157 土下座外交 2

会談は中止となった。
SP達と共に部屋を出て颯爽と歩き去る安倍議員と総理。その後を追う俺の横でタエが大笑いしながら俺にPSPの画面を見せる。
「マジでチョーウケるんだけどォォ!!!これ見て!!凄い勢いでテーブルの上に乗って土下座してる!!!マジ!これ凄すぎ!!!」
「見たよ見た見た、あたしは生で見たよ。振動でテーブルが少し揺れてMBAが壊れるんじゃないかって思って慌ててしまったぐらいだから」
すると手を叩いて大笑いするタエ。
横を歩いているくまのぬいぐるみである田中くんは言う。
「あれだけ普段から日本を嫌っててボロクソに言ってるのに〜いざって時には土下座までして頼ってくるんだよね〜本当にプライドが無い奴は恐ろしいね〜キシシシシシ…」
肩をピクピクさせながら笑っている田中くん。
すると廊下の奥のほうから血相を変えて大使館員と朝鮮の政府関係者が数名走ってこちらへやってくる。総理や議員を初めとしてSPへ、
「急いでください、デモ隊がバリケードを突破して政府軍と衝突しています!」
そう叫んだ。
ビルの窓からもデモ隊の姿が見えている。
国旗を燃やしたり総理や議員の写真を燃やすのは今に始まったことではないが、それに加えて火炎瓶を投げつけたりもしている。政府軍や警察は催涙弾などを群衆へ放ったりして食い止めようとはしているが、バリケートの準備ができていない箇所からどんどん群衆が入ってくるのだ。
総理はニヤリと笑ってから、
「昨日までは日本国旗が振り回されてたのにな、交渉が失敗したと判断するとコレか。なるほど随分とわかりやすい民度だ」
そう言い放った。
みんなで一斉に廊下を走る速度を早める…急いで脱出して空港まで急がねば、ビルを取り囲まれたらヤバイぞマジで。と、俺も思って走るのに合わせたその時だった。
突然幼女(安倍議員)がお腹を抑えて立ち止まったのだ。
「おいおいおい!マジでぇ?!タイミング悪すぎくない?!」
タエが幼女の元に駆け寄って言う。
「ぽんぽんぺいん…なのだ…いまさら昨日のアイスクリームが効いてきたのだ…」
SPが言う。
「キミカさん、タエさん2名で議員をトイレへ連れてってください。その間、我々が退路をキープしておきますから」
マジでぇ…。
「ほら、いくぞ」
まるでお姉さんのようにタエが幼女(安倍議員)の手を引っ張ってトイレへと連れて行く。俺も渋々その後をついていく…。ったく、タイミング悪いウンコだなぁおい。
それから1分ほどでトイレへと到着し、
(カサカサ、シュルシュル)
という布擦れ音が響いた後、
(ギュルギュル…ぶぴゅるぅ〜)
というウンチの音が聞こえてくる。
げぇ…。
自分のウンチ音は気にもしないのに他人のはめっちゃ気になるわ。
その音を聞き臭いを嗅いだくまのぬいぐるみ田中くんは「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」というハデなリアクションをとってから…っておいおい、なんて失礼なんだよこの野郎は!!そのままトイレの床にひっくり返って身体をピクピクと痙攣し始めたぞ。
「はぁぁぁぁぁぁッ!!」
そう叫びながら俺はダッシュをキメると田中くんの腹に向かって蹴りを入れる。もちろん途中で包丁でガードされそうになるがブレードでそれを払いのけて、蹴りがお腹にヒットするよう手伝って、そのまま廊下まで田中くんを蹴り飛ばした。
「てンめぇナニすんだよォォ!!!」
廊下でPSPしながら待っていたタエが、血相を変えてトイレ内へ入ってくる。
「レディに対して失礼な事をする輩を始末しただけ」
と、俺は刀を仕舞いながら言う。
「っていうか!蹴ってんじゃねぇよ!人様の人形をォ!!」
その時だ。
外で銃撃の音まで聞こえ始めたのだ。
誰が発砲し始めたのかは知らないが、政府、民衆、双方から聞こえてくる。そもそも朝鮮では民間人が銃を持つことが認められてるのか?
一斉に双方が逃げ出すという混乱状態になっている。
「安倍ちゃん!急げってば!!」
タエがトイレのドアをノックしまくる。
「や、やめろ…やめるのだ。慌てて腸内にウンチを残したままお尻を拭いたら、拭いても拭いてもトイレットペーパーにウンチがつくという無限ループに陥ってしまうのだ」
「いや、まぁそりゃわかるけどさぁ!!今の状況チョーヤバイんだけど、肛門のウンチがどうのこうの言ってる場合じゃないんだけどォ?」
「そういう時はケツにトイレットペーパーを挟んで次のクソに備えるんだよ!」
「お!キミカ!オマエ、それナイスアイデアじゃなくない?!安倍ちゃんやってみなよ!ケツにトイレットペーパー挟んでさ!生理とかの時はそれやってたんだよ、あたし」
聞いてねぇよそんなの!
