156 安倍ちゃん 4

「安倍議員、こちらがドロイドバスターキミカ君だ」
総理がそう紹介する。
俺の目の前にいる小学生みたいな女の子の安倍議員に…。
「ほほぅ!お前がドロイドバスターキミカか!この目で見るのは初めてなのだ。ふむふむ…映像で見るのよりも背が高いような気もするな。うはははは!」
いやアンタが低いだけだよ…。
「確かに議員の位置から見たら大きく見えるだろうな」
とフォローになってないようなフォローをする総理。
「しかし同じ山口県出身者で今まで一度も会ったことがないというのは、いつからか山口も大きな都市へと変貌していったのだろうかな!!嬉しいようであり寂しいようである」
とか言い出す…どんだけ山口狭いんだよォ…。
しかしそれにしても。
なんとなーく分かるような気がしてくる…この議員がなんで右翼、いや、ネットウヨクどもに人気があるのか…この幼女な体型から違和感あるトークかましてるからじゃないか?
「よ、よろしくお願いします」
「うむ!こちらこそよろしく頼む!」
そう言って微笑むと幼女…いや、安倍議員はその小柄な身体にとっては巨大な椅子に深く腰を降ろして、テーブルの上においてあったジュースを両手で掴んでゴクゴクと飲み始めた。その姿、どう考えても幼児…いや、幼女である。
ネトウヨはこんな幼女に国と国の取り決め云々を任せていいのだろうか…。
「議員、そのジュースはタダなのか?」
「うむ!この機内のものはタダらしいのだ!」
「そうなのか、てっきり有料かと思って先ほどはトイレの水を飲んでいたが…」
相変わらず総理は貧乏臭いな…。
別にトイレの水を飲まなくてもジュースでの自販機で買って来ればいいのに。
そんな二人の会話を後ろで聞きながら、俺は自分の為に用意されたであろう席に座ろうと…する…んだが…なんだ?既に俺の席の上にクマのぬいぐるみが置いてあるんだけど。なんとなく俺は犯人が誰なのか分かって後ろの方の席をジッと見つめてみる。
こんなことをするのはあの幼女しかいない…。
ったく、くまのぬいぐるみを同席させないでくれよ、ほんと。
俺はそのぬいぐるみに手を伸ばして、どっかにどかせようとした。
その時だった。
くまのぬいぐるみの顔が一瞬だけ強張ったかと思うと何か素晴らしく鋭利な包丁らしきものが飛び出てきて俺の手を斬り落とそうとしてきた。が、俺の素晴らしい動体視力がその包丁を払いのけたのだ。
このくまのぬいぐるみ…ただのぬいぐるみじゃないぞ!!
「おい!ここは僕の席だぞ!」
ぬ、ぬいぐるみが…しゃべっただとゥゥゥゥ?!
そのぬいぐるみ野郎はさらに続けざまに言う。
「今、オマエが考えてる事を当ててやろうか!『このぬいぐるみ、喋ったぞ!』それから『ぬいぐるみの癖に席に堂々と座ってんじゃねー!』だ!どうだ!ビンゴっちゃてるゥ?」
こンの野郎ゥ…。
俺はそのぬいぐるみに向かって大人気なくも、冷たく言い放ってしまった。
「いや、違うね…。汗だとか皮脂だとかバイキンだとかが色々とネチョネチョついてそうな汚いぬいぐるみがあたしの席に座っているというキモい現実に戦慄して、あわよくば持ち主のサイコ野郎を血祭にあげてやりたいなと思ってるところだよ!!」
その時だった。
ぬいぐるみの隣の席からヌッと立ち上がったのだ。そこに何かが座ってるってのを今しがた初めて気づいた。
それは俺やマコトなどのコンセプトモデルに似つかわしいぐらいに2次元的な美少女だけれども、そこにド派手なメイクをしてるせいで子供っぽい可愛らしさが消し去っている、いわば俺が定義するところの『ビッチ』臭漂わせるクソ女が、ヘッドフォンを頭に装着し、ピッコピコと音ゲーPSPでプレイしていたわけだ。
衣装も衣装で日本を代表するビッチです的な胸元が完全見せブラ化しててお腹もおへそを覗かせて爪にはつけ爪を、そして髪はちょっと染めててポニーテールにしている。
そのビッチがヌッと立ち上がってから、
「ンだとォォォ!!!」
と俺に向かって叫んだのだ。
同時に下に座ってるくまのぬいぐるみ野郎もボクサーみたいにシャドーボクシングしながら、「いいじゃないの!やってやろうじゃないの!僕の恐ろしさをその身体に刻んでやるよ!」とか挑発してる。おいおいおいおい…マジキチかこいつら、マジキチか?!
