12 ショックウェーブ 7

ドロイドの前で座禅を組む少女がいるという噂は瞬く間に軍病院内の関係者の間で囁かれるようになり、夕方、その女性が現れる時間となると軍や病院の関係者は駐車場へと向かうようになった。
向かった先には雄輝が座禅を組んで座っている様子があるのだ。
その滑稽な様子は一度は笑いをとったが、すぐにシャオメイの耳に入るようになり、シャオメイが雄輝に対して何らかの『罰ゲーム』を与えているのではないかとすら言われるようになった。
その日も学校を終えた雄輝が制服姿のまま、軍病院の駐車場に置いてあるドロイドの前で座禅を組んでいた。
「雄輝、一体何をしているのだ?」
話を聞きつけてシャオメイが現れ、そう尋ねた。
「何って…3トンぐらいの塊を宙に浮かせようと思ってるんですよ」
目を瞑ったままそう答える雄輝。
まるで聖職者にでもなったような落ち着きだった。
「雄輝…そのドロイドは3トンどころじゃない重量があるぞ」
「え?マジで?」
「それに、そもそも、今時点でどれぐらいの重量をテレキネシスで浮かせる事が出来るのだ?」
「それはやった事ないのでわかんないです」
「…」
「え、でも、3トンぐらいの重さのものを動かせないとダメじゃないんですか?」
「それはそうだが、誰だっていきなり重たいダンベルを持ち上げられるわけでもないだろう。鍛えてだんだん重くしていくものだ」
「ああ…そっか。そんじゃあ、こっちの小さい車から持ち上げてみようかな」
雄輝が示した次の持ち上げ対象は黄色の2ドアタイプの車だ。大きさこそ小さいが高級感がある。
「それはダメだ」
「え、なんで?」
「私の車だ。こっちのトラックからやってくれ」
渋々雄輝は同じ駐車場に止めてあった工事用の車両の前に行く。重量は1000キロと記載があるのでそれが1トン。その3倍の重さのものまでは持てなければならない。
「行きますよ」
その車の前に胡坐をかいて、意識を車の重心に集中させる。そしてゆっくりとテレキネシスの力を出し始める雄輝。浮かんだ感覚がある。
「ふむ。これぐらいは楽勝か」
「おお。すっげぇ」
「では次は2トン級だな。こっちだ」
シャオメイが案内した先には整地を行うキャタピラー付のシャベルカーが鎮座している。工事の最中にそのまま放り出して休憩にも行ったのだろう。少し前までは動いていたような形跡がある。
「では、いきますよ」
雄輝は再び、地面に胡坐をかいて手で印を結び、目を瞑った。そしてシャベルカーの重心を探り当てて、そこへ神経を集中する。テレキネシスの能力を発動させるが、1センチほど宙に浮かぶシャベルカー。だがすぐに地面につく。
「あ、クソッ」
「持てるのは1トン〜2トンまでか」
「はぁ、全然足りてないですね。当面はこれを長く宙に浮かせれるようにするのが目標かな」
「いや。恐らくお前の限界は2トンぐらいだ」
「へ?それじゃあ俺って、弾を止めることとか無理なんじゃ…」
「そうではない。使い方次第では弾を止める事も出来る。持ち上げるにしてもシャベルカーとの間の距離をつめれば更に長い時間持ち上げれるのではないか?今は神経から離れすぎているだろう」
「ああ、なるほど」
「それと、実際は、テロリストがお前目掛けて狙撃をしている状態で悠長に座禅を組んで瞑想する事など出来ない。瞬時に意識を集中させて雑念を捨てる事が出来るようにならなければならない事を忘れるな」
「ふむふむ」
その日は既に暗くなり始めていたので、そこで終了となった。