99 クズと底辺と社会不適合者 5

「いやぁ、じつに残念だよ!」
そう言って秋村バイオテック代表取締役社長である秋村晴彦はパンッパンッと手を叩いた。
すると、部屋の両サイドの扉が開いて右、左それぞれから1体づつ、ドロイドが出てきた。2足歩行タイプでゴリラのような図体、両腕に15ミリバルカン砲を搭載している奴だ。
ほほぅ…ShowTimeって事かァ?
そして秋村は言う。
「キミとはお友達になれそうだったのねぇ…」
それは同じ脚本家資質を持つって意味に捉えていいのかな?
でもお断りだね。
「お友達に?あたしはそうは思わないな」
両サイドからバルカン砲が俺に向かって放たれる。
これで殺せると思ってたんだろうな。
普通の人間ならただの肉塊になるだろう。
両サイドから放つから外れてもう片方のドロイドに命中しようがお構いなしだ。それで目の前の「お友達になれそうだった女」が肉塊に変わるのだから。面倒くさいトラブルを自分の目の前から消しされるのだから。喜んで弾を撃ちまくるだろう。
しかし、俺は肉塊にはならないどころか、銃弾をすべて見きってブレードで弾き飛ばした。弾き飛ばしついでに秋村の隣でヘラヘラと笑いながら俺を見ていた「金田を騙した女」に流れ弾を食らわせた。食らわせたから流れ弾じゃないな。脳天を炸裂させながら弾を食らった女は倒れ、秋村だけを残して、ドロイド2体も始末した。一体はグラビティコントロールで潰して、一体はブレードで切り刻んだ。
「おいおいおい…嘘だろ…」
全身を汗びっしょりにした秋村が放った糞セリフがそれだ。
「さぁ、どうする?」
俺はドヤ顔でそう言った。
秋村は電話を取り上げると仲間を呼ぼうとしている。ここで殺す事なんて造作もないが俺はそれはしなかった。このクズがどういう判断で行動していくか興味があったからだ。
「社長室に侵入者だ!早く!早くドロイドを寄越してくれ!」
「ぷッ…侵入者?自分で招き入れたくせに…あらら、流れ弾が当たって死んでるよ…この女の人。どうするの?」
「何をしている!早くしろ!」
女の人はどうでもいいのか。まだ電話してる。
さらにドロイド追加だ。
ボールタイプで転がりながら移動してくるドロイド。そして射程距離に入ったらボール状態から歩行状態へ移行…させるかよ、それから撃ってくるんだろうが。ヒーローアニメじゃあるまいし、のんびり必殺技を待つほど悪党(俺)は余裕じゃないんだよバーカ!
俺はボールの状態のドロイドはショックカノンで吹き飛ばした。
ショックカノンは変身状態でなければ使えない、つまり、ドロイドバスターとしての能力を武器のエネルギーとして変換しているって事だ。だから変身中の今の俺のこの武器は滅茶苦茶強い。
バリアを1発目で崩してから、2発目ではもうドロイドは鉄塊に分解されていた。南無参!!そして、次から次へとやってくるボール型のドロイドは俺の射程距離内で木っ端微塵にした。
「な、何者なんだ…お前は…!!」
「アナタのようなクズ人間に名乗るような者ではありませんよ」
そう言って俺はクズ人間にショックカノンを向けた。足の方に。こうすれば一瞬で死ななくて大変だろうに。
「ま、待ってくれ!!話せばわかる!」
「いや、撃つね」
「と、取引をしよう!!キミの要望はなんでも叶えるよ!何が欲しい?金か?そ、そうだ、カラーギャング達の罪状をなかった事にしてあげてもいい!警察とも通じているんだ!金も手に入って罪も帳消し…うわぁ、いいなぁ、うらやましいなぁ!!」
「お金は…足りてるし…。あいつらはちょっと調子に乗りすぎてるからムショで臭い飯を食うぐらいがちょうどいいから、罪の帳消しはいいや。さて、取引材料の2つがなくなったよ?どうする?」
「な、何が望みなんだ!叶えてあげるよ!」
「望みなら最初に言ったじゃん。あたしは『渡る世間は悪魔ばかり』っていう愛憎劇が大嫌いだって」
「そうか!じゃあその脚本家をクビにして二度とテレビでそのドラマを放送できなくしてあげよう!!」
