142 必要悪 4

『大暴れ』する場所は同じ区画にある別のビルだった。
既に警察の車両が取り囲んでいて、その間をヤクザどもは車で逃げようとするもドロイドやら警察車両に阻まれている。
「ドロイドバスター・キミカだ」「本物?!」「本庁に言って来てもらったのか?」「すげぇ…初めて見るよ」と、警察の連中が俺を見て驚いている。
ヒロミが叫ぶ。
「よォし!俺が指揮する。お前らは社会のゴミどもがゴミ箱から這い上がってこないように、ここで待機だ!逃げる奴は迷わず撃ってよし!」
俺はヤクザどもが籠城しているビルの前に立つ。
ボキボキと拳を鳴らす。
さてと。
パーティを始めますか。
フロントから侵入。逃げるヤクザが俺の隣を素通りしようとする。だが、逃がすわけないだろう、俺はブレードで八つ裂きにした。
通り過ぎる勢いのまま肉塊と化すヤクザ。
何が起きたのかわからず、背後の警察の連中はどよめく。
エレベーターが動いている。
俺はショックカノンを取り出してエレベーター前に構える。
(チンッ)
軽快な音と共に開くと、案の定ヤクザどもが俺に銃を向けて発砲しようとしていた。だが、まさか既に俺が待ち構えていて発砲しようとしてたなんて思いも寄らなかっただろう。その一瞬の隙の後、ショックカノンが炸裂してエレベーター内は屠殺場になった。
2台あるエレベーターをそれぞれ、シャフトと本体を結ぶカーボンファイバーを切断。そのまま重力に従って地下へと落下した。
それから階段で上に向かう。
俺の後に続いて警察もドロイドを引き連れて中へと侵入しているようだ。
2階、3階、と蛻の空。4階のフロアに上がる階段の手前で機械音がする。
階段の上には案の定、ドロイドが待ち構えている。中国製の対戦時に使用されていたと思われる古臭いドロイドで、やたらとシールが体中に貼られておりまるでレースで使われる車のようだ。
そいつがガトリング砲を俺に向かって放つ。
ブレードで弾き飛ばす俺。
周囲のコンクリートが銃撃の衝撃で飛び散って階段が残骸へと変わっていく。むき出しになる鉄骨。
その後、俺はグラビティコントロールで身体を持ち上げたまま、埃やらが舞う中で丁度ドロイドの真下に浮かんでいた。ヤクザどもが、
「殺ったか?」
などとヒソヒソ声をするのがわかる。
あんなので殺れるわけないだろうに。
俺はブレードを上に向けて突き刺してドロイドを真っ二つにした。「ひぃぃぃぃ!」という叫び声もするから、叫び声がする方向もブレードで斬る。
4階のフロアに飛び上がる。
フロアにはヤクザどもが銃を構えて俺を待っていた。しかし、連中の背後の窓ガラスが一斉に白くなると共に、警察の突入部隊とボールタイプのドロイドが窓ガラスを割ってフロアに侵入。と同時に手を出し足をだし、臨戦態勢に。
乱戦。
後ろからは警察が、前からは俺が銃を撃ちまくる。
8割ぐらいのヤクザはそこで撃たれ、2割は投降した。
「ボスが居たはずだけど、どこにいるか知ってる?」
警官の一人に聞く。
しばらく無線で連絡をとった後、警官は、
「おそらく上の階です。我々もこれから侵入します」
レールガンをしまい、ブレードを出してから「ちょっと挨拶行ってくる」と言って俺は上の階へと進んだ。
ボスはおそらく、地下格闘技場を仕切っていた江田大鉄という男だろう。自分の部下が残酷な殺され方をしても表情一つ変えなかった。あれこそ、俺の中でイメージしているヤクザ像だ。
そして、さすがと言うべきか。
これだけの大騒ぎを下で警察がやらかしてもボスである江田は社長室から出てこようとはしないようだ。
もう腹を括っているのだろう。
俺はボスのボディガードらしき男2名を部屋の手前で始末すると、部屋の扉を蹴り開けた。
「どうもどうも、こんにちわ」
出前でも持ってきたかのような声で俺は江田に挨拶。
江田はやはりそこにいて、そしてやはり表情は変えない。
地下格闘技場を仕切っていた、江田。
俺のことを『狂犬』と呼んだ、江田。
その江田が少し表情を変えた。
俺を見て「あぁ、やっぱり、お前か」という顔になる。
これだけ無骨な人間も珍しい。
そういう立場の上りつめるということは、そういうことなのだろうか。
人を超えるような冷たさを持っているからか。
「お前は、何者なんだ?」
椅子に深く腰をかけたまま、江田は言った。
偉そうに座っている江田の目の前にある机をブレードで叩き切って、それをグラビティコントロールで左右に弾き飛ばした後、俺は歌舞伎役者かのように足を踏ん張る。
「キミカと言う、ケチなドロイドバスターでゴザんす」
と、おどけてみせた。
「アイツはどうした…?」
「アイツ?」
「学(マナブ)だよ。お前に送った刺客だ」
へぇ〜…。
あれは俺宛の刺客だったのか。
で、関係ない人を殺す刺客なわけか。
「芋虫にしてあげたよ」
俺はニヤリと笑ってから言う。
男は吐き捨てるように言う。
「化け物が…」
俺のブレードは化け物がのバの部分で奴の喉元に流れるように突き出て、そして寸止めを行った。
江田は静かに言う。
「俺を殺すのか?」
「…さぁ、どうだか」
俺は江田を睨んだ。
江田も俺を睨み返した。
力こそ無いが、キモッ玉は座っているようだ。