144 キミカのお誕生日会 2

次の授業は家庭科だった。
しかし、この授業は殆どあっても無いようなもので、普段から女子どもは自由時間の如くお戯れになっている。頑張っているのは男子だけだ。
かくいう俺もこんな身体(女の子の身体)だけれど中身は男の子なので先生の話を聞きながら料理を作ったりお裁縫をしたりするわけだ。
ナノカはユウカと相変わらずだべっている。
その時は俺の話題だったらしく、俺の顔を時々チラチラと見ている。ある時、ふと俺のほうへとやってくると、
「キミカっち、お誕生日会とか開くんでしょ?」
なんて言うのだ。
「開かないよ〜。この歳でお誕生日会とかありえないってば」
「んモぅ!そんな事言ってないで!あ!メイっちに言われてるんだった!」とナノカは途中で話を中断し、口の前に手を置いた。人前で話しちゃダメな話なのか?俺の誕生日会が?
「メイになんて言われたの?」
ナノカは声のトーンを落としてから言う。
「ん〜、キミカっちの誕生日って意外と誰も知らないんだよね」
「ま、まぁ、話してないからね」
「マコトっちがせかせか買い物してるのを見て、メイっちの野生の勘で、キミカっちの誕生日じゃね?って思って、キミカっちに聞いたからわかったらしいんだけど、もしこれがキミカファンクラブとか、ミス・アンダルシアを崇拝してる女子とかにバレたら…大変な事になると思ったらしくて、あたしには黙ってて欲しいと言ってたんだよォ」
「…」
野生の勘どんだけだよ!!
しかしそれにしても…俺は身震いした。
そうだ。
ファンクラブの連中とかに言ったら一斉に話題として広がる。
そうなると俺の誕生日会だからと家に押しかけてくるかもしれない。
『誕生日プレゼントは僕がためて一生懸命絞り出した、僕の精液です。フヒヒ…』とか言って俺の下駄箱の中に精液をぶちまける馬鹿が現れるかもしれない。決して冗談だとかいうレベルじゃなく、本気でそんな事をやる輩がいるかもしれない。ファンが多くなれば多くなるほどマジキチが増えるもんなんだ。たしか蟻は8割はマトモだけど2割はマジキチで、8割のまともな蟻を取り除いたら残りの2割のうち、8割はまともに戻り、2割はマジキチのままとか、そんな話がある。つまり大勢の奴がいるところにはかならずマジキチが現れる。
野生の勘でメイは俺の誕生日を悟ったけれど、他の連中についてはまだ勘づいてないようだ。いや、勘づいてないと仮定しよう。そうしなければ精神的に俺がもたない。その前提で、とにかく誰にも言わないようにしよう。
誕生日会をやるとしても、マコトと二人きりで。
「だからぁ、キミカっちぃ…」
って、ナノカ話してたのか。
俺は精神を集中してたので気付かなかったよ。
「なに?」
「誕生日会だよォ!」
「え!!やらないよ!やらないやらない!」
「えー!あたしは参加してもいいでしょォ?」
ナノカが?まぁナノカならいいか。
「OK。だけど他の人は呼んだらダメだよ?」
「うん。あたしとォ…あとはユウカ…あとはぁ…」
「もういいよ!ナノカとユウカとマコトとあたしだけでOK!」
「えー!寂しいじゃんかよォ…メイリンちゃんとコーネリアちゃんも呼ぼうよ。お誕生日会なんだから人は多いほうがいいじゃん?」
などとナノカは俺の袖を引っ張ってから言う。
「あーもう、わかったわかった!呼んでいいよ!でもそのバカ2名にも口外するなって言っておかなきゃメイが恐れていたことが現実になっちゃうよ!言っておいてね!もし誘うなら原則言っておいてね!」
「わかったわかった!もーキミカっちは、怖がりなんだからぁ」
ナノカは精液を上履きに掛けられるとか絶対にありえないからいいよな!
などと思っていた時だ。
突然家庭科の先生が『誕生日』というキーワードを出したのだ。
「ヒッ!」
俺はガタッと身体を震わせた。
家庭科の先生は続ける。
「とかに、プレゼントするのもいいかもしれませんね」
な、なんだ…刺繍とかをプレゼントするのも良いですね系の話かよ。
しかし、それに反応したのは俺だけではなかった。
まるで今の俺とナノカの話を嗅ぎつけたかのようにクラスメートの中の男子ども(全員キミカファンクラブの連中)がピクリと動き、その後、俺のほうをチラっと見ているのだ。
やばい。
やばいぞ…。
考えすぎかもしれないけれど。
「藤崎さん」
(ビィィクゥゥウ!!)
俺は身体に電気でも入ったかのように緊張させた。
「なななななななな、なんですか?」
声の主は俺のテーブルの隣のテーブルの男子だ。
「も、もしよろしければ、お誕生日を教えてくれないかな…」
などとモジモジしながら言う男子。
「よろしくないです!レディにお誕生日聞くなんて!失礼だよ!」
「えぇぇ〜!レディに歳を聞くのは失礼の間違いじゃないの?」
「ダメダメダメダメ!教えない!」
クソッ!
なんて勘のいい奴等なんだ。
家庭科の時間だけでクラスメートの男子全員が俺のところにやってきて代わる代わるお誕生日聞いてきやがったぞ。挙句に近くの女子なんて、
「教えてあげればいいじゃん?」
とか言ってるし。
お前、俺の上履きに精液垂らされててたらそれを拾い集めてお前のスクール水着股間の部分に練り込んでおいてやるからな!!