18 討伐令 8

風雅は考えていた。
その漆黒は明らかにデータが存在しない事によるエラーの表示だった。だが、風雅の知る限りはシステム内でその様なエラーがあっさりと表示される場所はない。ただ、何者かがハッキングをしているなら話は変わってくる。
「漆黒の闇にNoDataの表示…。どこかで見た事が…」
ゼノグラシアの神殿にも同じようなものがありましたね」
豊吉が言う。
「あの時は確か『建物の床』に未定義のデータがありましたね」
「外の人達に聞いてみますか?」
「えぇ」
豊吉に言われて電脳通信を開始する。
『青井さん』
『おぉ、無事だったか』
『えぇ。神殿に逃げ込んだんですが周囲をオークに囲まれていてまだ動けそうにありません』
『そうか…』
『それとちょっと気になった事が』
『どうした?』
『オーク達がこの神殿に入ろうとするとNoDataと表示されます。漆黒のハリボテ状になった後にその表示になるのって開発中によくありましたよね?』
『あぁ、バグだろ?』
『あのバグって、マップデータの中にモブ*1のデータが存在しない時によく出てた覚えがあるんですが、』
『ん〜。そうだったかな?それがどうしたんだ?』
『マップとモブのデータはバージョンアップした時に分けて管理するようになりませんでしたっけ?どこかのタイミングで』
『…そういえばそうだな。ってかよく覚えてるな、そんな昔の事。それで、それがNoDataの表示と何か関係あるのか?』
『いえ…そのバグがなんで今起きてるのかなって?』
『ん…。漆黒にNoData。お前が最初に外と通信できていたところがゼノグラシアだな。あの時古い地形の中に漆黒の闇があって、未定義な状態になっているって言ってたよな?』
『ええ』
『ちょっと待ってろ。今専門家に聞くから』
青井は振り向いて東屋の顔を見た。
「え?専門家?」
ぽかんと口を開けている東屋。
「専門家っつたらお前しかいねーだろうがよ」
「ゲームの中の仕組みはまったくわかんないよ?」
「ユーザとしての経験を語ってくれればいいんだよ!」
「で、何を語りましょう」
ゼノグラシアの事についてだ」

*1:モンスターやNPCなどのオブジェクト