18 討伐令 7

風雅達が最初にその神殿に入った時と違って、進入後に記憶が消えてしまう事は無くなっていた。そして神殿の奥へと進んでいった。何故なら後ろからオーク達が追ってきていると思っていたからだ。だが、ある時ふと後ろから追っ手がまったくこない事に気がついた。
気配や鼻が利くナジャとミーシャがそれに最初に気づいた。
「もう追っ手が来ないよ」
「そうか…それはよかった。危機は脱したが、後はここでオークがあきらめて帰るのを待つしかないのか…。この神殿内に何匹か入ってきてるのか?」
と、風雅が聞くと、
「うーん。それが変なんだよね。神殿に入ってすぐのところで足を止めたような感じになってるんだ」
「…足を止めてる?」
カイが入り口のほうに向かい始めて、「どこへいくんだ?!」というロイドの制止も振り切ってからニヤリと笑い、「そりゃ見に行ってくるんだよ」と言った。ナジャとミーシャもそれに続いた。彼女等は鼻が効くので近くにオークが入るのなら足を進めようとはしないだろう、と安心した風雅は、いったんは入り口へと戻ることにした。
3人は神殿の入り口に差し掛かった時、同時に足を止めた。
真っ直ぐに伸びた廊下の先には入り口が見える。だがそこからの光を遮る物体が目の前にある。
漆黒の塊だ。
影だけ見ればオークにも見えなくはない。ただ、それは立体の空間にありながらも平面で、漆黒の形をしたオークらしいものが平面であるが故にまさに「ハリボテ」の様にそこに立っていたのだ。
「なんだこりゃ?」
カイが非常食として常に携帯している干し肉を取り出してその得体の知れない平面の物体にぷすっと突き刺す。平面なのにそれは無限の深さでも持っているかのように干し肉を吸い込んだ。
「うぉう!」
驚いて引っ張り出すカイ。
干し肉はその漆黒の物体に吸い込まれて削れていた。
「どうした?」
風雅達と合流する。
「いやさ、この変な黒いのがここに並んでてさ…なんだろこれ。板みたいなのが並んでる」
風雅と豊吉は額から冷や汗を流しはじめた。あくまでもそのハリボテと距離を取りながらハリボテの表面をじっと見つめる。
「NoData…」
「へ?」
「これは…バグだ。この空間に存在してはならない物があるから表示しきれずにこの状態であるんだ…」
ナジャが持っていたククリでその漆黒の物体を突こうとする。
「触るな!」
突然風雅が叫び、ナジャもミーシャもカイも後方へと後ずさった。
「おいおいおい、ヤベーんじゃねーの?」
カイは入り口の方向を指差して言う。全員がそちらに視線を向ける。オーク達と目が合う。風雅達を見つけた途端に息を荒くして突入してくるのだが、入って僅かに進んだところで突然真っ黒の塊になった。風雅達の目の前にある黒い物体と同じく、「NoData」の刻印を押されて。
(オークはここに入れないのか?それとも、選ばれた人間しか入れないという事なのか?)