164 ジャーナリズム 1

「やばい!思ったより近くに来てるぞ!ってか、もうビルの周りまで来てる!」
トラックの準備をしていたところに現れたタエはそう叫んだ。
「別働隊がいたのか」
幼女その1が言う。
「急ごう」
クマのぬいぐるみこと小鳥遊の一声でみな、トラックへ乗り込む。
本当にデモ隊だろうか?
一般人にしては動きが俊敏すぎやしないか?
っていうより、重慶の新市街・旧市街が大量殺戮兵器でこんな状態なのに数日でデモ隊を準備できるのか?そんなに中国の人工密集は激しかったっけ?
そんな事を考えているうちにもファリンがトラックのアクセルを踏み地下駐車場…つまりは物品搬入口から飛び出ると、俺が疑問に思っていたことの答えが求められた。
そう、タエが言うとおり確かに路上はデモ隊が進行している。
だが、そいつらは俺達のトラックを見るやいなや、一斉にプラカードを下ろしてどこから持ってきたのだろうかマシンガンを装備し、そして案の定、その銃口を俺達に向けて放ったのだ。
「え、ちょっ、おまっ!」
叫ぶ助手席のタエ。
同じく中国語で何か叫ぶファリン。
フロントガラスが真っ白になる。銃弾が車内に飛び交う。
「踏め!!踏め踏め!!」
恐らくアクセルを全開で踏めとファリンに指示しているタエ。俺達の身体が後部座席に一斉に押しのけられる。トラックはエンジン全開でデモ隊に突っ込んだ。
調子に乗ってマシンガンを撃ちまくるデモ隊に容赦なくトラックが突っ込み数名がフロントからゴロゴロと荷台側へと転がって落ちる。
げ…。
1名だけ、まだ荷台に乗っかったままの奴がいる。
ソイツがふらふらと立ち上がり、自分がどこにいるのかわかると銃口を俺のほうに向けてくるので、素早くブレードを荷台に向けて突き刺した。ちょうど金玉から腹の辺りへと突き刺したのでその部分だけが肉が削ぎ落とされて無くなる。
痛みでか意識を失ってそのまま倒れてソイツは内臓をまき散らしながら荷台からゴロゴロと路上へと転がっていった。
「銃撃されるの分かってるなら早く言えよ!!」
小鳥遊ことクマのぬいぐるみに怒鳴るタエ。
「って撃たれてるし!!」
クマのぬいぐるみは今の銃撃で3、4発は食らったのだろうか、もうボロ雑巾のようになって中の部品が飛び出ていた。
(やられてしまったよ…)
俺の脳内に声が響く。小鳥遊の声だ。
(どうすんの?!)
(とりあえず必要な時に必要な人に向かってテレパシーを送るよ…ただ、キミカ君。君には時々テレパシーが届かない時があるようだから、タエ君に優先して送るよ)
テレパシーが届かない時?
(そう、雑居ビルに君が降り立った時、何故か通信が途絶えた)
そういえば…確かドロイドバスターの研究施設に入った時だったっけ。
(あのエリアにはアカシックレコードの力が阻害されてしまう何かがあるみたいだよ。まぁ、今は逃げることに専念した方がいいね)
そのままテレパシーは途絶えた。
「中国の便衣兵なのだ」
議員が言う。
便意兵?常に便意を感じてるのか?」
すかさずタエがツッコむ。
「どんな兵だ!!便衣兵というのは一般人の格好をして敵からの襲撃を逃れながら作戦につく兵のことなのだ。国際法に違反している。恐らくあのデモ隊は全部、便衣兵だと思われるのだ。おおかた占領後に何食わぬ顔で一般人を装って、国際社会からの批判逃れをしようとしているんだろう…バカな連中なのだ」
タエは助手席の壊れた窓から手を出して、
「そんじゃ、遠慮はいらないっつぅことで」
そう言って路上にサイの姿をしたドロイドを転送した。
召喚直後は止まっていたがスピードをつけてトラックに追いつき、そしてトラックを追い越した。目の前の道路に屯しているなんちゃってデモ隊にそのまま突っ込んでいく。
デモ隊もデモ隊で一般人ではないのだろう。ロケットやらショットガンやらで一斉にサイ型ドロイドに向けて攻撃を仕掛けてくるがバリアを削ぎ落とす事すらできていない。
「おらおらおらおらおら!!」
タエが車内で叫ぶ。
デリゲートでサイをコントロールしているのだろう。
サイはごきげんに首を振りまくり、デモ隊の中に何故か並走していた多脚戦車などを蹴散らしていく。あの重量を角で弾き飛ばしているのだから相当パワーがあるようだ。
「道を開けろォォォ!!ウチ等のお通りだァ!!」
そうタエが叫んだ瞬間だった。
ビルの屋上から白い煙を上げて何かが複数、サイへと接近してくる。
「げッ!!」
目の前で爆風。
すかさずブレーキを踏むファリン。
「やっべッ!!RPGじゃねぇか!」
RPG?!ロールプレイングゲーム?」
「ちげぇよ!思考性ミサイルだよ!」
見れば目の前に元気よく走っていたサイが黒焦げになって大破している。時折ビリビリと発光しているのは内蔵されていたプラズマバッテリーが放電しているのだろう。あの数発でバリアを削ぎ落したのち、あの装甲を貫いたってことか?
「なんか、ワシ等を狙ってきおるぞ!!」
幼女その2がビルのほうを指さして言う。
思考性がどうかはもうどうでもいい、明らかに今度は俺達を狙って携帯ミサイルランチャーを構えた便衣兵が一斉に俺達に向けてミサイルを放つ。
「踏め!!踏め踏め!!!」
さっきと同じくファリンにアクセル全開を促すタエ。
トラックは一気にスピードを上げる。
しかし思考性のミサイルという奴は途中で進路を変えて俺達のトラックに向かって飛んでくるのだ。きっと熱源を追いかけたり生体反応を追いかけたり音を追いかけたり色々と組み合わせてターゲットを感知するのだろう。
キミカ部屋からレールガンを取り出してエルナに渡す。
俺は俺でプラズマライフルを取り出し構える。
「なな、なななな、何をするんですかァ!!」
「いいから狙って撃つんだよ!」
「銃なんて撃ったこと無いですゥゥゥ!」
そんなのお構いなしに俺はライフルでミサイルに狙いを定めて撃つ。
「ちょっ、このミサイル、バリアを展開させてるゥ?!」
「えぇい、エルナ、ワシにその銃を渡すのじゃ」
幼女その2が軽々とレールガンを持つと俺と一緒になってミサイルを攻撃し始める。さすがはサイボーグだ。幼女の身体とは言えど内蔵されている狙撃用プログラムを使って、かなりの命中率でミサイルのバリアを削ぎまくっている。
(まずいことになってるよ)
俺への通信か。小鳥遊からのテレパシーだ。
「わぁーッてるよ!」
助手席のタエが叫ぶ。どうやら俺と同じタイミングで小鳥遊に話しかけられている。
(もう十分過ぎるぐらいにヤバイ事になってるって!)
それに俺が返すと、
(いや、中華製のジガバチだ。さっきまでエリア内はデモ隊に随伴している地上ドロイドしかいなかったのに…どうやら楊貴妃がまた戻ってきたみたいだ。部隊を転送し始めている)
(それはヤバイ!!)
「なんでそれを早く言わねぇんだよ!てめーッ!」
1人で叫びだすタエ。
どうやら俺と同じタイミングでこの事実を小鳥遊に教えてもらってるらしい。