12 優等生の憂鬱(リメイク) 6

「藤崎紀美香です…よ、よろしくお願いします」
と、俺は俯いて自己紹介をした。
プールサイドへ立たされてゴリラのような…いや、人間で例えるのならアメコミのヒーロー(男)のような体躯の女子達に囲まれての自己紹介で緊張していた。人前で話すのは緊張するけれども、それ以外にも脳が何か緊張していると思ったら、いつ乱暴な事をされるのか不安で胸がドキドキしている意味でも緊張していた…。
俯き加減で話す俺の視界には真新しいスク水と小学生のような白くてすべすべの毛一本生えていない肌…そして、大きすぎず小さすぎない絶妙な大きさの美乳の谷間…あぁ…俺はこのスクール水着の美少女達を夢見てここに来たんだけど、まさかここで一番喜べるのが俺自身の女の子の身体とは、まさか神様もそうは思うまい。
「もぉ〜、そんなに緊張しないの!とって食べようってわけじゃないんだからぁ〜」と周囲を和ませる女子水泳部のリーダー。
そしてプールサイドに響く笑い声。
普通、緊張している人に対して言う「とって食べようってわけじゃない」っていうのは「自分らは人間なんだから、とって食べようなんて思わないし、するわけがないだろ?何をそんなに怯えてるんだ(笑)」という意味合いで周囲を和ませる話術の1つなわけだが、この女子水泳部リーダーが言うと「今回はとって食べる回じゃないから安心しな」という意味に聞こえる。そもそもゴリラが人を食べるのかっていうところに遡って考えさせられてしまう…で、あ、ゴリラって草食じゃん?よかった!と思った時にでる安心の笑顔が今の俺だった。
「あはははは…」
乾いた笑いである。
「はーい!質問たーいむ!」
えぇ〜…。
「藤崎さんはカレシいる〜?」
「「「(笑い声)」」」
ジョークとしてとりあえず聞いておくみたいな?
「え、えっと…いません」
「じゃー、彼女はいるのかな?」
「「「(笑い声)」」」
こ、これも定番か…。
「い、いませんよ!」
「前の部活は何してたの?」
帰宅部です」
「あら、どうして水泳部に入ろうと思ったの?」
とリーダーが聞いてくる。
どうしてって言われても、水泳したくてきたわけじゃないし、そもそも水着が見たくてきたんだけど結果的にゴリラの水着しか見れなかったし…それを言えば首の骨へし折られそうだからやめといてェ…かと言って、今から水泳部をどうして志願したのかの理由を脳の中で創りだすまでには創作力があるわけでもないし。
と、俺はモジモジしながらその理由を考えていた。
「あ〜…そーいうのはよくないなー」
とリーダーが言ったのだ。
もじもじがよくない?
「どうせ教頭あたりに、優秀な藤崎さんだから部活はスポーツ系がいい!とか言われたんでしょ?」
あ、当てられてしまった。
「は、はい…」
素直に答える俺。
「なんとなくそーだと思ったよ。そのガタイはスポーツやる系じゃないしさ。ナノカに誘われたんでしょう?スクール水着の女の子が見れるよォとか言われて」
そこまでわかるのかよ!!
