34 通りすがりの… 4

俺は武器リストに忍ばせていたグラビティブレードを構えた。
いつでも抜き出せる体勢に。
だが、俺の目に飛び込んできた光景は、目を疑うものだった。
強盗はご老人に向かって容赦なく発砲した。それが身体のどの部位を狙うものなのかは当人は決めていないだろう。目の前にある人の形をした物体を危険物としてただなぎ払う為に撃ちまくるのだ。
それをご老人は杖の中から抜き出した刀のようなもので弾く。弾く。ひたすら弾く。
「わあああああああああああ!!!」
叫び声はどの国も同じなのか。その中国人は自分が殺そうとした相手が刀で銃弾を軽々と弾き飛ばす様子を見て発狂している。
この凄まじい速さでの抜刀から納刀までの動き、目をつむっても弾道を見切る眼力、こいつ…イチだ!なんでここにいるんだ?!っていうか、もっと最初に気付けよ俺。
イチは身体を翻しながら弾をはじき飛ばして、そして中国人の頭もはじき飛ばした。頭部がゴンッという音を立てて天井に当たった後、ゴッという音を立てて床に落ちた。血しぶきを上げながら頭部を無くした身体がフロアに転げる。そしてしばらくビクンビクンと音を立てて動く。
メイ、気絶する。
他の強盗どもが仲間の叫び声に気付いた。
明らかにイチを狙って銃を撃ちまくる。
弾く刀。青白い太刀筋だけが見えて手元は見えない。少なくとも、人間よりも少しだけ動体視力がある変身前の俺が見ても奴の太刀筋は見切れない。
ゆらりとイチの身体が屈んだと思うと、目が見えないと思えないぐらいのはっきりしたダッシュで強盗団の隊列の中に飛び込んで、一撃でボスらしき男の首をはね、3回ぐらい切り刻んでサイボーグ化した男をバラバラにした。もう一人は女だったが容赦する事無く、イチは右から左へと刀を振り下ろすと、まだ意識があるなかでその女は身体を真っ二つにされた。
誰が助けに来たのか?
誰も助けに来てない。殺しにきたのだ。強盗を。
店員は誰一人として自分が助けられたとは思っていないだろう。強盗よりも怖い、そのイチと呼ばれている剣豪は周囲を肉塊まみれにしたあと、買い物袋を持って去っていった。シャッターは降りていたけど、障害物を刀で切り刻むあの剣豪を前にしては無意味だった。