12 優等生の憂鬱(リメイク) 3

俺はイライラしていた。
水泳部への編入が決まってしまったからだ。
どれもこれも、全部、俺がクラス委員長になってしまったところを起点にして始まっている。エロゲで言うところのクラス委員長ルートになってしまっている。まるでクラス委員長の可愛い女の子とエッチシーンに突入しそうなルートだけれど、残念な事にそもそもヒロインなんておらず、俺がその可愛い女の子である。
そのイライラは、ただでさえ肉類などの楽しみが薄いアンダルシア学園のビュッフェスタイルの昼食に向けられる…。
ったく、なんだよ今日のは…肉が全然無いだろうが…いくらアンダルシア学園の女子どもが健康志向でダイエット志向だからか知らんが、野菜やらジャガイモやら豆やら得体の知れない海外の何かやら…こんなに肉が少ないと成長期にある身体にダメージを与えてしまうし、血管とか脆くなってプッチンキレて死ぬぞ。
その濃い味が殆ど無い寂しい昼食の中から、俺は苦心のアイデアでマッシュポテトと麻婆豆腐をミックスさせるという荒業を編み出し『マッーボーシュポテト豆腐』として皿に盛りつけていた。
ちょっとタレの多めで辛いのが苦手な人は敬遠してる麻婆豆腐だけどこうやってマッシュポテトと一緒に食べるとほら、辛さも抑えられて食感も楽しめる…ってこんな事やってる場合じゃない!!
「やだ何それ。小学生の男子がやるような事しないでよ、汚い」
と、ユウカが言う「やだ」のところで俺は凄まじい速度(0.5秒)でユウカの皿の上に「そんなに欲しかったら分けてあげるよ!」と放り込もうとしたところを回避され、テーブルの上にベチャッと『マッーボーシュポテト豆腐』は落ちて強烈な臭いを放ち始めた。こいつ、ドロイドバスターの俺の反射速度を超える速度で回避行動に出るとは…やるな…。
「ちッ…俊敏…」
「『やだ何それ』の『や』を言い掛けたところぐらいから、キミカが小学生のような行動を取ることは予測してたのよ」
「ん…だとゥ?!」
「小学生みたいな盛り付けしてるから、それを言ったら小学生みたいな反撃を仕掛けてくるだろうから、あえてその前に皿を除けたの。すると案の定、小学生みたいな攻撃を仕掛けてくるじゃない」
「クソッ…あたしはユウカの手の中で踊らされてる」
「踊らされているといえば…アンタ、とうとう部活をすることになってしまったわね。なんか本当にブーメランになってるわよ」
「ぶ、ブーメラン?!」
ユウカはサラダの中の豆をフォークで突き刺してその大きな口に似合わずチョコンと放り込んでモグモグしてから、
「そうよ。やってることが裏目になってるじゃない?」
ぐぬぬ
言えない…言い返せない。
「でもよかったじゃん、キミカっち」
と言ったのはナノカだ。
相変わらず片手で掴める程度のサラダと、両手では収まりきれないぐらいの量のケーキを取ってきている…見ている俺は見ているだけなのに気分が悪くなりそうな程の甘食である。
「何がよかったんだよ!!全然良くないよォ!!」
「これであたしと同じ水泳部だよォ〜ん」
「何がいいのかわからないよ!」
「お揃いだしィ」
俺は「何言ってんのお前?」というのを声に出さず表情だけに留めた。もう声に出してもあまり意味がないのはニコニコしながらケーキを頬張るナノカを見ていればわかる。
ユウカは言う。
「このまま放っておいたらダラダラと帰宅部になってたんだから、結果的によかったんじゃないの?」
