3 否現実の人 5

みのりはみどりと2人で食べる分の食事を作っていた。
作り方は誰から習ったわけではなく、すべて本で勉強したものだった。
中華・和食・洋食、3冊の分厚い料理専門書を買ってきて2日ですべてを暗記した。そしてそこに書いてある作り方どおり一分の狂いも無く料理を作る。だからみのりの作る料理はまずくも無ければ個性的でもなかった。
隣でみのりの動きを観察するみどり。そして言う。
「なんでも作れるんだね…私なんか、目玉焼きぐらいしか作れないよ」
「大丈夫、少しずつ練習したら作れるようになるよ」
「みのり姉さんもずっと練習してきて作れるようになったの?」
「うん、最初は誰でも失敗するよ。でもそのうち作れるようになるから」
「ねぇ、みのり姉さんって、眼鏡取ったらどんな感じなの?」
不意打ちとばかりに黙って眼鏡をちょいと取り上げるみどり。みのりは別に慌てるわけでもなく恥ずかしがるわけでもなく、落ち着いていた。そんなみのりの反応に少し残念がる様子を見せたみどりだったが、メガネを外したみのりの顔を見て息をのむ。
「わぁ…。ぜったいモテるでしょ?」
「あはは、モテてないよ」
「コンタクトにすればいいんじゃないの?」
「眼鏡のほうが好きだから、これでいいの」
度の入っていない眼鏡。
みのりは女になったときに視力が完全に回復した。だが眼鏡は外せなかった。身体が眼鏡を外すことを拒んだのだ。理由の一つはメガネを通す事で自分を誤魔化せるからだ。現実を直視しないという無意識下の意思表示のようなものだった。そして、もう一つの理由は、
眼鏡をしている自分が「自分」だったからだ。