「実際に見れてるじゃんかよォ」とナノカは口を尖らせて言う。
「そーやって嫌がる人誘っちゃダメって言ったでしょ?」
叱られているナノカ。
まぁ、ナノカだって誘ったけれど教頭が言うまではしつこく誘ったわけじゃないからな。そこは俺がフォローして、
「教頭先生が言ってきたんです、ナノカは別に何も」
そう言った。怒られる友達を庇う女子高生…そのものだ。
「そうだよォ!!うちは悪くないよォ!!それにキミカっちのガタイを見てそれだけで判断したら痛い目を見るよォ…?」
「へ〜」
「キミカっちはテニスで体育倉庫を吹き飛ばしたんだから!」
テニスっていうか、ラケットでボール(弾)撃ってユウカを懲らしめようとしたらハズれてしまって体育倉庫が懲らしめられただけだけどな。
「そーいうことじゃなくてさ、『好きこそものの上手なれ』『やる気は才能も運も凌駕する』ってね、どんな事でも嫌々やってる人よりも好きでやってる人のほうが優れてるし、今はダメでもそういう『やる気』がある人は死ぬまで続けるし、世界一にはなれないにしても、優れていくものなんだよ。うちはね、水泳の成績がいい女子じゃなくて水泳が好きな女子が欲しいの。そのほうが部としても、本人としてもいい関係が築けるの」
「うちは水泳好きだよォ!!!」
「ナノカが好きなのは水泳じゃなくてスクール水着でしょ?」
「うん、大好き。あ…」
「…」
…。
水泳部キャプテンの女子は俺の肩をポンと叩いて、
「キミも嫌だったら嫌ってはっきり言ったほうがいいよ。教頭は好きか、嫌いかなんて最初っから聞いてこないからさ。あいつは学校の成績が市から認められるかどうかしか考えてないからさ」
嫌なら…嫌と、か。
クラス委員長をさせられた時にも嫌だと言ったんだけどなぁ…。
その時だった。
むさ苦しい男子の談笑する声が更衣室のほうから聞こえてきたのだ。まぁ、最近共学になったんだから男子がいるのも変じゃないけれど、水泳部は女子の水着が見れるからなのか人数は多いっぽいな。
やれやれだぜ…。
俺はテニス部のあのエロキャプテンのイメージが頭の中をよぎり、どうせろくでもないチャラ男ばっかりの部なんだろうとジト目でその声がするほうを睨んでいた。
ん?
あらあら…ずいぶんと…普通の男子だな。
一瞬クラスメートの男子かと思ったぐらいに地味な男子で茶髪チャラ男の多いテニス部とは相対的。普通っていうか男の俺から見ても、性格は良さそうなふうに見える。
もし俺が女の子だったら惚れてしまいそうな、いやいや、変な意味でじゃなくて、男から見ても見た目じゃなくて性格的に好きになる奴はいるもんだって話で…。
ん?
おい、俺、女の子じゃん!!
女の子になってんじゃん!!
いやいやいやいや、俺は心の中身までは女の子じゃないから!!
ただ、男から見ても見た目じゃなくて、性格的に好きに…おいおいおいおいおい!!落ち着け俺!!違うんだ!そういう意味の好きでじゃなくて!!ホモとかゲイとかそういうのじゃなくてさ!!決してそっちの趣味はなくてさ!!友達としての好きって事で!!
などと俺が困惑していると、その男子水泳部の部員達も俺を見ているのだ。それは当然の事で、俺が水泳部部員だったとしても2次元から飛び出してきたような美少女がそこにいれば見ても当然だし、
…でもなんだ、この『間』は。まるで雷にでも撃たれたかのように男子達は一点を、俺を見つめている。
「あははは!!何じっと見てるの!!」「やだ!いやらしー!!」「やっぱ藤崎さんが可愛いからかー!!」
すると何を思ったのかゴリラどもは、あ、違った、女子水泳部員どもは俺の身体をひょいと軽々しくお尻のほうから持ち上げると、今しがたプールサイドに入るか入らないかで止まっていた男子部員どもの前に持っていった。そして立たせたわけだ。
「ほーれほれ!可愛い女子部員が入部したよォ?」「何顔真っ赤にしてんの!!ちょーウケるんだけど!」「あら、部長、緊張して動かないみたいだわ!!めちゃ面白いんだけど!!!(笑)」
男子部員どもにとってみればさらに間近に見える華奢で可憐な美少女の身体が自分達の近くに、肌から発せられる熱が肌で感じ取れるぐらいの近さにある。そして部長と呼ばれたその男子の肌から発せられる熱が空気を伝わってから俺にも届く。
「あ、えっと…藤崎…です。よろしくお願いしm」
と俺が言いかけた時、調子に乗った女子部員は俺のか細い両腕を後ろから掴んで前にグィッと押す。すると腕に押された胸が、美乳が、水着に谷間を作るのだ…俺ですらその変化に興奮して顔を赤くするほど…女って奴はそういう男の気持ちはわからないのか、わからないだろうな!!
