105 S-Day 2

メイに牛塚あけみの写真をもらった。
クラス写真の一つだ。
特に何か変なところはない、制服姿の同じアンダルシア学園のクラスメート達と何処かの公園で椿の木の前で並んで撮られた写真だ。これだけ見ればまさかこの女の子がストーカーだとは誰も思うまい。
「本当なのぅ?」
俺はジト目でメイを睨んだ。が、メイは至ってまじめに、
「本当です。信じてください」
と言った。
そこで俺は次の日、俺の周囲にこの牛塚あけみが居るのかとか、もし居たらどう俺と関わっているのかなどを調べてみることにした。俺が普段から景色の一部だと思っているアンダルシア学園の生徒の中でどう「さりげなく」俺に近づいてきているのかも気になってはいた。もし今まで俺が特に意識していないのだとすれば、それはそれで牛塚には何かしらの才能があると思うのだ。ストーキングの才能が。
そして翌朝。
俺が制服に着替えている間に、マコトは隣でファイティングポーズなどを取って強さというか男らしさ的なものを何故か俺に向かってアピールしながら、
「キミカちゃんにもしもの事が起きそうだったらボクが全力で阻止するからね!!キミカちゃんは何も心配しないで!」
そう言って拳を突き出しながら、
「はぁッ!」とか「てぃッ!」とか叫んでエントロピーコントロールで炎や冷気を出していた。っていうか、気をつけてくれよ…マジで…相手はあくまで「人間」のストーカーなんだからさ。マコトが本気で向かって行ったらストーカーだろうがストリーキングだろうがストラクウィッチーズだろうが気化させちゃうかもしれないからな。
それからマコト、ナツコ、俺は歩いてバス停へと向かう。
「異常なしィィ…」
「ちょっ、マコト、いちいち声に出さなくていいから!」
「え、だってェ」
「ん?」
ん…?
んんんんん?!
俺はバス停に並んでいる中にアンダルシア学園の制服を「俺達以外」で見つけた。今まで全く気づかなかったが「牛塚あけみ」じゃないか!いつからコイツ俺達が乗るバスと同じバスに乗ってたんだ?
どうなってるんだ…?
牛塚は前から同じ地区に住んでたっけ?
いやいやいや…ちょっと待てよ、待て。
この地区でアンダルシア学園に通っているのは俺とマコトとナツコ以外は居なかったはずだ。その話はちょっと前にケイスケが話してた。じゃあ、牛塚がなんでこの時間に俺達の地区のバス停を使ってるのか…。
どう考えてもここまで来てからバスに一緒に乗ってるとしか思えない。俺はメイに牛塚がどこに住んでいるのか聞いておけばよかったと後悔した。もし知っていたらこの心のモヤモヤは今すぐにでも晴れていたからだ。正直、牛塚がストーキングの理由以外の事情でこのバス停を利用していることを信じたい俺が居るのだ。
『キミカちゃん、アレって』『キミカさん、アレって』
マコト、ナツコ両方から同時に電脳通信が入る。
『…そうだね、ストーカーさんが同じバス停に並んでるね…あんまりあっちのほうをジロジロみないで。刺激するとマズイ気がする』
2人は俺の意見に同意し、何食わぬ顔で到着したバスに乗り込んだ。もちろん、牛塚も何食わぬ顔で同じバスへと乗る。
『キミカちゃん、前のほうに座って。ボク、一番後ろの席に座るから。そこからヤツの行動が見えるからさ』
『うん、了解』
俺はなるべく前の開いてる席に、牛塚は俺からは見えないが、少なくとも俺の席よりは後ろ、そしてマコトとナツコは一番後ろの席から一つ前の位置に座ったらしい。
『うわぁぁぁぁ!!!キミカちゃん、さっそく見てるよォォ!!』
『え?ちょっ、マジでェ?!』
『マジマジ…大マジだよォ…。キミカちゃんにも見せたいけど今は我慢してね、バックミラー使ってもバレそうな気がする。この状況で目が会うのはマズイと思うよ…変な気を起こさせるからね』
『見てるってどんな感じなの…?ガン見してるの?』
『えっとね…本人はチラ見のつもりだと思う。怪しまれないようにってのを狙って。でも全然チラ見になってないよ。チラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラ見てるよ!オッサンが女子高生のパンチラが目の前にあって「見てないよー!」って言いながらもチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラ見てるような感じに見まくってるよ!』
『うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああッ!』
『あの、キミカさん…』
今度はナツコからだ。
『ど、どしたの?』
『なんだかその人、ケータイを膝に置いてキミカさんのほうにカメラの部分を向けて写真撮っていますわ…ちょっと見た感じだと膝の上でケータイ使ってるように思えますが…」
『えええええぇぇぇぇっっ!?』
そんなこんなでバスはアンダルシア学園前に到着、登校する学生達の群れに向かってバスの乗客が合流する、わけだが、俺が立ち上がってaiPhoneからの精算を済ませる時に、牛塚は大胆な行動に出た。いや、今まで俺が牛塚を意識していなかったらこれが大胆な行動だとは微塵にも思わなかっただろう。牛塚は俺と俺の後ろに並んでいた人の間に入ったのだ。つまり、俺の真後ろに…ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!
『キミカさん!!牛塚さんがキミカさんの真後ろにいますわ!』
『うわぁぁぁぁぁぁ!!!キミカちゃんの真後ろでシャンプーの香りを楽しむかのようにキミカちゃんの後ろ髪に顔を近づけてるよォォ!!』
『ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!』