかよ!」
勃起したチンコを見えないように手でカバーして必死の反撃をする水口先輩。それだけいきり立ってて立ってねーよはないでしょ。
「キミカっち、ポーズ、ポーズして、色っぽいポーズ」
「こう?」
俺は水口先輩の前で両手でおっぱいを鷲掴みにして胸の谷間を強調するポーズを取る。そしたら「お、お、お!!!」と絶えきれなくなったのか水口先輩はそのままプールに飛び込んだのだった。って俺かよ!やっぱ俺のほうを見て立てたのかよ!!
「水口逃げた!あははは!逃げた!」
もうナノカは水口『先輩』などという敬意を示して呼ぶ呼び方もしなくなった。
なんか珍しい動物でも追いかけまわすような目の輝きをしながらナノカは「そっち逃げた!キミカっちぃ!!反対側から挟んで!!」とか言ってる。
なんか面白そうなので俺も付き合うことにした。
プールに飛び込んだ水口珍獣を左側からナノカ、右側から俺がじわじわと責める。
「やめろ!お前ら!マジでやめろ!」
やめろって言われても、これから何が起きるのかこいつは分かっているのか?単に女子高生二人がにじり寄って来てるだけじゃねーか、情けねぇ!
「お、お前らには先輩の威厳って奴を保とうって気はないのか!」とか「来るな腐女子!」とか「ちょっ、君も同類なのか、キミカ君」とか言ってる。
これは散々近寄らせて泳いで一気に逃げるという戦法をする前準備って奴だな。俺は見切ったぜ。一方でそんな作戦を見切っていないペチャパイ・ザ・ナノカはまんまと水口珍獣に近づいた時に逃げられた。
だが水中でも俺の運動神経はいいらしい。
今までカエル泳ぎと犬かきぐらいしかやったことがなかったぐらいの情けない運動神経の俺だったが、水中を魚の如く泳いで、奴の進行方向に立ちふさがったのだ。当然、奴はもう止まらず得ない。珍獣捕獲の瞬間だった。
「うううんんんおおおっっむむ」
と奴は俺の胸の谷間に顔を挟んだ状態で捕獲された。
「うおおおおお!」と、真っ赤になった顔を離す水口珍獣。
「捕まっちゃいましたね」
と俺が言ってみる。水口珍獣との距離はもう10センチぐらい。
でも捕まったのは水口珍獣なのか、それとも今水口珍獣が俺の両肩を掴んでいるわけだが、俺が捕まったのか、見方によっては色々とある。
そこで俺は初めて、生まれて初めて、アニメ以外のシーンにおいて、男が鼻血を出す瞬間というものを目撃してしまった。
プッと鼻から血しぶきがあがったかと思うと、血が垂れてる水口先輩。
おいおい、俺を間近で見ただけで鼻血かよ。
ナノカが俺を見て、
「え、ちょっ…(笑いながら)おっぱい見えてる!!」
おーい!!!
この水着ぶかぶかじゃねーか!!
伸びてるよこの水着!
伸びた水着の肩ひもが外れてて俺のおっぱいがこぼれ出てる。ポロリしてる。ピンク色の乳首が露出してる。俺、興奮した…。
乳首が勃起しそうだったので、俺はそれを水着の中に押し込んだ。
「てや!!」
もう鼻血を出して失神してんじゃねーのかっていう水口珍獣にさらなる攻撃を加えるナノカ。水泳パンツを脱がすという強行に及んだ。
「ちょっと、これ伸びてるよ!!フィットするんじゃなかったの!?」
「フリーサイズってフィットするって意味じゃなかったの?」
「しらんがな!」
俺とナノカはプールの真ん中で立ち尽くす水口珍獣をそのままにしておいて、プールから上がった。