「もう放送されてないよ。視聴率悪すぎて放送中止になったじゃん。テレビ見てないの?見てなさそうだよね〜…」
今までに出会ったことの無いタイプの人間、つまり、自らの理解の範疇を超えた人間である「俺」をコントロール出来ないという苛立ちに発狂死そうになる秋村。目を血走らせて、
「あんなクズどもが何匹死のうといいじゃないですかァァァァ!!警察だって街を浄化してくれるから黙って目を瞑っているのに、どうして水を差すんですかァァァァァァ!!!」と叫ぶ。
俺はため息をつきながら言った。
「アンタと違ってあたしは人間が嫌いなんだと思う。アンタの言うとおりね。あたしは人間を愛してないんだよ。そういう人間はね、誰かにちょっかいを出されるのが嫌いだし、誰かにちょっかいを出してくるような、ちょうどアンタのような奴が嫌いなの。彼等カラーギャングカラーギャングなりに人生を楽しんでた。それをアンタの愛憎劇を楽しみたいっていう傲慢で邪魔したんだよ。それから、これは今わかった事なんだけど、あんたは自分のベクトルでいう正義に反しているあいつらを『クズ』ってレッテルを貼って浄化してきた。じゃあ、あたしの中のベクトルでいう正義に反しているアンタに『クズ』ってレッテルを貼って浄化してもいいよね?あたしのやってる事はアンタと何ら変わんないんだけどなぁ…どうして今更そんなに驚くのかなぁ?」
もう汗なのか、涙なのかわからない体液を顔から醜く垂れ流しながら秋村は俺に哀願している。自分の生存について。
「じゃあどうすればいいんですかァァァァ!!」
いや、死ねよ。
「アンタだよ、アンタ。アンタが死ねばすべてが解決するんだよ」
「そんなの無理に決まってるだろうがァァ!!」
ん…。
なんかヘリの音がするぞ。
これは反重力コイルの音だ。
ヘリだ。ヘリが社長室の前に現れた。窓ガラス越しにガトリング砲を構えているではないか。
「はは…ははっ!もう終わりだ!死ね!」
とか言い出す秋村社長。
おいおい、学習能力がないやつだな。ヘリごときで俺が殺せると思うのか?いや…待てよ…ここはちょっと芝居をしてみようか。
ヘリのガトリング砲が窓ガラスを粉砕した。
秋村社長は地面に伏せたのでそろそろ来るとは思っていたが。
そして銃弾が俺に向かって放たれる。が、そこでは俺は防がずにわざとたまに当たって自分から倒れた。
「う、う〜ん…クソォ…」
と唸ってみせる。
「は、はははは!!!死んだ!死んだぞ!!」
「こんな事もあろうかと、爆弾を持ってきたんだ。秋村社長、アンタも道連れだ…死ねェ…(パタリ」
と俺は懐から爆弾のスイッチを押した。じつはジロウに借りてるレコーダーを取り出し、スイッチでもなんでもない部分を指で押す仕草をしただけなんだけど、演技は伝わったかな?
「う、うわぁぁぁぁぁっ!!」
「社長!早くヘリに飛び乗ってください!」
ヘリの中にいる秋村バイオテックスの社員らしき男が言う。
俺はその光景をジッと見つめてみる。
ヘリは思いっきりビルへ近づいて秋村社長がいつでも飛び乗れる距離を保っていた。いいよいいよォ…あと少し。
大慌てで秋村社長はヘリに向かってジャンプした。
何しろもうすぐ爆発するからな!(嘘だけど)
距離にしたら1メートルあるかないか。
後少しでヘリに着地する、ってところで俺はプラズマライフルを取り出してヘリに向かって撃つ!撃つ!撃つ!!秋村社長が着地する部分を集中的に削り落とした。
本当に漫画みたいに、スカッとヘリの着地部分から足を踏み外した秋山社長はアーッ!と叫びながらビルの最上階からアスファルトへとダイブした。遙かしたのほうでパンッ!っていう音がした。
ヘリも秋村が助かるわけないだろうとは思っていながらも流れ的に、着陸するしかないのだろう。
俺はそのヘリが降下する様子を真上から見ていた。
アスファルトにはさすがに漫画のように大の字の凹みが出来て人間がめり込んでいる事はなかったが、あたかもトマトが破裂したように、秋村の身体が大の字になって潰れていた。