18 討伐令 5

ナブは驚いた目をしていた。ナブが驚いた目をするのを部下のオークも見ていた。それはナブの気合いが戦力の一部になっていた旅団に取っては致命的な出来事だったのだ。
何かの間違いではないか。ナブはそう思ったのか、額に汗を浮かばせながらも再び2度目の拳をナツメグに向かって放つ。だが、軸足を基準にして身体を反転させ、虚しく拳は空を切る。魔法すらはじき飛ばしてしまう衝撃波も何故か一緒にナツメグの頬をかすめて横へとそれていく。
「貴様…まさかあの臥龍の技を…」
「へっ。ナブは頭が悪くて忘れっぽいといわれてたけど、あたしの師の名前はちゃんと覚えてるんだね?」
「たわけが!奴を殺すために鍛えておるのだ!」
今度はナツメグが蹴りを繰り出す。だが、その蹴りは簡単にナブに止められてしまう。小人と巨人の体格差が如実に現れた結果にも見えた。
「ふんっ!臥龍に比べれば貴様の蹴りなんぞ赤子レベルだ!」
足払いでナツメグを地面に払い倒して、「今度はかわせまい!」と上から拳を叩きつける。衝撃波が砂を巻き上げて空へと噴出する。巨大なクレーターができ、舞い上がった砂が風で飛んでいくと、中央にかナツメグらしき姿があった。だが、ナブの拳をまたもクロスした腕で塞いでいた。
「あたしを倒そうってんなら、あんたの得意な闘気は使えないよ」
身体を3回転させて横に飛び上がったナツメグはそのまま蹴りをナブの脇腹に向かって放つ。手で塞ごうとしたが動きが早すぎて間に合わず脇腹に命中した。それは誰がどう見ても小人が巨人に無意味な攻撃をしたようにしか映らない。だが、放った次の瞬間からギュルギュルと空気が揺さぶれるような音がする。ナブは叫び声を上げた
「ルォォォォォォォォォォォ!」
放った時から少し時間が経過してからその波動がナブの中をゆっくりと駆け抜けていくようだった。反対側まで突き抜けた後、ナブが纏っていた鎧が木っ端微塵に粉砕された。
上半身が完全にむき出しになるナブ。すぐさま右フックをナツメグに向かって放つ。またも避けられる。左ストレート、屈んで交わす。そしてナツメグの蹴りは今度はそのナブの放った腕に命中した。
パンっ!という軽い音が響くが、次の瞬間ギュルギュルとまるでナブの身体の中を波動が駆け巡っていくかのように腕先から首まで突き進んでいく。
「ふんっ!」
ナブは波動が侵入していないほうの拳で自らの腕を殴ると、体内へ侵入した波動は外へと吹き出した。ナブの血と共に。
「どうやら、臥龍とやりあった時と同じでなければならんということか」
ナブの鋭い眼光は片目だけになっていても健在だった。