157 土下座外交 3

空港へ向かう道すがら、途中で俺は車から飛び降りて上空からデモ隊の行方を確認する事にした。というのも無線で既に運転手の軍人に向けて安全ではないという旨の連絡が入っていたからだ。
すると先ほどまで乗っていた車の側から突然『巨大な蜂』らしきものが飛び出て俺についてくるのを視認した。なんとなくだけれど、こんな事を出来るのは軍ではなくドロイドバスターだけだとわかった…タエがあの物質転送のような力でどこからか呼び出したドロイドだ。
俺は速度を一気に落としてわざと蜂タイプのドロイドに合わせると、
「今度は昨日みたいに大暴れはしないでね?わかってる?」
と操作してるであろうタエに向かって言う。
「そんなぁ〜ガトリングガンを試してみたかったのにィ〜」
などと言ってる蜂ドロイド…操作してるのはタエだと分かってるけどキャラがくまのぬいぐるみの田中くんと被ってるからなんか違和感があるんだよな。っていうか田中くんも実はタエが操作してるんじゃないのか?
「とにかく!とばっちりを食らうのは総理や安倍議員なんだからね!」
「ちぇ〜」
ここで来た時と同じように滑走路へとそのままリムジンを走らせている。そりゃそうだ。昨日と違ってターミナルビルから煙が出ているからだ。
「群衆はいないけど散々攻撃されたような形跡がある」
確認しようと近づこうとした時だ。
『キミカ嬢!そろそろ出発だ!』
『え?もう?』
バトウからの電脳通信だ。
『もうわけがわからねぇよ、今度はデモ隊と政府軍が一緒にこっちに向かってるんだとよ』
『わけがわからない…』
いや、実はちょっとワケがわかってるんだけどね。
ほら、同じ国民の間にある仲間意識って奴だよ。任務がどうなってようが反日教育が基板になってるんだからコイツ等はいざって時は任務なんてほったらかしで俺達に牙向けてくる。
素早く着陸・アンド・搭乗。
俺が最後だったようで乗り込んだと当時にドアが密閉され離陸体制に入った。
「は、早く離陸するのだ…オムツを履いているようで気持ち悪い…」
安倍議員はそう言いながらフラフラと歩いて椅子に座る。
「あんまり深く腰掛けるとクソが椅子に染み付くんじゃね?」
などと茶化すタエ。
「クックック…そうなったらダイゾンのブラックホール掃除機を使って椅子を吸いまくって、ウンチ汁除去し、工場出荷時の状態まで戻してやるのだ…」
はいはい…。
しばらくしてから離陸した。
窓から覗いた景色はどんどん小さくなって衛星から撮影した半島写真に似てくる。
こんなに遠くから見たらただの地図の一片に過ぎないのに、ここでは今もまだお隣の国日本という仮想的を利用して国民の貧しい生活に対する苦情を、苦労を、気持ちを、逸らそうとしているのだ。それを『複雑な事情』だと左翼系マスコミは述べていたけれど何も複雑じゃない。
現実から目を逸らしてるだけだ。
日本に追いつこうと日本の技術を真似た国。
日本に追いつこうと日本の政治を真似た国。
民度は置いてけぼりにされて、繁栄を目指した国。
でも時間は一方方向にしか流れないから、追いつこうとしても気がつけばまた先行され、国民の中には恨みと嫉妬しか残っていなかった。
なぜ彼らが日本に追いつけないのか…それは隣に日本という国があったからだというのはネトウヨ自画自賛として聞いたことはあるけれども、その考え方はあながち間違ってはいない。それはしっかりした性格の女性の側にはダメな男が集まるというのと似ている。人はとても面倒くさがりな動物でありとあらゆる面倒な事はもし仮に他の誰かがやってくれていたのなら、本人は決して自分からやろうとは思わないのだ。
それが人間のサガだ。
そして本能だ。
「日本より優れた国になろうと思えば真似ればいい」「全てをコピーしてしまえば優れた国になれる」と思い込む。自ら『一』から考えることなんて面倒臭いからしないし、仮にそれをやったとしても車輪の再発明のようなものになる。
などと考えながらもMBAでドヤる俺。
戦士の僅かな休息だ。
こういう時間を自堕落にゲームなどをして過ごしているタエの様な馬鹿は将来、なんら特技も知識も経験も持たぬ、平々凡々な人間になってしまうのだ。
と、思っていたら案の定タエの操作しているであろうくまのぬいぐるみ野郎が俺のドヤリ様を面白そうに見ているじゃないか。
(ブォン)
この音は俺のブレードが空間を斬り裂いた音である。
「うわっ!ちょっ!もう少しで首が飛ぶところだったじゃないか!なんてことしてくれるんだよ!あーあ!僕の大切な毛が少しだけ切れてしまったぞ!!」
くまのぬいぐるみ田中くんは俺のブレードによって斬られた毛を持って顔を真っ赤にしながら抗議のポーズをとっている。
「ふんッ!…またつまらぬものを斬ってしまった」
「んだとゥ?!」
飛びかかってくるくまのぬいぐるみをグラビティコントロールで止めて、そのまま野球のピッチャーよろしくタエに向けて発射、ストライク。
「ぎゃ!」
「バッターアウト!」
「な…にしてんだこラァァァァl!!」
タエ、キレて俺のところまで走ってくる。
「このアンタの汗と体臭と変な液体がついているクソくまのぬいぐるみ野郎があたしがドヤリングしてたのをマジマジと見てたから注意したんだよ!」
「見ちゃ悪いのかよォォァアーン?!」
「悪い!悪いね!ドヤリングっていうのは同じくドヤリングしている奴が嫉妬の思いで見てくるのならいいけど、興味本位で覗き見するなんてのはオッサンが自分が全く知らない領域のことをクソだと思って小馬鹿にするのと同じなんだよ!!」
「おぉッサンだとォォォ!!チョームカつくんですけどォ?!」
「だったらどうするっていうんだよォォァァァァアーン?」
いつの間にか俺とタエのクソ野郎はおでこをピッタシと引っ付けて田舎の不良よろしく今にでも喧嘩を開始します体勢になっている。
ムカついて最初よくわからなかったけど、よくよく考えるとコイツ、化粧は濃いけど顔は中々の美少女じゃないか。そりゃドロイドバスターだからそうなんだろうけれども…。
「(ちゅっ)」
俺は思わずそのままキスしてしまった。
「お、お、お…」
「お?」
「お、おま、おま、」
「おまんこ?」
「オマエーッ!!!何してんだコラァァァァ!!!」
顔を真っ赤にして俺を突き飛ばすタエ。
「(ゲス顔)」
「ちょっ、マジで信じられないんだけどォ!!女同士でキスとかありえないんですけどォォォ?!」などと目の前に絶滅したはずの恐竜でも現れたような恐怖の顔で叫ぶタエ。
もう泣きそうな顔をしている。
「フッ…あたしを怒らすと、怖いってこと、わかったかな?」
キザに台詞を決めてみる俺。
「こぇぇぇよぉぉ!!マジでこえぇぇえよぉぉぉ!!!別の意味でこえぇぇよ!」
それ以降はくまのぬいぐるみ野郎も俺に近づかなくなった。
ふ…ちょろいもんだぜ…クックック…。