17 討伐令 2

暗く冷たい神殿内から太陽がギラギラと照りつける砂漠へと足を踏み出す風雅達。忘却の神殿の仕掛けを解除し、外に出られるようになったのだ。
「とりあえず女王に報告しよう。次のタロットのカードが輝いて、文字が浮かび上がっているんだろう」
たまたまタロットのカードを全部持っていたジャスミンは、一つ一つをめくって光っているカードがないかを探す。そしてそのうちの一つ、縁が輝いているカードをみつけ、風雅に手渡そうとする。
「これのことかな?」
その瞬間、神殿の上空の空間から突然、げんこつ台の大量の石が降ってくる。よく見るとどれも焼け爛れていて、溶岩の中から取り出されたもののようだ。無造作に降ってくるのではなく確実に風雅達を狙っていた。
「魔法よ!」
マハが叫ぶ。
「クソッ…囲まれてるぞ!」
神殿の周囲をオークが囲んでいる。
見覚えのある顔がその中の一匹にある。それはひと際巨大で筋肉質で、顔の目の部分に傷がある。そう、アルタザールから風雅達を追い掛け回しているオークの旅団の首領「片目のナブ」だった。
「東方の国から来た小さき忍者よ、ここで追いかけっこはおしまいにしようか!」と、叫ぶナブ。間には随分と距離があり、風も吹いていたが何故かそれを無視されて風雅達の耳に届く。
「あれは、君たちの知り合いなのかい?」
デスティンが言う。
「知り合いというか、しつこいファンでね」
風雅が言う。そして印を結び、術を唱える。
「土遁!土流壁!」
神殿のそばにある岩から大量の土砂が盛り上がり、空高くまで積み上がる。そして土壁が目の前に現れる。だが次の瞬間、土壁に衝撃波が響いた。その衝撃波は周囲の砂を吹き飛ばす。風雅が知る限り、土流壁を力づくで破壊できるオークはただ一匹、片目のナブだけだ。
再びゴンッ!と音がすると今度は誰が見ても壊れる寸前のヒビが入った。
「まずい!」
風雅が再び印を結んで同じ忍術を使おうとした瞬間、壁が凄まじい音を立てて粉々に砕け散り、中から普通のオークよりも一回りもふた回りも巨大な姿のナブが姿を現した。そのまま風雅の胴を片手でひっつかむと、神殿の壁に叩き付ける。その衝撃波で一瞬周囲の空間がねじ曲がったかのようになる。
ロイドが剣を抜き真っ先に切り込む。
だがリーチの長いナブの回し蹴りが剣先よりも早くロイドの懐を捉えた。後方へ吹き飛ぶロイド。鎧はその衝撃で破壊された。
「くっそ!化物かよ!」
ロイドは強度が鉄よりも固いミスリル製の鎧が木っ端微塵になったのを目の当たりにして叫ぶ。
「ようやく上から貴様の討伐令が下されたぞ!これで心置きなく殺せる!」
ナブの声は周囲の空気を震わせる。あれだけの衝撃波を繰り出せるそもそものエネルギーが今度は口から出ているとも取れるほどに。
今度はマハが炎系の魔法を唱える。掌に炎の玉が現れてそれは次第にぐるぐると回転し始める。そして回転がどんどん早くなると、光の玉のようになる。ナブに向かってそれを放り投げた。
マハの放った地を光の玉は地を張ってカーブを描きながら、そのまま行けばナブに命中すると誰もが思った次の瞬間、
「カッッッ!!」
ナブは闘気だけでその魔法をエーテルの状態にまで戻した。
「魔法効かないの?!」
マハが叫ぶ。
「魔法も剣も効かないなら…!」
ナツメグが一歩前に出た。
震えながら。