9 初デート 4

茶店を離れて俺とビッチの2人は商店街にどすんと良い門構えをしているショッピングモールの中へと進んでいった。俺はここには入ったことはないな。的を女性に絞って専門店が集まっているから男性が買うようなものが無いんだよね。親父とお袋で商店街に来たことはあっても、このモールに入るのはお袋だけだった。
様々な年代の女性、そしてその付添で来てる旦那だか彼氏だかの人がいる。もちろん、俺達みたいな「女子高生」のレッテルを貼っても良さそうな若い女性も沢山来てる。
俺の隣で歩いてるビッチこと早見裕香は、俺よりもちょっと背が高い。俺がもし女になっていなかったら裕香よりも背は高いから、男の俺からすれば低く見えたんだろうけど。あぁ、なんかつまんない妄想をしてしまったな。もしかしたら、とか考えていたんだよな、俺は。もし、俺が男のままでいたとしても、裕香とこうして二人で並んで歩くことなんてなかっただろうに、なんで今そんなばからしい妄想が浮かんでくるんだ。
そんな事を考えているうちに目的のお店に到着したみたいだ。
ビッチが突き進んだ先にはなんかの外国語で書かれているメーカーの専門店らしきところだった。いわゆるブティックって奴なのかな。そこで俺に、どんな趣味のをキミカが好きだったのかって言ったんだよ。キミカの恋人だっていうのも嘘で、しかもキミカ本人はここにいるのにさ。で、キミカは『俺』だから『俺の感性』で選べばいいわけだね…。さて、どれがいいのかな。
最初は俺はビッチが『ビッチ』ってあだ名に相応しいビッチ服を選ぼうと思ったんだけど、色々な服をみているうちに俺が好みの服がいくつかあって、いつのまにか俺の好みでどんな服をビッチに着せたいかって考えに変わってきていた。
そのうちの一つを選んで俺は「これがいいんじゃないかな」と言った。ワンピースだ。黒が基準となっているレースのワンピースで縁がピンク。
俺が好きな歌があって、その歌詞の中での話だよ。女の子がデートに行く時に自分が選んだ服を来て相手を落としてやろうと考えるんだけど、女のセンスで選んだ服はやっぱり男には受け入れられなくて、彼氏に選んで貰う。彼氏が選んだのが黒のピンク縁のワンピースだった。きっと女同士でこの服でいたら恥ずかしいし何かバカにされるような事を言われるんだと考えるんだけど、自分の彼氏の前だけではその格好をする。それから結婚しても、子供が出来ても、おばあさんになっても、そのワンピースを着る、っていう歌。
もちろん歌詞の中だけの話だからワンピースはどういうものなのか、俺の想像だけの話なんだけど、その想像していたまさにそれが目の前にあったんだ。ビッチにそれを手渡す。
「え、ちょっ…これ、なんか子供っぽい…」
「だって、キミカの趣味で選べっていうから」
「ああ、そう、そうなのね…こういうのが好きなんだ」
ビッチはそのワンピースを自分の身体に合わせて言う、
「こ、これ、来て歩くの恥ずかしい…。こういう服来てキミカとデートとかしてたの?」
まぁ、自分が自分とデートとか、それは脳内デート、いやエアデートって言うのかな。脳内ではエア彼女にそんな服を着せてデートしてたから、
「うんうん」
と答えておいた。
「そ、そっか」
おいおい、レジに持って行き始めたぞ。買うのかよ。