157 土下座外交 1

今日の昼から朝鮮との2国間会談が開かれる。
元々中国にも朝鮮にも大使館があったけれども戦後は既にそういう外交もストップしてて元大使館関係者が関係者との調整を行っているらしい。その1人は俺達やSPに対してこの対談の経緯について話した。
中国からの要請で会談を行う事が決まっていたが、そもそも朝鮮とは行われる予定がなかったこと。日程に割りこむような形で入り特に警備の面では手薄の可能性が高いということ。しかし、アジア外交のほうが世界へ向けての評価が高いし、朝鮮側の強い要望と『配慮』で会談を成功させる可能性があがったことなどを理由にあげていた。
「『配慮』というのは?」
SPのリーダーが大使館の人間に質問する。
「この街から一時的に自国民を周辺の街へ移動させ、立入禁止にしたらしいです」
「しかし昨日、凱旋した際には国旗を降っている人達が居たようですが…」
「あれは『エキストラ』だという話ですね」
え、エキストラァァァァ?!
するとタエがポツリと呟くように言った。
「空港では朝鮮人が日本国旗燃やしてたりしたよ?」
それに大使館の人間が答える。
「空港は段取りがまだ整わなくてエキストラが揃えられなかったそうです。総理一行にターミナルビルを通行させなかったのも、右翼団体がビルを占拠して朝鮮政府が武力介入したとしても被害が此方側へ及ぶ事を懸念しての事です」
思いっきりギリギリやんか…スケジュール詰みすぎてギリギリになってるぞ。
大使館とSPの話し合いの結果、会談が行われる部屋の中は俺とイチ、廊下側はタエが担当することになった。タエだけ外になっているのは会談だとかはつまんないから外でゲームして待っていたいと駄々をこね始めたのが理由だけれど。
さて、会談が始まった。
よくよく考えてみると国の代表同士が話をし合う中、同席するなんて一生に一度あるかないかじゃないか?貴重な経験だと思う一方でなんだかとても緊張してくる。緊張が隠せない。あぁ、どうしよう、強制参加じゃなかったのになんで俺がこんなに緊張しなきゃいけないんだ?俺も駄々こねればよかったよ!!
と、考えていると日本人側の外交官はテーブルの上にaiPadやらMBAやらを出し始めるではないか…その一報で朝鮮側はサムチョンのよくわかんないノートを広げてるとか、ふむふむ、どうやらオトナのミーティングではドヤリングに似たような事をするらしい。
俺も調子に乗ってMBAを出した。
一斉に周囲の視線が俺に集中する。
満面のドヤ顔で俺はそれにお答えする。
じつに素晴らしいではないか。スタバでもこれだけの視線集中率は稼げないぞ。
さて、何をやろうかな?
2chを見るとかVIP板でリアルタイム会談実況スレとか安価で会談に割り込むスレとか立てるか?!…いや、大人げないからやめておこう…っていうかマジで外へ引っ張りだされそうだ。やはりここは真面目にプログラミングをやるべきだろう…俺の仕事は確かに総理や議員を守ることだがこの忙しい仕事の合間にもちゃんと趣味の時間を設け、それに神経を費やす…まさに男っていう感じの生き方じゃないか?
さてXCodexを起動してから…ふむふむ、昨日の飛行機に乗っている最中の続きからだな。参照サイトを見ながらコーディングをしてとりあえず動かしてみようか。とりあえずやってみるというのが大切なのだよ、ただダラダラと説明を読んでいては何も進まない。
「まずは国交を再開させるべきだと思うのです」
ん〜そうだねぇ、まずは国交を再開…ん?
