164 ジャーナリズム 2

言うが早くだ。
小鳥遊がエリア内に反乱軍の部隊が転送されてきていると言うが早く、さっそくジガバチに似た姿の中華ジガバチ・ドロイドが反重力コイルの独特なエンジン音を鳴らしながら、俺達のトラックの前方方向へと現れたのだ。
この俺でさえも血の気が引く。マトモにガトリングガンの攻撃を喰らえばここにいる人間は全員死ぬだろう。俺とタエを除いて。
ハンドルを狂ったように回転させてトラックの進行を横へとずらすファリン。
ガトリングガンの銃撃が開始されるのとそれはほぼ同時だ。
俺と幼女その2は突然のトラックのケツ振りに耐え切れず、側面に叩きつけられる。
その瞬間だ。
最悪な事に俺と幼女その2によるミサイルへの攻撃が止んだその瞬間にRPGがトラックに直撃した。幸運なのは5、6発のミサイルに追尾されていたがなんとか残り1発だけに減らしていた…という事だろう。
けれど、1発だけでも十分にトラックを粉砕するパワーは持ち合わせている。
ミサイルの爆風の中心になんとか俺のマイクロブラックホールを生成できた。けれど、完全にはエネルギーを吸い込みきれず、トラック内はもうどこが下なのかわからないぐらいに回転を繰り返したあげくに路肩へと転がった。
俺はなんとかグラビティコントロールで再びトラックを正しくタイヤが地面につく位置へと戻した。そして叫んだ。
「はやく、はやく発進させて!」
タエは意識を失っているのか?
ファリンは?
「え、ちょっ…」
運転席にファリンがいない?!
まさか…。
ドアを開いて路上に出る。
さらに血の気が引いた。
さっきの衝撃でトラックの外へと投げ出されたファリンの後ろに、便衣兵…デモ隊が接近してくるのだ。
「ファリン!逃げて!」
プラズマライフルを構えて接近するデモ隊どもを撃ちまくる俺。
(ダメだ、逃げた方がいい)
置いて逃げろっていうのかよ?!
ファリンが叫んだ。
「逃げろ…逃げて!!」
再びあの反重力コイルの音が背中に響く。
(バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ)
空気を切り裂かんばかりの轟音が響く。
と、同時にトラックはタイヤを空回りさせながらも移動を開始する。
「ちょっ、ファリンは!!」
運転席には頭から血を流したタエがいる。
もう助からないと判断したのだろうか、タエは後ろは振り返らずにアクセルを全開で踏んでいる感じだ。そして後部座席に座っていたエルナが俺のほうを見て、いや…正確にはファリンのほうを見て叫んだ。
「ファリンさん!」
…。
銃声。
その銃声だけは確実にみんなへと聞こえた。
反重力コイルの音も、デモ隊の叫び声も、ガトリングガンの重低音も、トラックのエンジン音も、そんな喧騒の中にもその銃声だけは確実に聞こえた。
俺達の仲間が殺される瞬間の音だから。
デモ隊の1人がハンドガンを持ち、ファリンの頭に向けて銃弾を放ったのだ。
(やめるんだ…キミカ君。逃げろ)
気がつけば俺はブレードを構えてデモ隊へ突撃していた。
たった一人、刀を持って軍隊に突っ込んでいくなんて一体どこのいつの時代の日本兵だと、傍からみたら笑ってしまう状況だろう。しかし、そうせずにはいられない。
もう身体が勝手に動いてしまう。
恐怖も怒りの衝動を前にして完全に消し去られている。
ドロイドバスターが接近したのに気づいて便衣兵どもは一斉に俺に向けて銃弾を放ってくる。
そんな糞弾は止まって見える。
弾いて弾いて弾き飛ばしながら今しがたファリンを殺した奴の元へと近寄ると、首を撥ねた。傍からみたら、一体どこのいつの時代の日本兵だと、笑ってしまわれるような状況だろう。
笑えばいい。
これが日本人だ。
自分の仲間が殺されたことを、自分が殺されたことぐらいに…いや、自分が殺された事以上に痛み、そして憎む、それが日本人だ。
怒りで我を忘れそうになった時だった。
便衣兵の数名が次から次へと孫悟空に変化していくのだ。
それに驚いている便衣兵もいるのだから…おそらくは知らされていないのだろう。
俺すらも唖然としていると隣にいた便衣兵が俺の手を掴んだ。ブレードを掴んているほうの俺の手を掴んだ。みるみるソイツの顔が猿へと変化していく。
「…クソッ!」
ソイツが掴んでいる俺の腕も猿化していくではないか。
猿の手かよ。
手に持っていたブレードを素早くキミカ部屋に収納すると、片手で印を結んだ。
「口寄せの術」
セカンダリを呼び出して、先ほど収納したブレードを引っ張りだすと、躊躇なく俺自身の腕を切り落とした。もうサル化しているから俺の腕ではないのだ。
この糞猿、触れた部分を自分の身体と一体化させる能力もあるのか…万物想像の力だからべつだんに不思議な事でもないけれど、クソ迂闊だった。
猿野郎は次から次へと人間もコンクリートもサル化させると次から次へと俺へ襲いかかってきた。もう空が猿で埋まって暗くなるぐらいに、下から上から猿まみれだ。
地面にグラビティコントロール全開にして一気に空高く飛び上がる俺とセカンダリ
「プレゼントだよ、受け取りな、クソ野郎!」
クソ猿野郎が俺だと思って跳びかかっていったその先には、グングニルの槍が地面へ突き立てられている。さっきセカンダリが突き立てたものだ。
「喝ッ!!」
槍を中心に熱源が現れた。
デモ隊も、奴らが連れてきたドロイドも、猿どもも、全てを巻き込んで大爆発させてあげた。熱源は周囲500メートルぐらいを巻き込んだのち、今度は爆風がビルも吹き飛ばした。
空を逃げていた俺ですらその爆風でバリアが展開されたぐらいだ。
トラックは無事だろうか…もう戻らなければならない。
ファリンの死を悼む暇すらない。