帰宅部をナメないでくれるかな?…帰宅部のインターハイがあって、いかに早く帰るかというところに着目して日々それに向けての練習をしてるんだよ。みんなが教室の掃除をしてる時に誰からも指摘をうけずにこっそりと帰り支度をして、外の掃除をしている人がいる中で気付かれずに校門を出る。帰る途中で飲み食いとかは厳禁。友達の家に寄るなんてもってのほか。交通機関に車、自転車、徒歩、バス、電車…自分に合う最速のルートを選ぶという頭も使うスポーツだよ。もちろん、制服姿で荷物も持って最速で家に帰るわけだから普通の運動部みたいに動きやすい格好じゃない、だから体力もつく。途中で寄り道がしたいという欲求との戦いを続けなければならないんだから実は精神力がものをいうスポーツと言われていて海外でも一目を置かれているんだよね」
「みんなが掃除を、まで聞いたわ」
「おーい!」
「結局部活するような根性なくて、友達つくるような器量もなくて、休み時間とかは机に突っ伏して寝たフリしてて、一秒でも早く学校から脱出したいとか考えてる人が帰宅部に入るんでしょ?学校がつまんないとかプライベートを大切にするとかそれらしいカッコいい理由をよく聞くけど、ようは『社会不適合者』予備軍じゃないのよ。会社に入っても仕事も出来もしないくせに時間になったらさっさと帰って他の人に迷惑掛けるだけだよ、別に高校の時だけの話じゃないわ」
「こォンのヤろゥ…」
帰宅部なんかやめなさい。青春を謳歌するのなら部活よ。それもスポーツ系の部活。健全な魂は健全な肉体に宿るのよ。健全な青春は、健全なスポーツに宿るの!!」
「青春(笑)を謳歌(笑)」
「いちいち『カッコワライ』を入れるな」
「今どきダサいよー!あはは」
「どうせ家に帰っても何もすることがないんだから身体を動かしたほうが健全だって言ってるの。大人になったら嫌がおうなしに每日身体を動かさない日々になるんだからさ。鍛えるなら若いうちよ」
…ったく、お前はおばあちゃんかよ。
俺のおばあちゃんなのかよ。
それに家に帰って何もすることがない、って勝手に決めつけてるところがまたイラつくな…。
「自分が家に帰っても何もすることがないからって、他の人も自分と同じだって決めつけないように!!…ま、ユウカの足りない脳味噌を頑張ってかき集めてもあたしが家に帰って何をするのか、想像することはできないでしょうね!!あたしは色々やることがあるんですゥ!」
「どうせご飯食べてトイレいってお風呂入ってからネットにゲームに1人でイヤラシイ事をして疲れたところで寝るんでしょ」
「だいたいあってる」
「あってんじゃないのよ!!」
と、ここでナノカが再び間に割って入る。既にナノカはケーキを平らげてコーヒーをシメとして飲んでいたところだった。
「水泳部に入ったら女子のスクール水着見放題だよォ〜!見放題♪見放題♪見放題♪見放題だぉ〜!」
スクール…水着か…。
見たいかと言われれば、見たい。
スクール水着というのはブルマや体操着とは比べることが出来ないほど、学生生活の中で一番、肌が近い。裸に近い。簡単な布切れのすぐ奥に、肌がある。まだ成長期の…みずみずしい柔肌が。
(ゴクリ…)
しいて言うのならその肌は水に触れ、同じ水に間接的に触れる事になる。つまり、間接…セックス。俺は中学の時に、プールの中でオナニーしたら精液が間接的に水から女子のアレにアレしてアレになってアレしちゃうんじゃないかと妄想したぐらいだ。
見たいさ、見たい、あー見たいなー。至近距離で見たい。目に焼き付けたい。というかカメラとかに収めて保管したい。全ての男の夢と言っても過言ではない。
「その全体の筋肉が緩んだ何物にも例えようがない最悪な表情をやめなさいよ、食事が喉を通らなくなるわ」
「(ジュル…)」
俺としたことが、妄想に胸を時めかせて涎まで垂らしてしまった。
コーヒーをお茶のようにズズッと飲み干してナノカは言う。
「秋の野に、咲きたる花を指折り(およびおり)、かき数うれば、アヘ顔の花…」