19 ベリィド・ドキュメント 1

東屋は暫く考えた後に、言った。
ゼノグラシアについて語るにはまずはその女王について語らなきゃ行けないね。大錬金術ルルティアについて」
「システムのコードを分析してLOSの世界の物理法則を見つけ出した…ハッカーだっけ?」
「うん。ルルティアはベータ版の時代からLOSのファンで、色々とコードを解析しては『攻略』と称して自分のサイトに載せてたよ。と言っても、ゲームのウィキペディアみたいなもんでさ、他のゲーマーもそのサイトの情報をみんなで編集してた。ルルティアは他のゲーマーと違って、モンスターのあれが強いだのこれがこういうアイテム落とすだの、そういう情報よりもLOSのシステムがいったいどういう作りになっているのかを熱心に勉強してたみたいだったね。ほら、仮想空間のマニュアルみたいなのが当時出てたじゃん。あれを読んでたりとか」
「まぁ、LOSのシステムの根幹は別に真新しいもんじゃなくて、実は既に作りならされてるそこらの仮想空間系システムと同じだからな」
「重力だとか斥力だとか、実際の世界にある色んな力と、LOSのシステムの世界にしかない魔法や錬金術の関係だとか。そういうのを調べてたみたいだ。そんで、ルルティア錬金術のシステムの中にLOSシステムの今回の仮想空間をコントロールする抜け道を見つけたんだ」
「抜け道?バグか?」
「俺はシステム屋じゃないからわかんないけど。多分、バグだと思う。あれでしょ、作った人が把握出来てないものはバグっていうんでしょ?で、把握できるものは仕様って言う」
「…酷い言い回しだな。そりゃシステム屋さんの中のスラングみたいなもんだぞ」
「あぁっ、ごめん。えと、話戻すけど、ルルティアはベータ版時点のLOSのシステムを解析して錬金術と物理法則の関係を使って大陸を持ち上げた。そこまでは今まで話したとおりだけど。その後、運用側はこのバグに気づいて世界を再構築しようとする…っていうのを既に想定してて、それでゼノグラシアが消えないような細工をしたんだ」
「どういう細工だ?」
東屋は肩を動かして「わからない」というジェスチャーをした。
「そりゃ、調べるしかねぇって事か…」
青井は立ち上がるとサーバルームを後にする。
「あ、ちょっと待って、どこいくの?」
「資料室だよ」