156 安倍ちゃん 6

最初の目的地である京城キョンソン)空港へと到着した。
空港では敵国ながらもファンなどが詰めかけていて…っていうのが正直信じられないけど、本当に日本国旗を持って降っている人達が何人か居て、朝鮮・日本両マスコミがそれを映像に収めている。しかし右翼系マスコミはピリピリと張り詰めた表情でカメラの前に立って総理が朝鮮のキョンソンへと降り立ったと実況している。
普通、日本だと芸能人にしてもスポーツ選手にしても空港のターミナルビル内を闊歩するものなのだが、空港の外に待ち合わせている車まで歩いて言ってくれなどと下手くそな日本語で通訳の朝鮮人が話しているのでどよめきが起きている。
どうやら、事前打ち合わせのストーリーとは違っているようだ。
「あたしはターミナルビルのほうを行くんで〜」
と真っ先に言い出したのはビッチの野郎だ。
どうやらコイツは中央軍関係者らしい。軍関係者でも勲章がついてる感じの人が「護衛なんだから総理の側にいてくれ」だとか「ターミナルビルには何もない」などと言って引きとめようとするもワガママビッチ野郎はそれを振りきって、
「こんなだだっ広いところでテロリストに遭遇するわけねぇだろ、あたしがビルのほうに潜んでるかもしんない狙撃手とか殺してきてあげるッツってんの!」
ズガズガと進んでいった。
そこで俺もなんだかそっちのほうが面白そうだと思ってわけだ。
なにせ総理の安倍議員の側にはイチもいるし公安の連中もぴったしくっついている。ここでテロリストに襲撃されても死体の山が出来るだけだろう…テロリストの。
「あたしもなんだか嫌な予感がするからターミナルビルのほうへ行ってくるね」
「お、おい!」
「んじゃ!シクヨロ!」
颯爽と笑顔でダッシュする俺。
平日の昼間だからなのか飛行機の離着陸はそれほど多くはないようだ。
ソンヒが話していたのと同じような音調の朝鮮語が至る所で聞こえるような場所、飛行機のドックとなっている倉庫へと俺は入っていく。あのビッチ野郎の後ろをくっついて歩いているくまのぬいぐるみ(田中くん)の後ろ姿を追っていくとドックに来たからだ。
エレベーター前でぬいぐるみ野郎は俺を見て訝しげな表情をする。
すぐにビッチが俺に気づいた。
「オマエ!なんでついてくんだよ!」
「たまたま方向が一緒だっただけでしょ!」
「ついてくんな!マネすんな!」
「誰がマネしてんだよ!くそビッチ!」
「ビッチじゃねぇッつぅの!!あたしにはちゃんと児島多恵(こじまたえ)って名前があるんだよ!男に諂うAK47気取り女!!」
なんで男の俺が男にへつらわないといけねぇんだよ。
俺のこの可愛らしいセクシーな格好は女には相当気に触るようだな…。
「あたしにも藤崎紀美香って名前があるんだけど」
「キミカ?…あ!もしかして、ドロイドバスター・キミカ?マジでェ?!」
「あ〜…そのDQNみたいな反応やめてくれないかな、寒い」
「え!ウッソ!超ヤバクない?!初めて見た!え?なに?ここで何してんの?朝鮮のファンの前でコンサートでも開くとか?」
コイツマジでドロイドバスターキミカっていうのをアイドルか何かだと勘違いしてんのか?ヤバイのはお前の頭の中身のほうだよ、マジで。
「開くわけないじゃん…護衛だよ護衛、総理の護衛」
「うわ、何それ超ダセェ…」
「おいおいおいおい、アンタも護衛でしょうが」
そうこう話してるうちにエレベーターシャフトが降下してきたので二人プラス一匹のぬいぐるみが乗り込む。
「軍の依頼で護衛しろって来たんだよ、仕事あんのに…ったく、なんでこんな貧乏で臭い国にあたしが行かなきゃいかねぇんだよ、マジ、信じらんねぇ〜」
仕事って、なんかその喋り方だとか服装を見る限りキャバ嬢とかバイトとかやってそうな雰囲気だ…。しかしあえて俺はここでは何の仕事をしているのかは聞かないでおこう。事を荒立たてるような行為を避けてると…?違うね。どうでもいい情報だからだよ。便所の紙をどれぐらい使ってケツを綺麗にしたかっていうぐらいにどーでもいい情報なんだよ。
二人プラス一匹は職員用の廊下を進んで、ようやく、一般客が行き来するであろうロビーへと出てきた…が、平日だからなのか閑散としてる。
「今日は休みなんじゃないかな。テロの危険性もあるから人を入れてないとか」
「貧乏人ばっかりだから旅行に飛行機使うとかねぇーんじゃねーの?」
あながちありえない話でもないから怖い。
数多く並んでいる休憩用の椅子はガランとしており、巨大な窓ガラスから外を眺めると旅客機やら軍の輸送用航空機が行き来している様が…時々見える。
「あ、人いるじゃん」
「マジだ。…何してんだ?」
今まで人が居なかったのはこのロビーに集まっていたからか、っていうぐらいに沢山人がいる。取り囲むようにした円の中では大道芸人のような連中が華やかさのない顔で立っている。その側には鶏が何故か何羽か足に紐を付けられた状態でコッコッココ鳴いてる。
「日本国旗…だよなぁ?」
「ん〜…?」
さっき総理や議員を囲んでいた人達とは日本国旗が随分と…異なるようだが…なんだろうか、日本国旗の赤丸の部分がちょっと形が崩れてるんだけど、コイツ等、本物の日本国旗を見たことないんじゃないのか?みんな形が…
「ウンコ…の形してんだけど…」
「…」
ウンコ…の形の日本国旗…?