そして今、雰囲気的にわかったこと。それは、このぬいぐるみの持ち主が安倍議員じゃなく、この隣に座ってたビッチ野郎のものであるってことだ。
「あぁ、皮脂だけじゃなくて化粧カスもついてるぬいぐるみだ!!」
「おいオマエふざけんじゃねぇよ!皮脂とか化粧カスとか顕微鏡でも使ってみたんですかァ?そうやって分析しちゃってキモチワルイんですけどォ?」
クッソこのアマ俺が一番大嫌いなタイプだ!!
「ちょっと、この出会い系ビッチ連れ込んだの誰だよ!早く追い出してよ!」
俺はビッチを指さして言う。
売り言葉に買い言葉というんはまさにこのシーンの為にあるようなもののようだ。俺がいましがた批判した事に反論するようにこのビッチは俺を指さして言う。
「ちょっと、このAKBみたいな従順系男にケツ振りまくり女ウザいんですけどォ?その格好なにぃ?中国に男漁りにいくのォ?っつぅかキモすぎなんだけどォ」
ン…だとコラァァァァ!!!
「がるるるるるるるるる…」
「ぐるるるるるるるるる…」
俺と俺の目の前にいるビッチ野郎はお互いに獣のように睨み合い、唸りあいながら暫く威嚇したのち、
「がるるッ!!」
「ぐるるァ!!」
お互いが跳びかかってお互いのケツを噛んだり、腕を噛んだり、フトモモを噛んだりした。まさに野獣と野獣の戦いだ。途中で奴の飼いならしてるキモい人形が何度か俺に包丁で攻撃しようとしたが、素早くそれらを全て交わしてグラビティコントロールで天井に叩きつけて動けなくさせたりした。
「おいおい、お前ら何をやってんだ!大人しく席に座ってろ」
とかバトウが言うけれども、何をやってるかだって?戦ってるんだよ!脅威と!
「うはははははは!!めちゃくちゃ面白いなぁ!」
とか安倍議員が大笑いしてる。こっちは全然面白くないよ!!
っていうか、この女、凄まじい運動能力で俺と互角に戦ってくるところを見ると、どう考えてもドロイドバスターだ。今までの戦いの経験から分かる。けれどもドロイドバスターらしき技はどこにも使っている形跡がない。
「このビッチがあたしの席に人形置いてたんだよ!」
ビッチを指さして言う。
「人形じゃないって言ってるだろう!」
ぬいぐるみ野郎が俺に向かって怒鳴る。
「ただのくまのぬいぐるみじゃん」
「ぬいぐるみじゃねぇッツってんの!」
「じゃあなんなんだよ」
「田中くんだ」
おーい。
すると中央軍から派遣されてきたと思われる男性が俺に、申し訳ございません、こちらの席をお使いください、とか言い出すのだ。
なんだそれはおいおいおい!俺の席はくまに占領されて俺は別の席に座れだとゥ?!まぁコイツの隣に座るよりかはいいけどォ…負けた気がするぞおい!!
渋々俺が用意された新しい席へと向かう中、そのビッチ風な女はあっかんべーをして、それに合わせるようにくまのぬいぐるみこと田中くんもあっかんべーをしてきた。
許さん…絶対に許さん。