4 恋愛相談 2

「デートとかもまだなの?」
みのりとみどりは歩きながら話をする。
「うん。そういうのって男のほうから誘うものなの?」
「…井川君がそういう人じゃないなら誘ってもいいのかも?」
「そういう人じゃないって?」
「異性に積極的じゃない人…とか」
「あー。うん。そうだね。なんとなく話しててそう思ったよ。いつも話しててどこか別のほうを見てるしさ、顔あわせてもすぐに目をそらしちゃうし」
ふと、みのりは自分が初めてみどりと会った時の事を思い出した。
自分は女なのに体面を気にしてみどりから目を逸らしていた。一瞬思ったことは自分のような醜い豚がみどりを見てしまって、彼女が機嫌を損ねてしまうのではないかという事だった。
もしかしたらただ話しやすそうだった、というだけかもしれない。
そう。みのりが男の時の姿をしていれば視界に入ることすら許さなかったかもしれない。そう考えると、みのりは一瞬でもみどりの前から姿を消してしまいたいと考えていた。もちろん、恋愛ごとの相談を受けている今ですら少しはそう思っている。
「それは…ほら、恥ずかしいんじゃないかな。今まで女の子と話とかしなかったんでしょ。いきなり話せって言っても無理じゃないの」
「そういうものなのかなぁ」
「そうだよ」
「…やっぱり私に告られた事とか、実は嫌だったのかも」
「でも、ちょっと考えさせて欲しいって思ってからOKもらったんでしょ?」
「うん」
「だから適当な返事じゃないと思うよ」
もし告白をされたのなら。
みのりの送った学生生活ではありえないシチュエーションだった。
きっとみどりと最初に話した時と同じように、まず疑うだろう。罰ゲームか何かではないかと周囲を気にするだろう。壁の柱の隅に身体を寄せて笑いをこらえている他の女子生徒がいないか確認するだろう。
今まで架空の世界の女性にしか恋をしていなかったのだから、言っている言葉ひとつひとつを信じれるだけの力が無いのだ。井川が「考えさせて欲しい」と言った理由がなんとなくみのりにも解った。
今まで誰も信じなかった井川と自分という人間。それが誰かと接触した時に初めて気づくのだ。自分は自分以外の誰も信じてなかったという事実を。