105 S-Day 1

ある日の事、教室で授業と授業の合間の休み時間にユウカ、ナノカと寛いでいたところ、ユウカが教室の外へと目をやった。
「あら、メイ何してるのかしら」
メイ?
2年の教室に何をしに来たのかな?
と廊下の方を見てみると、そこには禍々しい妖気を漂わせて俺を見つめているメイの姿がある。それだけじゃなく周囲も気にし、まるで獲物を捉える為に猛獣の巣に迷い込んだハンターのようだ。
「うわッ!」
俺は思わず小さく叫んだのだった。
俺達がメイに近づいて話し掛けてみると、周囲を警戒しながらメイは「怪しげな人が居ないか見張っていますの」と言う。
俺は「いや、アンタが一番怪しいよ」とツッコんであげようかと思ったけどメイとはボケ・ツッコミの関係ではないので止めておいた。
「アンタが一番怪しわよ」
うわ…ユウカはストレートだなぁ。
「わたくしはキミカ姉様の身を案じてこうやって…」
「大丈夫よ、コイツ(俺を指差して)丈夫だから」とユウカ。
確かに俺は丈夫かもしれない。
が、ビッチにコイツ呼ばわりされる覚えはない!
「あたしはビッチさんと違って守るべき膜があるからぁ」
「ビッチじゃないっつゥの!!」
俺の首を掴んでがくがくと揺らすビッチ。
間にマコトが入り、
「ちょっ、ちょっと待ちなよ。確かにキミカちゃんはユウカさんと違って守るべき膜があるんだよ、乱暴にしたら膜が、」
「だから私はビッチじゃないっつゥの!!」
ユウカは今度はマコトの首を腕に抱えて締め上げる。
プロレス技が好きなんだな。
…っていうか膜ってなんだよ!
なんでマコトは俺が処女だって事を知ってんだよ!!
そんなやり取りをしていたら意外なクラスメートがメイに話し掛けた。キミカファンクラブの団員達だ。仮に団員A、B、Cとすると、
団員Aは「音無女子、大丈夫ですよ、ここは俺達がカバーしますので」と誇らしげに言う。
「怪しげな人はいませんでしたの?」
メイの問いに団員Bは、
「えぇ、朝から見守っておりますが大丈夫です」
なんなんだよコイツ等。
「さっきから何の話をしてるの?」
ナノカが問う。
「じつは、ストーカーがいますのよ」
周囲を気にしながらも小声で言うメイ。
「す、ストーカー?」
俺は思わず「いやアンタ等がストーカーじゃんか」と言おうと思って喉まで出掛かっていたがやめておいた。
「アンタ等がストーカーでしょうが」
ユウカは相変わらずストレートだなぁ…。
「違いますのよ、わたくし達はキミカお姉様の親衛隊。こうやってお姉様のお体を気遣って身を呈して守りに来ていますのよ!」
「そ、そう…」
そう言って、俺は額に冷たい汗を垂らした。
「キミカちゃんはボクが守る!!」
うわ、また暑っ苦しいのが来た。マコトだ。
そんな意気込みに感銘をうけたのか団員Cは、
「そうか、藤崎マコト女子も我らが親衛隊に入隊するか!それは心強い!キミカ嬢と常に同伴しているのなら尚更。きっと我々以上にキミカ嬢を観察し、様々な思い出の1ページの写真を収めてくれるだろう」
ってなにそれ、ストーカーだよね?ストーカー行為だよね?全然守ってないよね?胸チラ・パンチラとかの写真が欲しいだけだよね?
と言いたかったが俺は我慢しておいた。
これ以上面倒な事になるのを避けるためもある。
「それって集団ストーカーって言うんじゃないの?」
キタコレ、ユウカの直球キタコレ。
「違う…!我々のキミカ嬢に浴びせる視線は絶滅危惧種を見守る専門家のような…ハンターから彼女を守らなければならない」
とりあえず俺は、
「そのストーカーっていうのはどこにいるの?誰なの?」
と聞いてみる。これにはメイが答えた。
「わたくしと同じクラスにいる『牛塚あけみ(うしづかあけみ)』っていう女ですの!!いつもキミカ姉様の話題ばっかり同じクラスメートの女子達と話をしていますのよ!!」
「え?それだけでストーカー認定?」
「それだけじゃありませんのよ?!」
「でも、ミス・アンダルシアなんだから話題にぐらいするんじゃないの?うちのクラスメートの女子だってあたしの事を話題にするよ、嫉妬の対象として。本当に腐った連中ばっかりだよ」
俺はクラスメート女子の白い視線を感じては居たが無視した。
「ち、違いますのよ!!わたくしには分かりますの…アイツは危ないですわ!放っておけば危なくなるタイプの奴ですの!同じストーカーだからわかりますのよ!アイツは恋に故意に狂うタイプですわ!」
いま同じストーカーって言った。
同じストーカーだからって言った。
「じゃあ、例えばなんなのよ?その『危ない兆候』ってのは?」
ユウカの問いに、
「例えばキミカお姉様は昼食の時に食堂に行きますわよね?」
「うん」
「この学校は御存知の通りバイキング形式ですわよね…牛塚はキミカお姉様の後についていって、わざと同じ物を食べていますのよ?」
「へ?」
「例えばキミカお姉様がミニ・トマトを取るとします、そうすると牛塚は同じくミニ・トマトを取るのですわ!!」
とっちゃいかんのかよ!
「全部同じってこと?」
「そうですの、盛り付けもですわ。毎日ですのよ?」
「うわぁ…」
よくわかんないけど確かにうわぁ、な内容だ。
それをストーカー行為とするのかはプロのストーカーであるメイしかわからないところではあるけども。