34 通りすがりの… 3

軍との回線は向こうから強制的に切断された。
いつもならミサトさんが出てくるんだけど、どうも今日は別のオペレーターの人が出てきたような気がする。まぁ、ミサトさんもずっと待機しているわけじゃないしね。
とりあえずこれで待ってれば軍のドロイド部隊が侵入を試みるはず。そうなったらドサクサに紛れてメイを連れて逃げるかな。
「おねえさま…」
メイが身体を寄せてくる。
「ん?」
「死ぬときはおねえさまと一緒ですわ…」
「いやいやまだそんな事を考えるのは早いってば」
「いえ、そうではありませんの。わたくし、こうしておねえさまと一緒にいれたら、いつでもおねえさまのお側で逝く事ができますもの。それはとても運がいいことですわ。死ぬことを第一に考えてはいませんわ、けれど、もし死ぬことになったとしても、きっと幸せな死ですわ…少なくとも一人で死ぬよりは」
「大丈夫。守ってあげるよ」
「おねえさま!」
今にも抱きついてきそうな勢いのメイだが、ガムテープで手首を結ばれているので身動きが取れていない。どうやらそれすらも忘れて跳びかかってこようとしたらしい。
などと、俺とメイが身動きがとれない中でもいちゃいちゃしようとしてると、店舗のすぐ外に人影がある。さっき店員のほうへ強盗団共は集まって行ったからこの人影は一味ではない。とすると、まだ強盗に見つかっていない客の一人か店員の一人なのだ。シャッターが閉まりそうになった時に逃げ出さなかったのか?
俺はその人影を見て、納得した。
それもそのはずだ。
その人は目を瞑ったまま、あの視覚障害者が使う杖?のようなもので地面をつついている。目が見えないのだ。何が起きているのかわからないはずだよ。年齢は60は超えているだろうか?綺麗な白髪の髪が印象的なご老人だ。今時に珍しく作務衣のようなものを羽織っていて、和風な出で立ち。
「危ないですよ、ここ今、強盗に襲われてt」
と、俺が話しかけようとすると、連中め、気づきやがった。
また日本語ではない何かの言葉で怒鳴りながらこの障害者に向かって近づく。そして銃を持って何か叫んでいる。それは銃を持って威嚇しても微動だにしないそのご老人に対して、「こいつ、何か武器を持ってるんじゃないのか?」という意味があった。興奮しているのかこの人が目が見えないから銃を持っているのもわからないっていうのも理解できていないようなのだ。
「そ、その人は目が見えないのですわよ!」
震える声でメイがその中国語っぽい言葉を話す強盗に言う。
言葉が通じないのはこれほど不便なものなのか、メイの言葉すらも何かの攻撃的なものと受け取っていたのだ。その強盗はメイに向かっても銃を向けて何かを怒鳴り散らす。
やばい状況だな…一気に片付けるか…。
俺は武器リストにグラビティーブレードを待機させる。
と、その時、ごんっ、と何かが床に落ちる音が聞こえた。
いや、俺はその瞬間を目で追っていたからわかるのだ。その目の見えないご老人が持っていた買い物袋を床に落としてしまった時の音だった。だが、中に入っていたのが結構な硬さや重さのものだったのか、音はそれほど大きくないにしても銃声にようにも聞こえてしまったのだ。
緊迫した状況の中で聞こえる、銃声のような音。
それは人の防衛本能を刺激して、例え自分の目の前に無防備な人間がいたとしても、自分の命を守るために凶暴にさせる。どんな人間でも凶器となる。その強盗は持っていた銃を銃声のような音が聞こえた方向へ…つまり、ご老人のほうへと向けた。