12 優等生の憂鬱(リメイク) 4

放課後、ナノカに連れられ…というか、逃げようとしたところを見つかって引っ張られ、強制的に水泳部のメイン陣地である室内温水プールへと連行されることとなった。
俺はあえて再び言わせてもらうが、中身が男の子でありながらも外側は2次元から飛び出してきたかのような美少女にされてしまっており、クラスメートの男子からですらあの人気の多さなのだが、学校としてもかなりの人気のようで、俺が水泳部に入部するというニュースは電撃のように学校中を駆けまわったわけだ。
その結果がどうなるかは想像に難くない。
まだ俺が室内温水プールに入ってすらいないのに、既に外を男子がウロウロしているのだ。
ちなみに、俺は漫画の中では幾度となく「美少女、美男子がモブキャラに人気になっている様」というのを見たことがある。そのどれもが窓を埋め尽くさんばかりにモブキャラがワラワラと沸いて、部活動を営んでいるという美少女・美男子を観察している。
歓声を上げながら。
しかし現実というのは意外にもそのような歓声はないし、窓を埋め尽くさんばかりに貼り付いているということはない。
それは男の俺ならわかる。
もし美少女がプールで泳いでいたら見に行くか?と問われればもちろん見に行くし、ヘタすると目に焼き付けて家まで持って帰った後、ゆっくりと今晩の別の意味でのオカズにしてしまうだろう。しかし、窓を埋め尽くさんばかりに貼り付いて見るかと言われればノーだ。そんな事をしたら恥ずかしい。歓声をあげるのももちろんしない。
その結果、目的を果たそうとするが目立たないようにする…という方法を選んでしまい、結果的に俺は、その手段を選んだ男達の異様な光景を目の当たりにすることになる。
プールの周りには男子がウロウロしている。
が、彼らは笑顔一つ見せず、まるでサバンナでハイエナが獲物を追いかけ回す時のような顔をして動き回っている。笑顔なんてあるわけない、飢えだ。飢え。性欲に飢えた野獣が、しかも確実に獲物を奪うだけの能力のない、残りものをあさりにくるタイプの野獣が、プールの周りにウジャウジャいるのだ。
あまりの異様な光景に、これから部活でプールへ向かうであろう女子達が道端を歩いているヤク中でも見るかのような目で警戒しながら温水プール施設へと入っていく。
そう、見覚えがある…あの男達の目、あのいやらしい目は、露骨にいやらしい目は、俺は一度、大分県別府の泥風呂で見たことがある。
泥風呂は女・男で別れてはいるものの、地獄めぐりの一つであり、それが天然の風呂になっているだけなので女性と男性を分けるような面積はない。で、地元の人は女性・男性の間を竹で作った小屋のようなもので分けたのだ。つまり簡単な小屋で女風呂を囲っただけの混浴である。
ちょっと風呂の周りを周回すると女風呂に浸かっている女性たちの姿が見える…が、泥風呂なので肩までしか露出することはないけれど。それでもハイエナのような目をした男達は何度も何度も何度も露天風呂の周囲を周回して、今夜のオカズ探しに念入りであった…。
「はやくはやくー!もうみんな集まってるよ〜」
と俺の手を引っ張って歩くナノカ。
そして、その声に反応して俺のほうをチラ見する男達。「俺は見ていません、通りすがりでたまたまプールが見える位置に来てしまっただけです」という顔をしている。談笑している男子グループもあるが、俺と目が合いそうになると素早く目を話して談笑して誤魔化している。
ヤバイ。
ヤバイぞコレ。マジでヤバイ。
「なんか今日ヤバイって」
「どして?」
「やばいよ。男子がいる」
「世界の半分は男だよッ」
「いや、そうだけど…その密度が温水プールの周りだけ多い」
「だぁーいじょうぶだーいじょうぶ。見られるのはキミカっちだけでウチとかおっぱいが小さい女の子は見られることはないのだー」
全然大丈夫じゃないじゃんかよ。
受付でIDカードを通す…これは部員でなければ通らない。が、既に俺の生徒IDカードは水泳部の部員登録がされているので簡単に通ってしまった。これから每日ここにこなきゃいけないのか、クソッ…。
「ささっ!水泳部の水着姿が拝見できるエリアだよォ!!キミカっちもそういうのが目的だと思って水泳部に来ればいいんだよォ」
「そ、そうだね」
そうだ。そうなのだ。俺は前の高校では見ることが出来なかった高校生女子の水着姿が拝めるのだ。…でも、それってプールの周りに居たあの変態ハイエナ野郎どもと同じじゃね?
