17 討伐令 4

『如月、聞いてるか?』
砂から起き上がった風雅の頭の中に青井の声が響く。
『ええ』
『相手は八つ裂き旅団のナブだな。とにかく逃げろ。ゲーム得意な奴のアドバイスだ。あと、ナブは魔法が効かないし剣も少ししか効かないから倒そうと思うな。今お前が死ねばリアルの世界でも実際に死んだことになるぞ!』
『そんな事は百も承知ですよ。ここにログインした時からね』
風雅は再び印を結ぶ。しかしそれは妨げられた。ナブの部下のオークも続いてやってきて、その放った矢が風雅に命中しそうになったのだ。
「くそっ!せめてナブと奴の部下は切り離さないとダメだ」
その時、今まで砂ばかりの場所で水が地面から湧き出しはじめ、それは白い煙をあげながら氷へと変わった。フェイの魔法だ。
「分断すればいいんですね」
フェイが詠唱を終えると地面から氷の分厚い壁が現れた。
ナツメグが叫ぶ。
「みんな神殿の中へ逃げて!ここはあたしが食い止めるから!」
「ダメだ!みんなで逃げるんだ!」
ロイドがそれを止めた。
「あたしは後で行くから!」
そのやりとりを見ていたナブは笑いながら言う。
「逃げるだの逃げないだの言っているものがこのわしに勝てるとでも思っているのか?勝負に集中しろ!」
ナブの拳がナツメグに振り下ろされる。その衝撃波だけで相手を粉砕するだけの力のある拳だ。だが、何故か今までの衝撃波は発生しなかった。代わりに周囲の砂が舞い上がった程度だ。
そしてその砂が風で飛ばされた後、ナツメグの姿が現れる。
「なん…だと…」
その驚いた言葉を発したのはナブのほうだ。
ナツメグは手をクロスさせてナブの拳を塞いでいた。巨人の拳を小人が受け止める。そんな滑稽な様子がそこにあった。
『逃げれたか…?』
風雅に電脳通信で青井の声が届く。
『仲間が戦ってる…。置いて逃げるなんて出来ませんよ』
青井はそれを聞いてから、再び東屋の顔を見た。それは「どうすりゃいいんだ」とでも言うような顔だったが、何も声に出さなかった。
「そういや…。俺が現役だった頃にナブとタイマンでやりあった奴が二人だけいたな」
「勝てたのか?」
東屋は首を横に降って、「勝てやしないよ。ボスキャラ設定のオークにタイマンでやるってのは、勝つよりも生き残れるかどうかだからさ。でも、そいつらはタイマンでやってあくまで同点だった」
「誰だ?」
「一人は『臥龍(がりゅう)元帥』…アルタザール元老院で事実上トップのジジイ。リアル世界でも格闘家だったんじゃねーのかって言われるぐらいにマーシャルアーツに精通していた。んで、もう一人はそのジジイの弟子だって言われてる女だよ。名前は確か…ナツメグ