11 リージョンサーチ 4

目隠しの訓練で周囲の状況を透視する力が増すとその範囲や精度がどんどん上がっていった。最初は歩くのに障害になるものを避けるための大まかなイメージだけだったが、それに色や質感、模様、ゴミまでも認識できるようになったのだ。
また、物体の僅かな動きも察知できるようになった。宙を飛ぶハエの動きを察知する事はもちろん、距離が10数メートル先の僅かな動きも検知した。今では爪楊枝で20メートル離れた位置に飛んでいるハエの手の先だけを弾き飛ばす事も出来るようになっていた。
そして雄輝は、しばらく言っていなかった軍病院の射撃場へと足を運んだのだ。その日、雄輝は今までの修行の成果をシャオメイに見せる意味も含めて日程を調整していたのだ。
なぜか、雄輝が(少なくとも周囲には意味不明な)特訓をしている事を知っている兵士もシャオメイと一緒に成果の見学に来ていた。
「先生、見ててくださいよ」
「先生か。悪い響きではないな」
シャオメイは先生と言われて気分はよくなったようだ。ただ一つ疑問があるようで、雄輝が持ってきていた爪楊枝のパックと目隠しについて、何の意味があるのかを聞いてきた。
「ああ、これですか。びっくりしますよ」
「爪楊枝でライフル弾を弾き飛ばそうというのか?」
会場に歓声があがる。まるでサーカスのショーでも見にきた観客のように。
「俺は目隠しをして、この爪楊枝を弾に当てます」
再び会場に歓声があがる。
「まぁ、いいだろう。見せてみろ」
雄輝は目隠ししたまま、的の横に立つ。
雄輝が爪楊枝を構える。ドロイドがライフルを的に向かって撃つ。音とほぼ同時に雄輝の腕が動いた。
ライフルの弾は何事も無かったように的に命中したのだった。
「どうした?」
「当てました」
雄輝が誇らしげに言う。
シャオメイと兵士達が的の近くへ歩いて近づくと、石や雑草のほかに普段ならその場所に無いものが落ちている。
「爪楊枝がある…」
「ええ、弾に当てました」
折れた爪楊枝が数本、雑草の近くに転がっている。
「確かに…爪楊枝を弾に当てたまではいいだろう…だが、弾道をそらさないと意味が無いぞ」
「…え、やっぱり?」
ただ、明らかに雄輝は今いる位置から前に進んでいた。