おいおいおいおいおいおい!!
おーい!!
間違えてるよ!いや、間違えたのか?!わざとか?!
次の瞬間、俺は国旗の赤の形も、そしてこの朝鮮人達がなぜここに集まっているのかも、全てを悟ることになった…そう、朝鮮人の一人は飾られてる日本国旗を引きちぎったのだ。
引きちぎって床に叩きつけて足で踏んでグリグリと捻っている。
ある者は引きちぎるとそれを口に加えてガンジガンジと歯で噛み締めて、おそらくは粉々にしてやろうとしたんだろうけれども、布地がやたらと硬いのか途中で嗚咽して大量の涎と共に日本国旗を吐き出すという醜態を曝け出す。
ある者は日本国旗を引きちぎってケツの穴にそれを突っ込んで笑いをとっている。しかし、途中でそのケツの穴に突っ込んだ国旗を別の奴が手にとって口に突っ込んでガンジガンジと噛んだもんだから途中から大量の涎と共に嗚咽をする展開になる。
「なん…だよありゃぁぁ!!」
「マジキチだ…!!」
それから鶏である。
どうして鶏をここに連れてきたのか、ナタのようなものを取り出したからあーあ、やっぱり…と思ったんだよ。この連中、連れてきた鶏の首をナタで撥ねたのだ。
首の無い鶏はしばらくの間、ビュービューと血をまき散らしながら走り回ったあげく、捕まえられて、大道芸人のような珍妙な集団の一人がその首から食らいつくというドン引きなアクションをやってみせた。
日本国旗はあんまり関係ないっぽい…。
しかし民衆は大興奮である…日本でこんな事をやったら通報されてお巡りさんに連れて行かれる事間違いなしなのに。…って、お巡りさんらしき奴も大道芸人の側にいるじゃないか。
こいつら見張ってるのか?!
公認で血なまぐさい芸をやってんの?!
すると、警官の一人はライターを取り出して、先ほど散り散りに転がっている避けた日本国旗に火をつけるじゃないか。
「馬鹿にしてんのか?!」
キレるビッチ…いや、タエ。
火をつけるのは国旗だけじゃない。総理の顔写真やら、安倍議員の顔写真やらを貼り付けた藁人形のようなものにも火をつける…空港のロビーでこれよ見がしに火をつける。
それを見て周囲の連中は大笑いしたり叫んだりなどマジキチの沙汰だ。
すると、興奮した朝鮮人の一人の男が突然、上半身素っ裸になったのだ。
何をするのかと俺もタエもハラハラしながら見ていると、男はカッターナイフを取り出して自らの貧相なお腹にかる〜く線を入れるじゃないか。
すーっとナイフにより線が入ると、案の定、血が少しだけたれる…。
これ、切腹
日本の侍の切腹っていう文化を真似てんの?!
「可愛らしい切腹だねぇ〜…」
と、俺が言っていた時、もう隣のビッチ、いやタエは完全にブチキレ状態。
切腹の仕方しらないんだったらウチが教えてやんよ!!」
言うが早く、ヤツの部下である田中くんことくまのぬいぐるみが猛スピードで群集の中に飛び込んで行くではないか…途中から見えなくなったけれども、パフォーマンスをしていた連中のところにヒョッコリ現れると、『ハラキリ』パフォーマンスをしていた男のお腹に一閃。
パクゥっと肉が割れて血はしばらく出てこなかった…しかし、ピンクだか紫だかの内臓の塊がデロンデロンとお腹から地面へ転がり落ちてくるではないか。男は大慌てでその臓物をもとの位置に戻そうとかき集めようとするが、無残にもくまのぬいぐるみが包丁で焼き肉のホルモンのように食べやすいサイズに切断している!!
「な、なにやってん、」
「エクストリーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーム!!」
田中くん(ぬいぐるみ)が興奮気味に顔を真っ赤にして叫ぶ。
「見つかったじゃんかよ!」
「ッベェ!!逃げろ!!」
言葉が通じなくても分かる…朝鮮人達は俺達を見るなり、凄まじい怒声を上げて追いかけてきたのだ…もうこれは逃げろってことだ。
逃げた。