17 討伐令 3

ナブの前に立つナツメグ
二人の体格差は誰がどう見ても「巨人に立ち向かう小人」だった。だが、ナブは何故かその小さな小人に対して軽くあしらうような素振りは見せなかった。あと少しで風雅のトドメがさせる程に締め上げていた腕の力を落として、そのまま放り投げたのだ。砂の上に転がる風雅。
『如月!何があった?!』
青井から電脳通信が入る。
『ここにログインしてからしつこく俺と豊川さんに付きまとっているオークが来たんですよ。今四方を囲まれててまずい状況です。旅団なのでそれほど数は多くはないんですがね』
『ちょっと待ってろ、ゲーム得意な奴がいるんだよ』
青井は振り返って一緒にモニタリングをしている東屋に言う。
「オークに囲まれているらしい」
「数はいくらぐらい?」
「旅団レベルっていうが、旅団っていうのはどれぐらいなのか?」
「旅団?名前はなんていうのかな?旅団によって違うけど」
『如月、旅団の名前はなんていうんだ?』
『あー。よく知りません。片目のナブって奴が首領です』
「片目のナブ、知ってるか?」
東屋は手を額に当てて頭を抑えた。
「まずいっスね。ナブは八つ裂き旅団の首領だよ。最強クラスの奴だ。単体でも強いけど、旅団全体の動きが早くて、よく小さな村や街を襲ってた。そんで討伐に向かっても既にいなくなってる事はざらだったよ。倒せた奴はたまたま人数が集まってる時に、たまたま出くわして、たまたま応援が駆けつけた」
「つまり…いま囲まれてるっていわれてんだが、こりゃどうなるんだ?」
「囲まれる前に逃げるしか…」
「いや、だから、囲まれてる時はどうすりゃいいんだよ!」
「えっと…俺がやってた頃は、一人が囮になってナブとやりあってる間に、防御が弱いところをついて逃げたかな…その囮は死ぬけど」
「…チッ。今ゲームの中で死ぬって事は、『死ぬ』って事だ」
東屋はまたさっきと同じように額に手を当てて、今度は頭を掻きむしった。その時小さくクソッと聞こえるか聞こえないかの声で言った。