144 キミカのお誕生日会 1

冬の朝。
しんしんと降り積もる雪を見ながら、暖房を効かせた部屋でMapProを起動して俺はプログラミングに精を出していた。決して精液を出していたわけではない。そんなものは残念ながらこの女の子の身体からは出ない。
ともかくこのjavaという言語は素晴らしい。
何が素晴らしいかって言うとMapProの美しいフォントで描かれれるjavaソースコードの見た目が素晴らしいのだ。行間を開けてタブで感覚を揃えて、なんだかよくわかんないけどよくわかんないなりに綺麗に整っているソースコードをスタバで開けば「スタバに通うようになって早10年…ただ単純にMBA2chを見ているとかそんな輩ばっかりだったが、コイツは一味違う…この女…javaをやっていやがる!」と鋭い眼光でみられたりするんじゃないのか!
それこそドヤラーとしての生きがいだ。
そんなスタバでの自分を思い浮かばてニヘニへ笑っていると、マコトが俺に話しかけてくる。
「キミカちゃーん。誕生日っていつ?」
なんだろう突然。
「誕生日?2月の24日だけど」
「えええ!!!あと10日しかないじゃないか!!どうして言ってくれなかったんだよォ!!!!!」
「だって…聞かれなかったし。っていうかそれを知ってどうするの?」
「えぇぇぇえっ?!」
マコトは俺がとんでもない事を言い出したかのようにそのまま椅子から転がり落ちて、四つん這いのまま俺のところへやってきて俺を見上げてわなわなと唇を震わせながら、そして俺の太ももを両手で掴んで言った。というか、叫んだ。
「お誕生日のプレゼントだとかお誕生日会だとかお誕生日会で出す料理の準備だとか、色々必要じゃないかァァァッ!!」
「いまさらお誕生日だなんて祝ったりしないよ…ははは、マコトはまだまだ子供だなぁ〜」と俺は再びプログラミングを再開する。
さてと、System.out.ppppppppppp
「おわわわわわわわ!!!」
「キミカちゃぁぁぁん!!」
マコトが俺の背後から肩を掴んでガタガタ震わせるので入力が出来ない。
「ン…だよォ!!!」
「ボクにとってキミカちゃんの誕生日は重要な意味があるんだ…命の恩人であるキミカちゃんの『誕生』を祝うことがボクの役目でもあるし、そして好きな人の誕生日を祝うことそのものが僕が最も好きとしていることなんだ!」
「そんなに祝いたければパソコンの壁紙をあたしの写真にして、その前でコンビニで買ってきたケーキとかオードブル並べて『お誕生日おめでとう!』って写真撮ってTwitterにでもアップすればいいじゃん」
「どこのアニヲタだよ!そんなことボクがするわけないじゃないか!とにかく、ボクはキミカちゃんの誕生日会の準備を高速で済ませるから!!あぁ!こうしてはいられない!急いで買い物に行って…それから、あれを作ってこれをつくって…うわぁぁぁぁぁぁ!時間が全然足りないよォ!」
などと言いながらマコトは家を出て行った。
誕生日会って小学校の頃にやったことがあるような…でも昔なので、どうだったのかは思い出せないや。印象に残らないような面白くもないモノだったらしい。お誕生日なんて俺からすれば親からお金貰える貴重な日っていうだけで、それをお祝いしてくれる人達に対してなんら特別な感情は抱かなかったな。
誕生日を迎える、つまり『歳をとる』ってのは、死に一歩一歩近づくし、女にしてみれば老化が進むわけだから決して良い物じゃない気はするよ。歳をとれば経験を積み重ねる事が出来るとか言うけどさ、ただ時間を過ごしてきただけじゃぁ経験なんて積まれないからな。歳をとりましたのどこが素晴らしいのかっていうあれだよ。お祝いするようなレベルの話じゃないよ。
まぁ、2月24日が特別な日かと言えば、俺が産まれた日であるから俺や俺の親にとっては特別かもしれないけどさ。親はもう居ないし。
…そうか…。
俺の誕生日をお祝いしてくれる人って、誰も居なくなったんだな。
俺以外は。
そんなこんなで思うところはあるけれども、月曜日の学校にて。
俺は驚く事になる。
突然メイが教室にやってきて、そして俺を見てわなわなと震えた後、倒れたのだ。ものの見事に白目を剥いて。
「ちょっ、メイどうしたのよ?!」
駆け寄るユウカ。
俺もナノカも気になってメイのところへと行く。
メイの意識はまだあるようで、白目を剥いたまま、
「ぉ…おねぇさま…メイを…メイをどうか、殴ってください」
「えぇぇぇッ?!」
クラスメートやユウカは俺を白い目で見た。メイの白い目とは違う意味での白い目で。睨んだとかそういうレベルの話。
ナノカが言う。
「キミカっちの事だからメイっちとSMでもしてたのかな?」
「違うよ!!」
俺はメイの元へと駆け寄ると、抱き起こしてから意識が薄れそうになるメイのほっぺたをペチペチと叩き、
「誤解を説いてよォ!!!またあたしが変態扱いされちゃうじゃんか!」
と言った。結果的にメイを殴ることになった俺はメイに、
「あ、ありがとうございます…」
と言う。
「なんでぶっ倒れたの?」
ユウカがメイに聞く。
「そ、それは…ちょっとここでは言えませんの」
と言う。
おい。
疑いだけばら撒いて誤解を解かないままにする気かよ!
「別にSMとかそういうのではありませんわ…ちょっと、ここでは話せない事ですから、他の方は…(と、まるで犬でも追い払うかのように、クラスメート達をシッシッシと手で追い払う)」
俺の周囲からクラスメート達が去っていった後、メイは俺を見つめてから、
「おねぇさま…どうして教えて下さいませんでしたの?」
「え?」
「誕生日が2月24日だってこと…」
「いや、だって、聞かれなかったし」
ってなんで知ってんの?!
その話を去っていったと思ってたナノカやユウカが盗み聞きしていやがった。すぐさま俺の元へとやってきてから言う。
「キミカっちの誕生日って2月24日なんだ!!よし、お誕生日会だ!」
「へぇ〜…アンタにもお誕生日ってあったのね」
って、おい、ユウカ、殺すぞお前。
そんなノリとは違ってメイは重度のうつ病患者のような顔で、
「ぉ…おぉねぇさまが…もっと前にそれを話しておいてくだされば…うぅッ!メイは…メイは、おねぇさまの誕生日がある月は徹底的に予定をなくす事だってできましたのに!!」
「は、はぁ…」
「おねぇさまが誕生日なのに、私は…ヨーロッパに出かけなければなりませんの…うぅッ!!おねぇさまのお誕生日会に出られない私を…どうかブッて…そのおねぇさまの神聖なる手で私をブッてくださいましッ!」
あぁ、そういう事だったのか。
別にいいのに。
しかしナノカは面白おかしくメイに向かって言うのだ。
「うわぁ〜、メイっちやっちまったねぇ…これはマイナスポイントだよォ。キミカっちの誕生日会に出られないってもうキミカっちの『恋人』どころか『友人』も『後輩』も『知り合い』も名乗ることはできないよォ…ご愁傷様」
などと言ってメイを怯えさせる。
案の定それを聞いたメイの顔から血の気がなくなり、そのままぶっ倒れてガタガタ痙攣し始めるのだった。
「ナノカァ…」
俺はナノカを睨む。
てへぺろォ」
とナノカは舌を出して笑った。