強制的にその美しいおっぱいの形状変化を見せつけられた男子水泳部部長は、身体は手も足も動かさないのに一部だけ見事に動かし初めた。というより、思いっきりその部分は水泳パンツを上に上に押し上げたのだ。まるで蛇の頭が、いや『亀の頭』がヌゥっと空へ向くように。
「ひっッ!」
ここへ来て初めて女は今、自分が何をしてしまったのか悟る。
おおかた人型のゴリラなので男性との経験もそれほどないのだろう…まさか男性の3本目の足が天に向かって自動的に押し上がるだなんて知識は持ってないんだろう。
「お、」
男子は言う。
「お?」
俺は答える。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
叫びながらその男子はプールサイドからプールに向かって激しくジャンプした。そして水しぶきを上げながら飛び込んだのだ。他の男子もそれに続いてどんどん飛び込んでいく。そりゃそうだ、股間にチラと視線を向ければ思いっきり勃起してた。勃起してるのが女子に見えないうちにプールに飛び込んだほうが懸命だ。
再びゴリラ部部長は俺をひょいと抱えるとゴリラ部員達の元へと持って行き、置いた。そして一言、
「この兵器は強力だ…」
そう言った。
と、その時だった。
ニンマリと笑いながら教頭がやってきたのだ。
「えー、みなさん、揃ったようですね」
「教頭先生〜…藤崎さん、嫌がってるのに無理矢理水泳部に入らせたんですってね」と睨む女子水泳部部長。
「まぁ、そんな事はさておき、とりあえず籍をおいて貰えばいいんですよ。別に水泳をしなきゃいけないわけじゃないし、何も部活に入ってない、っていうのが悪いだけです」
と重ねあわせた手をスリスリ摩擦させながら言う。
「それじゃ幽霊部員ってことじゃないですか」
「それならご心配なく。既に幽霊部員もいるじゃないですか」
って、ナノカの事かよ!テヘペロじゃないよったく…。
「そりゃそうですけどォ…」
「顧問の先生も幽霊ですしね」
教頭はそう言った。
そういえば部員が揃ってるのに顧問の先生はいない?
「というわけで、今日から顧問の先生は優秀なるクラスの担任である石見圭佑先生にしていただくこととなりました!!」
「え、ちょっ、そんなのありなの?!上林先生は?!」
「え〜っと、上林先生は…」
その時だ。
ミシミシと地面を歪ませるような重力波を放ちながら、デブが、ケイスケが、担任…プールへとやってきやがったのだ。
「上林先生は生理休暇ですにゃん」
「上林先生は男なんですけど」
「男の生理ですにゃんォォァァ!!」
なんだよ男の生理って…。
「男で生理があるなんて聞いたことないです」
ジト目で睨む水泳部員部長。
「男の生理っていうのは、可愛い女の子の前で興奮すると発生します。さきっちょから白い液t」
「おいおいおいおいおい!!」
「キミカちゃんは可愛い!!ハァーハァー!!まだ乾いている水着から洗濯の洗剤の香りがほのかに漂ってきてハァハァ!!これがプールで泳いだ後は濃厚な塩素の香りに…ハァーハァー…ティヒヒヒ…で、水泳部の可愛い女の子達はどこですかぉ?」
俺がとりあえず座っている女子部員を目だけで合図をしてケイスケに教える。ここに、水泳部の女子部員達が、
「う、うわぁぁああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁ!!ゴリラとアメコミの男のヒーローがスクール水着着てるォォォアァァァ!!」
やると思った。
女子水泳部部長は顔の表情をニッコリしたまま変えないで、親指を立てるとそれを首の前で左から右へと横一文字に動かした。
そう。
ゴリラ達に『殺れ』と指示を出したのだ。
俺は体重が200キロはあるかと思われたケイスケ・オブ・ザ・ファットマンがいともたやすく女子部員達に抱えられて、2、3メートルほどの飛距離を出しながら盛大にプールに投げ込まれる光景を、俺は震えながら、目を点にしながら見ていた…。
…あの時、ゴリラって叫ばなくてよかったァ…。