117 コミュニケーション障害 3

お祭り開始…。
して、10分ぐらいで迷子になってしまった。
誰か助けt…。
クソォ…俺は男の時は175ぐらいの身長はあったからどんな人ごみのなかだろうと少なくとも日本人だけがいる中では誰かを見失う事なんてありえなかったのだが、今は140か150ぐらいのチビの女の子なので、目印にしたものが失われるとあっちゅぅまに迷子化する。
水泳部男子のキャプテン「水口明」ことアキラの背中を追いかけてたのだが、それを見失ってしまった。
だいたいこんな人ごみの中で普段通りの移動速度でスイスイ進んでいくんじゃないよ、ついていく方の身にもなってみろっていう、これだから体育会系はダメなんだよ。ついてこれない奴はダメな奴でこれないならこれないで置いていく、とでも思ってるんじゃないのか?
ネズミが木々の間を、いや、イノシシが雑木林の中を駆け抜けるように人ごみを押し広げて「すいません、すいません」言いながら俺も突き進んでいく。なんとなく、まだまだ先の方に行ってる気がするのだ。
と、そこで突然誰かのケツに頭をぶつけたようだ。
「いて」
「おう!」
見れば男子水泳部のキャプテンのアキラがいた。
「みんな進むのが早いよ…」
と俺が言うと、
「うむ…そうだな…見失ってしまった」
と言い出すのだ。
「へ?」
「迷子になったかもしれん」
おいおいおいおい、お前の身長なら余裕でケツを追いかけれるだろうが。なに見失ってんねん。と俺は軽くパンチをした。
「もうちょっと先にいるのかもしれないなぁ」
アキラはそう言ってまた人ごみの中に消えようとする、って、そういう風にするから迷子になってしまうんだろうが、これ迷子フラグじゃんかよ。
「ちょっと待ってよ!」
俺はそう言って人ごみに消え入りそうになるアキラの手を掴んだ。
「え?」
驚いて俺の顔を見るアキラ。
「もう、あたし背が低いんだから先に進まれたらわかんなくなるってば。手を繋いでてよ!」
「あぁ、うん、悪い…」
それから人ごみの中をアキラの手に引かれて歩く。
しばらく歩くも全然合流する気配がない。
「ったく、あいつらどこに行ったんだろうな…」
「うーん…」
「ちょっと脇道にずれるか」
東京の秋葉原のように人の流れの中に逆らうとそれだけで大変だったのだ。とりあえず流れがないところに一旦は退避して作戦を練り直そうって事か。こんな人ごみでは作戦を考える事すら出来ないな。
人ごみから少し離れた路地。
気づいたらまだ手を繋いだままだった。なんて意味の無いことをしてるんだ…と、俺が手を離そうとした時、何故か手が離れない。いや、向こうが離そうとしないのだ。
「ちょっ、ちょっと」
俺は無理に手を離そうとする。
「あ、ご、ごめん」
アキラは慌てて手を離す。
ここでエロゲとかなら「何いつまでも触ってんのよ!変態!」なんて気の効いた台詞の一つは二つは出てくるのだろうが残念ながらこれはエロゲではなく現実であって、「タイミング」を逃してしまって何も言えない。本当に手を握られて嫌で嫌でしょうがなかったのか、それとも手を離そうとしたのにまだ離さなくて「あれ?おかしくね?」と思って離そうとしたのか、それすらも相手に伝わらないまま、ただ時間が過ぎていった。
気まずい…。
「ど、どっかに腰でも下ろそうか」
とアキラが言う。
ここでエロゲとかなら「んじゃ、あたしはキャプテンの椅子に座っちゃおうかなー、このスケベ椅子に!(股間を指でツン)」とかやると思うんだけど残念ながら(全然残念じゃないけど)これはエロゲではなくて現実であって、そんなオモシロエピソードなんてあるわけがない、ただ俺は「う、うん」と言っただけだ。
ヌゥゥ…。
しばらくの無言。
お祭りは非常に盛り上がっているのに、ここだけ空気が凍ってるかのようだ。さっきの事を怒ってるのか、それとも俺がさっきの事を怒ってるように思われてるから話づらいのか。
いや、待てよ?
話しづらいっていうか普段から俺とキャプテン(アキラ)は話とかしなくね?っていうかアキラはペラペラと誰かと話すようなタイプじゃなくね?俺も誰かとペラペラと話すようなタイプじゃなくね?!
これって、やばくね?
はっきりと言おう。
確かの俺は小学、中学とも、友達は少なかった。それが原因かどうか知らないけど誰かと話をするのが苦手なのだ。向こうから話掛けてきてくれたら話せるんだけど自分からは話せない。
えと、つまり、明確に色々と話しが出来る人は小学生、中学生と「いなかった」うん…はっきりと言おうか。この際だから。
小・中の頃に友達は「いなかった」
僕は友達が少ない」とかいうラノベがあるけどあんなレベルじゃない。友達が少ないんじゃなくて友達が居ないんだよ。
「少ない」のと「いない」のとじゃぁレベルが違う。0と1ぐらいに違う。0はどんなに掛けても足しても0なんだよ!!しかも割ったらゼロ・ディバイドエラーとなって計算機がおかしくなるんだよ!!
ここはせっかくのチャンスなんだから…。
友達を作るべきじゃないのか?
幸いにもキャプテン(アキラ)は俺と同じように友達がいないっぽい性格をしてるから案外気が合うのかもしれない。正直言うとこの学校に入学してきて今までずーっと女の子の友達しか居なかったから、男の子の友達が欲しいと思っていたんだよね。
それでこそ「僕は友達が少ない」という展開に似てるんだけど、残念ながらユウカもナノカもラノベに出てくるような美少女っていうわけでもないし、しかもラノベの主人公が女の子の姿をした男の子っていうアレだから仕方なく女の子の友達を作ってる状態だし、美少女が自分自身っていう最悪な状態だから鏡でも見ながらオナニーでもしとけよっていう完全な自足自給生活みたいなアレがアレでアレ。
とにかくだ。
さっき、俺が手を突き放した事を謝らないと。
別に悪気があったわけじゃないんだよ、キモいから触ってくんなっていうんじゃなくて、そろそろ離してもいいはずなのになんでいつまでも触ってるのキモいよっていう事なんだよ。
でもなんて謝るんだ?
「さっきはごめん、ちょっとキモかったから」って謝るのか?それって謝った事になってなくね?どっちかっていうと誤ってない?
男ならグダグダと言い訳をせず行動にするべきなんだよ。グダグダ言い訳をするから話がどんどんややこしい方向になるんだよ!!
俺は黙って、隣に座っているアキラの手を握った。
「ん…えぇ?!」
アキラは顔を真っ赤にして俺の方を見ている。
「ん…えっと、ごめん、さっきは別に手を握られるのが嫌っていうわけじゃなくて、その…あの、別に、そういうのじゃなくて、えっと…その、触っててもいいから、あたしの手」
よ、よし、うまく言えた…かな?