117 コミュニケーション障害 2

ワンピースなら少しは風通しがよくて涼しいと思っていた俺が浅はかだった。夏の日差しは暑いを通り越して痛い。
肌がチリチリと焼けている気がする。
こりゃ日焼けしちゃうなぁ、と思ってたら、よく見ると肌が薄っすらと赤くなっている。うわぁ、もう焼けてる、あっという間に真っ黒になってしまうよ、ビッチになってしまうよ、誰か助けt…。
ん?
赤くなっていた肌が白くなってる…?
いや、これ、肌が次から次へと新しくなってないか?
え、ちょっ、これ凄いスピードで肌が回復してるのかよ!!
そういえばドロイドバスターになってから傷の回復はめちゃくちゃ早いと思ってたら日焼けも黒くなるんじゃなくて肌が下からどんどん新しくなってくるのね…凄いや。
ナノカと待ち合わせしていた場所に近づくと何やらどっかの高校の集団デートみたいなのが行われそうになっていた。いや、よくみたらアレはナノカと俺の所属する水泳部(女子)と水泳部(男子)の集まりだった。なんてこった。騙された。
「キミカっち!こっちだよー!」
わかってるよ…なんか反射的に目を逸らしてしまった。
「ナノカと二人で買いに行くのかと思ってた…」
「なんか聞いたらみんな浴衣持ってないんだってー!もうこの際みんなで浴衣買いに行こうって思って!」
…それ早く言ってくれたら色々理由つけて東京とかのほうまで逃げたのに。
「うぉ、すげ…それノーブラなのか」
とジロジロと俺のほうを見て、話し掛ける水泳部男子。
するといいガタイをした水泳部女子が、
「やだー!男子のエッチー!ワンピースはブラが服に一体化してるんだよー!どこみてんのよー!」と、まるで自分のほうを見ていたかと錯覚させるように言う。
確かに、今考えてみると、風がスースーと通りすぎていくこの服は肌の露出が多いような気がしてきた。こんな女の子が町中を歩いてたら必ず見てしまいそうだ。
「それじゃ、さっそく行こう!」
女子水泳部のキャプテンの先導のもと、俺達はぞろぞろと移動を開始した。
途中で男子水泳部部員だけじゃなく、通行人の男という男が全部ジロジロと俺のほうを見てくる。やっぱりこれはインパクトがあったのか、でもキャミソールとか他の服も結構派手派手な気がしたんだよ、ぁぁぁ、落ち着かないな、もう別の事を考えよう。
そう、ネトゲの中での敵ボスを倒す時の戦略について…。
「やっぱり忍術で確実に動きを固めてからヒットアンドアウェイ戦法でゆっくりとボスのHPを削っていくほうが…」
「キミカっち、この浴衣、忍者っぽくない?可愛いよね?!」
「浴衣の装備はあったけどアレはイベント用で戦闘でアレを着てたらダメージが馬鹿デカくなって、」
「おーい?」
「ん?」
「浴衣を何しようかっていう話だよー!」
どうやら俺はいつの間にか浴衣売り場に辿り着いていたようだ。
「もう〜なんでもいいよ、お母さんが適当に選んどいて」
「あたしはお母さんじゃないよォォォ!!」
ナノカが持っていた浴衣の一つを手にとって見る。
意外と材質が薄いらしくてとても軽い。風通しもよさそうだ。新素材でも使っているのだろうか、これ、下手するとパンツとかも見えてしまうんじゃないか?
「んぉ?このピンクのやつ、めっちゃ可愛いね!」
「どれ?あぁ、これでいいや」
「うわ、適当!」
俺はそれを手にとってレジに向かおうとする。
「待って待って!」
と女子水泳部キャプテン。
「え?」
「サイズを合わせとかないと」
「いいよ別に、あたしはSだからSって書いてあれば」
「いや、SとかLとか小学生じゃないんだから!ちゃんと自分の身体に合うようにお店の人に調整してもらうんだよ!」
「えー!超面倒臭い…」
「っていうか、キミカちゃんが今着てるワンピースだって調整してもらったんじゃないの?」
「ん〜…」
そういえば、このワンピースって調整とか何もしてもらってないのにサイズがぴったし合ってたな…まるで俺の為に作られたかのように、ってケイスケが俺の身体のサイズに合わせて買ってきてくれたのか。忘れてたよそうだった。
ん?
俺の身体のサイズについてなんら調べずに服を買える…というのか?いや、そんな事はありえない…一体どこで身体のサイズを…!!
「うわぁぁぁぁ…」
「ど、どうしたの?」
「きっと寝てる間だ…寝てる間に…うわぁぁぁあぁぁ!」
「お、落ち着いて…とりあえず、ほら、この浴衣を持って合わせて貰おうよ。ね?」
「はい…」
店員の元へと浴衣を持っていく。
それから小一時間かけて浴衣を俺の身体に合わせるような作業が行われていたような気がする。服についてはよくわかんないので「ような気がする」としか言いようがない。いつの間にか俺もみんなも浴衣の姿へ変わっていた。
「「「うぉぉおおぉ…」」」
男子達が俺を見てからまた驚きの声をあげる。
ただ浴衣に着替えただけなのにこのリアクションは何なんだ?
と、俺は自分の姿を鏡で見てみる。
「うぉぉ…」
思わず俺も声が漏れた。
なんだか色っぽい。他の女子水泳部員達が着てる浴衣と何が違うっていうのか?スタイルが違うのか?スタイルも違うのだけれど何か色々なものが混ざって一つの色気を生み出している。
「キミカちゃん…今、ふと思ったんだけど…」
女子水泳部キャプテンが言う。
「ん?」
「キミカちゃん、今日、ブラ持ってきてなかったよね?」
「うん」
「今もノーブラなの?」
「うん」
というところで、男子達が、
「「「おおおおおお!!」」」
という雄叫びを上げる。
「え?浴衣の下って下着はつけないんじゃないの?」
と俺が聞くと、
「いつの時代の話よ!?」
キレ気味に女子水泳部キャプテンが言うのだ。
どおりで色香が漂ってきてると思ったらノーブラ・ノーパンだったのか、なんか胸の当たりもブラのような「作り物感」が出てなくてむっちりと重力に少し従っているところがあって、これがエロスに紐ついていたわけか、今更気づいた。
「ったく…はきゃあいいんでしょ、はきゃぁ!」
俺は渋々みんなの前でパンツを履いた。
「「「おおおおおおおおお!!!」」」
「ちょっ、履くなら別のとこで履きなさいよ!あぁ、もう、なんでこう恥じらいがないのよもう」
とかキャプテンが言ってる。
「いえ、恥じらいがないのがキミカ姫の魅力なのです…」
そう言ったのは男子水泳部のキミカファンクラブの団員だった。
かくして、恥じらいがない俺と水泳部部員達はお祭りへ参戦する準備を終えたのだった。