朝鮮の大統領であるキム・クネクネ大統領の発言をアンドロイドが日本語へ通訳したらしい。立て続けにクネクネ大統領は、
「そうしなければアジア自体の世界での立ち位置を危ぶまれます」
と言った。ちょっと脅迫に近い感じを受ける…。
総理は資料を見ながらクネクネ大統領へと答える。
「国交を再開させることで日本側へのメリットはあるのか?」
アンドロイドの通訳を介してクネクネ大統領の発言が返る。
「朝鮮の安い製品や材料を利用することができます。安い労働力を使え、価格競争で勝ち抜く事ができます。アジアの安定化は更なる発展を日本にも齎します」
相手の反応を待たずにまだペラペラ話をしてるクネクネ大統領…それを安倍議員が制止し、冷たく言い放つ。
「戦前の、まだ朝鮮との国交があった頃の話をしようか。朝鮮の安い製品が日本の製品を駆逐し、大きなデフレを招いたのだ。もちろん安い故に日本製よりも劣化はしていたが、それだけではなく、時折、人体に有害な毒物が混入されていたりもしたのだ。フィリピンやインドネシアの一部の地域では発言力がないから公にはならないが、日本ではそれは大きく話題として取り上げられたのだ。それに対し、朝鮮からは『これらの事象を報道せぬよう』日本のマスコミへ圧力をかけていた事が後でわかった。労働力が安いとしても、工場がストで何日も停止したり酷いときは工場そのものが放火されたり、物資や機械を奪われたり、技術をマネて自らが開発したと風潮して回ったりもしている事が確認されているのだ…」
そう言ってから安倍議員は小さな手でaiPadを操作してから、
「国交がまだ行われていない今でも密入国者は絶えないし、何より犯罪率が他の国の人間と比較して格段に高い」と言いながら日本国内の犯罪統計(警察発表)の資料を見せる。
国籍・使用言語別の犯罪件数がグラフで表示されている。
クネクネ大統領はグラフを指さして、朝鮮語で何か言っている。
すぐさまアンドロイドが翻訳。
「犯罪率なら中国のほうが高いと思われます」
議員は慌ててaiPadを操作して、
「あぁ、間違えたのだ。これは犯罪件数で、人口に対しての比率はこうなのだ」
グラフが一転する。
人口に対しての犯罪件数は朝鮮人が中国人の3倍の差をつけてトップに踊りでた。
俺は鼻で笑いそうになるのをこらえた…。
「それでも『メリット』が日本側にあると、貴殿はそう考えるのだな?」
議員の説明の後、総理がそう言った。
アンドロイドの翻訳が伝わってクネクネ大統領が慌てた表情に変わる。
立て続けに総理が言う。
「大統領、国交が再開されるというのは血液の循環と同じ事だ。身体の一部が壊死した状態で、無理やり血液の循環を再開させると壊死した部分は壊死していない部分への被害を与える可能性が高い。国交とはお互いがウィン・ウィンの関係でなければならない。単純に物資や人が行き交うような状態にするを『国交の再開』とは呼ばない。それぞれの国が互いに同じ文化的な生活をしている事が前提だということを…過去の歴史から学ばねばならない。貴殿が『外貨』を得たいという気持ちはわかったが、日本側へのメリットが見えない間はそれは不可能だな」
この通訳を待たぬうちに、クネクネ大統領は悔しそうな顔をしている。
今にもファビョりそうな雰囲気だし、もし飛びかかってきたら大統領でも俺は斬ってもいいのか?と思ったりもするぐらいに空気は怪しげな方向へと変わっていく。
すると突然、クネクネ大統領は立ち上がって机の上に上がったのだ。
俺は今にもブレードを引っこ抜いて首を斬ろうとする間際だった。
しかし相手には戦意はないようでクネクネ大統領は何故か身体を曲げて、テーブルの上で『土下座』したのだ。振動でMBAが壊れたらヤバイから俺は慌てて異空間へMBAを吸い込んだ。
周囲の空気が凍る。
朝鮮語で何か叫ぶように言っている。
「私が大統領として就任してから、何らかの外交成果を出さなければ国民の不満が爆発する可能性があるのです。どうか国交を再開させてください。退任後も日本へ亡命することで、さらに朝日間の関係改善に繋げる可能性があります」
というように、淡々とアンドロイドが翻訳して伝えているのである意味、今の空気に違和感があるのだ。
しかし何らそれに心を揺れ動かされるわけでもなく、安倍議員は冷淡に言い放った。
「大統領、土下座をしてもダメなのだ。我々は国の『トップ』としてここで来ているわけではない。国の『代表』としてここで来ているのだ。あなた方の国と違って国政を行っているのは一部の人間じゃないし、この会談で何かを決めるのは我々でもない。日本国民なのだ。この映像だってリアルタイムで日本の国会へと流れ国民が見ているのだ」
慌てて土下座状態を解除するクネクネ大統領。
素早くテーブルから降りる。
「これ以上の議論は時間の無駄だ」
総理はそう冷たく言い放って、今にもファビョりそうなクネクネ大統領を後にして、安倍議員と共に部屋を出て行った。