139 白子のコミケ 4

「あーもう、なんだか気分が悪くなってきた」
俺とマコトはコミケ会場の外へと出て行った。
師走の冷たい風が青空の下に流れる。
晴れてよかったと誰かが言ってたけど、冬って晴れてる時のほうが曇ってる時よりも寒い気がしなくもない。
ドロイドバスターに変身してるからか外がやたら冷たい風が吹き荒れててもそれほど身体に刺激はこない。痛みなどの負の感触が和らぐように身体が作られているっぽい。
「どこいくー?」
とマコトに聞いてみると、
「さっき空から見てたあの人混みのところに言ってみようよ」
と言い出す。
あれか、人がゴミのようになってるアレかぁ。
コミケ前に大行列が出来るのは毎度同じ事だ。
東京民は様々なカオスな情報が行き交う中で選択を強いられる時『行列』という手段をその1つとして使うらしい。これは別に東京に限ったことではなく人の多い大都会ではわりと一般的な事なのだろう。テレビでは中国で行列が作られている様なども放送されてるからね。ただ、その行列好きの東京民に加えて地方からコミケを楽しみに来た人達が合わさっているからさらにカオスになる。
行列馴れしてない人達は待っていることが苦痛でしょうがないのだろう。それに加えて待ち時間が勿体無いからと節操無くその場に色々と好き勝手自分のものを持ち込んでしまうからいざこざが起きる。東京民はそういう人様に迷惑を掛けるやからが嫌いだから、ここで地方民と衝突するんだよね。
さて、行列の話はここまでにして。
「と、その前に、コンビニ言って何か食べ物を買ってこようよ。朝から何も食べてなくてお腹ぺんぺこりんだよ」
「そうだね」
ドロイドバスター2名は変身した姿(戦闘服)のままであたかもコミケでのコスプレ集団だと思わせながらもコンビニに入店。
その時、俺はコミケのパワーというものを知ることになる。
「あれ?ここ…ってコンビニだよね?」
「うん。看板にそうかいてあっt…うわぁぁぁぁ!」
コンビニの中にまで侵食している、萌えが侵食しているぞ!!そこら中にアニメキャラアニキャラアニメキャラだ!そしてなんだよ、この人の多さは!!どんだけコンビニ好きなんだよコイツ等!こりゃ、この勢いならコンビニにも行列が出来そうだよ…。
「キミカちゃん、こっちみて!凄いよ!おむすびが!」
お、おむすびが、雪崩を起こしている…おむすび棚に収まりきれなくなった大量のおむすびが、雪崩を起こし、廊下にも溢れだして、雑誌コーナーのところまで占拠してる。どんだけおむすび棚に置くの面倒臭がってるんだよ!!
俺は慌ててその場から立ち去ろうとする。
と、その時、俺のお尻に何か冷たいものが触れた。
「お、おぉぅ?!」
振り向くとレッドブルドックが積み上げられてる!!天井まで積み上げられてる!!これ、どうやって取るんだ?!間をだるま落としみたいにしてうまい具合に取っていくのか?!
「飲み物はレッドブルドックしかないよォォ…」
マコトが情けない声を出す。
「それでも儲かるんだね、きっと…んじゃ、レッドブルドックを1つ貰おうかな」と、俺は震える手でだるま落とし状態となっているレッドブルドックの缶を1つ取ろうとする。
「ん?あれ…めっちゃ強い力で押されてて取れないよ?」
「ホントだ」
マコトも天井まで積み上げられたレッドブルドックの缶を取ろうとして取れないでいる。まぁ、男の力なら軽々と引っこ抜けるだろうけども、今は俺もマコトも女の子だからな。
グラビティコントロールでちょっと力を入れれば引っこ抜けそうだけど、それやるとだるま落とし失敗して上からレッドブルドックの缶が落ちてくる。そこは俺が見切って全部取ることにするか。んじゃ、いっちょ力を入れて…。
「おりゃ」
スポン、と引っこ抜けるレッドブルドック缶。と同時に上からレッドブルドック缶が沢山落ちてくる。それを見切って俺が掌で全部キャッチ。
その時だった。
俺が崩したレッドブルドックタワーの隣にある別のタワー内のレッドブルドックがミキミキと音を立てて凹み始めたのだ。まるで凄まじい重力に押されるように。
「て、てんじょうが…!!」
マコトが震える手で天井を指さす。
見れば天井まで積み上げられている別のレッドブルドックのタワーが、俺がその1つを崩したことで天井の圧力に耐え切れずに凹んでいくではないか。
「って、これ、屋根を支えてたの?!」
ベニヤが剥がれて奥から大量のレッドブルドックとおむすびの在庫が雪崩れ込んでくる。ヤバい。このコンビニから離れないとヤバい。
「逃げろォ!!」
俺とマコトはダッシュでコンビニから出て行く。
背後で(ずぅぅぅん…)という嫌な音と共に、コンビニは大量のおむすびとレッドブルドックの在庫とお客に埋め尽くされていた。
…。
「なんか、悪いことしちゃったね…」
「きっと、レッドブルドックで柱を造ったあとに屋根裏に在庫を放り込んでいたんだよ。重さで耐え切れなくてもレッドブルドックが支えてたんだ…。コミケ直営コンビニらしい、哀れな結末だよ」
俺とマコトはコンビニの前で手と手を合わせ拝んだ。
「さ、次行こうか次」
「お腹減ってたんじゃないの?」
「おにぎりとレッドブルドックじゃあたしのグルメなお腹は満たされないよ!それなら我慢するよ!!」
「そっか。じゃぁ、次は人混みのほうへ行ってみようか」