「わ、わかったのだ…まだ残糞感が残るけれども、それで耐えてみるのだ」
それから布擦れ音とトイレットペーパーをカランカラン回す音が響いた後、顔を真っ赤にした幼女(安倍議員)がドアを開けて登場する。
「くぅぅ…これ、もしスカートからトイレットペーパーがしっぽみたいに伸びてきて、誰かが踏んづけたら思いっきりパンツもスカートも持って行かれそうな気がするのだ」
「つかどんだけケツにトイレットペーパーハメたんだよ…」
それから猛スピードで議員のお手手を洗わせてダッシュで車まで向かわせた。
時間にしてみれば2分かそこら、だが、朝鮮の警察や軍がやる気がないのか気合が入ってないのかそもそも最初っからデモ隊が防げないというストーリーだったのか知らないが、もう1ブロック間を開けた道路には民衆が押し寄せていた。
リムジンに乗り込む俺とタエと安倍議員。
「くぅぅ…今走った衝撃で残糞が出た感があるのだ…うまくトイレットペーパーにキャッチされていたらいいのだが…早く飛行機のトイレで綺麗に肛門を洗浄したい…」
わかったわかった…わかったから…。
幼女だからって下品な事をツラツラ並べないでくれよ…。
民衆が押し寄せて来るのは空港方面からだ。だから俺はこの車がどっちに向かって走るのか気になっていたが、遠回りで空港へ向かって待機状態の専用機へ乗り込むらしい。要人を乗せて走っているという意識が殆どないような状態で運転手である軍人は手荒に車を運転し朝鮮の道路を走る。空からはヘリの音が聞こえてくる…アレがもし政府軍側ではなく群衆側だと思ったら今にも攻撃してきそうで恐ろしくなる。
俺やタエが助かっても恐らく運転手の軍人も議員もミンチになるだろう。
そんな中、タエはさっきからPSPで何かを見てる。
「なんか朝鮮語がするんだけど、何見てんの?」
俺が覗きこむとそこには朝鮮のマスコミの報道映像が映っている。
「おもしれぇ、コイツ等、一気に反日に転じやがった!昨日までずーっと親日放送だったのにね!チョー面白い!」などと顔を赤くして言っているタエ。
同じようにくまのぬいぐるみも顔を真っ赤にしながら、
「交渉中に土下座までしたのにぜーんぜん相手にしてもらえなくて、顔真っ赤にしてファビョったんだからなーにかあると思ったら〜。これが人間のサガだねぇ〜!」
などと知ったような事をヌカす。
「おいおいおい、コイツ等、交渉中に日本の側が土下座までしてきたのを朝鮮側が冷酷に突っぱねたって捏造してるよ!!マジかよ信じらんねんだけどぉ?!」
…。
マジで?
でも朝鮮語の放送でそれがわかるのか?
「見ろよこれ!ほら、ヘッタクソなCGで安倍ちゃんと総理が土下座してるシーンを演出してるって!!クネクネの野郎なんてそのまま総理の頭踏んづけてるよ!」
うわッ!!マジだ!!
土下座したのはお前らだろうがってツッコミ入れたくなってくる。
でも日本側は会談の様子をずーっとリアルタイムで国会に流してたんだから、それがそのまま世界に配信される可能性を考えてないのか?
俺の隣の安倍議員は腹痛に冷や汗を垂らしながら言う。
「そうでもしないと辻褄が合わないのだ…馬鹿な民衆を納得させる為にな…自らの失政を他国のせいにすることでしか、連中は自らの命を保証する手段がない。朝鮮では中国と同じく、他国家からの情報を全て遮断しているから朝鮮のマスコミが流した情報が全てなのだ。日本の総理と議員が土下座して、それでも冷酷にいるという嘘を流せばそれが真になる。そうやって世界と隔離されていく。自らが自らの首を閉めているのだ」
俺は仮にもし安倍議員と総理が交渉の結果、国交を再開させた時の事を思って身震いした。だってそうだろう、この映像…このCGは既に用意されていたんだから、交渉が成功した暁にはこれを放送して、日本側が土下座までして『国交を再開させてください』とお願いしてきたんだと朝鮮国内で放送するんだろうから。
俺は総理がクネクネ大統領に向けていたのと同じ、冷たい視線を群衆に向けながらそんな事を考えていた。