142 必要悪 2

マナブはドロイドバスターへと変身した。
先程の火炎放射と比べ物にならないぐらいに息を吸い込む。腹が膨らむ。
おいおいおい!!
この会場ごと丸焼けにする気かよ!
俺は身体をエビのように逸らした。イナバウアーだ。
マナブから発せられた火炎放射は確実に俺を殺しにきた。全方位放射で会場を火の海に変えた。つまり、会場の女性ファンやらヤクザやらに振りかかり、連中を一瞬でまっくろくろすけにしてしまう。
イナバウアー状態からグラビティコントロールで身体を起こす俺。
マナブはまだ生き残っている俺を見てオモチャを前にした子供のように目を輝かせて言う。
「もう試合なんてどうでもいい。お前を殺したい。ただそれだけだ。今の俺はただそれだけの動機で今を生きている。最高に『ロック』だと思うだろ?」
俺も奴の前でドロイドバスターに変身した。
身体が黒い炎に包まれて、その中から戦闘服姿の俺が姿を表わす。
グラビティブレードを引っこ抜いて、奴に向ける。
「そっくりそのまま、その台詞を返すよ」
「ハッ!こいつは驚いた!!お前がドロイドバスター・キミカだったなんてな!どおりで『変身前』でも強いと思ったよ!!へぇ〜!お前がか!お前がドロイドバスター・キミカだったのかよ!!」
まるで有名人に出会った田舎の不良みたいな反応をするマナブ。
「でも、まぁ、お前は『俺が中学生の頃ぐらいの強さ』だけどね」
なんだよその微妙な例えは。
俺の超高速の斬りつけが奴にキマる。
話してる暇があるなら…死ね!
キマった…。
はずだった。
確かに少しだけ手応えはあった。少し変だったけれども、確かに俺のブレードは奴の身体を切った。はずだ。だが奴の身体は傷ついてないのだ。
奴は俺の前で両手を広げて言う。
「しんぱぁーん。こいつ武器持ってるぜ?反則負けじゃね?あ、審判は俺が殺したんだった」と言い、まるで『てめぇの攻撃では傷1つ追わせてないぜ』とでも言いたげに手を広げている。
「ほら、もう一回斬ってみ?」
今度は首を差し出してくる。
スパン。
斬った。
はずだった…。
「きれてなぁーい」
奴は調子に乗っている。
「え、すげぇ…どうなってんのそれ?」
しかしそれには答えてくれない。
「わざわざ秘密を教えるかよボケが!」
周囲の温度が一気に熱くなる。マコトのエントロピーコントロールと同じだ。だが、これだけの高温だとマコトの場合はマコト自身も熱くてしょうがないだろう、だがマナブは全然ダメージは受けていない。
サウナを超える高温の熱気で俺の肌はドロイドバスターと言えども真っ赤になり、再生をしまくっている状態だ。
いや、コイツ、自分の周りだけは温度を下げてる。
つまり、コイツの射程距離内にいけば…。
足を踏み出して奴の身体に近づく。ヌルッとリングに足が埋め込まれる。溶けてるぞ。リングが熱で溶けてる。
「ははッ!かかったな、マヌケが!」
俺が射程距離内に入るなんて最初からそれが狙いだろう、だが俺だって馬鹿みたいにただ近づいたわけじゃない。接近戦をしましょうね、って事だ。
マナブの高温火炎放射が俺を狙う。
ギリギリで身体を回転させてかわしてマナブの背後に背中をくっつける。筋肉の動きではこれは成せない、が、グラビティコントロールではそれができる。ありえない身体のトリッキーな動きで俺は奴の背後へと回ったのだ。
そして、今度は確実に奴の胴体をグラビティコントロールで突き刺した。
嫌な感触だ。
さっきと同じだ。
コイツ…。
俺はグラビティコントロールが刺さっている奴の腹のほうを見てみた。
え…?
「液体…?!」
奴の腹が液体になってる。
いや、ゼリー状というべきか。もちろん、グラビティブレードは吸い込む力があるので奴の身体の一部はブレードに吸い込まれてなくなっているが、ソレ以外の部分はゼリーのようになってプルンプルンと空間を空けている。
「キメェ…」
俺は縦に上にブレードを振り上げた。
奴の身体は縦に真っ二つになった。が、奴の両腕の筋肉はまだ動いており、手で崩れた身体を元の位置へと戻しすぐにくっついた。
エントロピーコントロールでは気体を個体にしたり、個体を液体にしたり、液体を気体にしたりできる。エントロピーを制御できるって事はつまり、身体を個体から液体に一瞬だけ変えることができるってことか。
しかし、全身がゼリー状なら身体の形状を維持できないから絶対に個体の部分は残さないと駄目だ。その上で俺の攻撃があたるであろう部分を見切って、そこだけをゼリー状にしてダメージを軽減する。
つまり、コイツは見切りが失敗したらダメージを追う…はず。
気がつけば俺の足は完全にリングの中にずぶりと沈んでいて、マナブは俺を見下ろすような形になっている。まるでフェラでもするかのような体勢だ。
もう次は蹴りが飛んでくる。間違いない。
ほら、蹴りが飛んできた。
プラズマフィールドが作用してダメージを軽減してくれているが、それでも俺の身体はドロイドバスターの蹴りを直撃で食らって吹き飛んだ。
俺の身体が吹き飛んだ先は観客席であって、まっくろくろすけになった観客が炭の破片となって空中に散らばった。
「さぁ!踊ろうぜ…!」
マナブは手を広げてキザに台詞を吐いた。