19 ベリィド・ドキュメント 3

「運用側がLOSの世界を改変した…だったな。つまり、何かしらのトラブルがあったって事になる」
資料室の端末のキーボードはどこからか持ってこられたのかとてもアンティークなもので、それぞれのキーが叩き慣れていてテカテカと光っている。指があたる部分と当たらない部分が明らかに変色していた。それをカタカタと青井が打つと、画面には「トラブル報告書」と題された紙に似せた画面がいくつも表示される。
「大陸が浮遊した事に関して…検索っと」
キーワードを入力して暫くすると検索作業が終わる。数枚のトラブル報告書のみが画面に残る。「これかな」と言って青井は再びキーを叩いた。
「このトラブルレベルっていうのは何?」
東屋は報告書の右上にあるっ数字を指差す。
「これはすぐに対応すべき問題かどうかを示す指針だよ」
「マックス5レベル?」
「ああ」
「え、これって、高いほうが緊急度が高いって事?」
「いや。たしか『緊急度』じゃなくて『優先順』だから低いほうが緊急度が高いって事になるな」
「ん…なんか低くない?」
報告書の優先度は4だった。
「ん…なんでだろうな?」
東屋は画面のトラブル報告書の一部を指さしながら「状況説明」の部分を読む。
「『3:45。一部のユーザが錬金術の物質改変メソッドを用いて地盤を飛行石へと改変。3:55。地盤の飛行石への改変メソッドの処理が受理される。ワールドの占有率32パーセント。大陸が浮上し始める』…ワールドって何?」
「ワールドっていうのはLOSのサーバの中で地形だとかそういうデータを作ったり改変したりするサーバだな。32パーセントか…それほど大きな負荷を掛けたわけじゃないのか。これがキメ手になってんのかな」
「え?どういう…?」
「このトラブルの優先度が4なワケだよ。優先度ってのは…それを決める条件があって、一番高いのはLOSシステムが続行不可能なレベルになるもの。次にほっといたらデータが壊れてしまうもの、次にLOSシステムの中の各アバターのバランスが壊れてしまうもの。4番目はいずれ直さなきゃいけないがほっといてもそれほど運用に支障がないものだろうな」
「でも錬金術システムで地形のデータを書き換えるなんて想定出来てなかったものなんでしょ?」
「そりゃまさか大陸を持ち上げるなんてなぁ…。でもまぁ、アレだな。想定外だったにしても大陸が持ち上がって空中大陸が出来てしまうなんて、いかにもファンタジーって感じなんじゃないのか。十分な宣伝効果があったって事で運用側も対応を保留したんじゃねーのかなぁ」
「なるほど。って、それじゃあなんで運用側は世界の再構築をしようとしたのかな?なんか、ゲーマーの間での話と食い違ってんだけど」
「まだまだ調べないといけないって事だな」