いやいやいや、間近で見れるのが違う。
俺は近いんだ!!
近いか遠いかは重要じゃないか!!!
…などと考えているうちに、既に更衣室に来ていてナノカに服を脱がされている。エロゲのシチュエーションなら、布擦れ音がしてナノカが服を脱いでいる、というのが正統派なのだが、ナノカは服を着たままで俺がナノカに『服を脱がされている』
『俺が』『脱がされている』。
目の前でクラスメートの女子が、鼻息を荒くして、俺のブラウスを脱がしている。なんていう最悪なシチュエーションなんだ。
…あ、ハイエナの目だ。
「ちょっ、ちょっと…ナノカぁ…そんなにジロジロみないでよ」
「男子達が望んでも望んでも手にはいらない、キミカっちの白い柔肌がいま、ウチの…ウチだけのものに…」
「おーい…」
ダメだこいつなんとかしないと。
と、突然ナノカは俺のおっぱいの谷間に顔を填めたのだ。勢いあまってブラの肩紐がハラリと垂れて、片方のおっぱいが露出する。
暖かい、というか熱い空気が胸の谷間から背中に掛けて広がる。
「んふ、ふご…おっぱいが、ぉっぱぃが…く、苦しい」
「ちょっ、やめてってば!」
ナノカの頭を持って引き剥がす俺。
「ちょ、ちょっとだけだから、ちょっとだけ乳首吸わせて」
おい!!
「ダメに決まってんじゃん!!ここでちちくりあってたら部員の誰か来て見つかったら大変な事になるよ!!」
「いいの!ウチはレズビアン公認されてるから!!」
「いや、それはかなりヤバイでしょ…既に。それよりナノカのおっぱいを触らせてよ(さわさわ)…あれ…ない?どこにもない」
「…」
そうこうしていると部員なのだろうか、ジャージ上下の年上っぽい女性がやってきて、袋を俺に手渡したのだ。
「これ、水着。ほら、ナノカ、なにちちくりあってるのよ。邪魔しないで。ミーティングするから早くプールサイドに来てね」
って、ナノカ、まだ俺の水着が無いのに服を脱がしにかかってたという事なのか!!何してんねんこの人!
「はぁ…残念。キミカっち。早く着替えて行こ」
「うん…え?」
ナノカがブラウスを脱ぎ始めると…既に下に水着が。
「水着をしにきてたの?!」
「だって面倒くさいんだもん」
「帰りの下着とかは?」
「ノーブラ」
「…ノーパンツ?」
「それは、ヒ・ミ・ツ♡」
おいいいいいいいいいいいい!!!俺は女子高生がノーブラ・ノーパンで帰宅しているという事実を知らなかったァァァァ!!!そうか!そうなのか!そういう人もいるのか!!よし、今度からそういう目で通りかかりの女子高生たちの見ようゥ…。
「ほら、はやく着替えて」
…それから数分後。
「ナノカ、本当におっぱい無いね…」
「貧乳はステータスです!!…ちょっ、キミカっち!ウチの隣にこないで!公開処刑になっちゃうでしょ!!」
鏡の前で水着を確認する。
スクール水着とはちょっと違う。ハイレグ具合とかそういうのが。それから、アンダルシア学園のマークが右胸のところにある。公式水着っていうやつなのかな…にしても、
「エロい…」
「ふふふ…キミカっち、水着の魔力に取り憑かれちゃったようだね」
「これは、写真に収めて家に帰ってからオカズにしましょ」
「お主も悪よのう…って、自分の水着姿で興奮するの?」
「…ナルシストなもので…」
「…」