3 否現実の人 4

みのりはふと、料理を作りながら木村一家と出会った時の話を思い出していた。木村一家はみのりにとっては家族のような存在だった。
彼の本当の家族は別にいるが、みのりが思う「家族」というイメージ、みのりが望む「家族」というイメージから掛け離れていた。食事は食卓の上に置かれた食事代。みのりはそのお金を持ってコンビニに出かけ、お菓子とジュースを買って自分の部屋に戻り1人食事を取った。
毎日同じ家で顔を合わせる家族とは挨拶も無ければ会話も無い。常に一緒になることのない家族。唯一、遺伝子だけが家族を証明していた。
みどりの食事に誘われると、最初こそ戸惑っていた。
(誰かと一緒に食事をするということは、何年ぶりなんだろうか)
だが直ぐに溶け込んだ。そして喜びがあった。
みのりが本当に感じる「家族と一緒の時間」
10年以上前には同じ光景がみのりの実の家族との間にもあった。
(いつから変わってしまったんだろう)
空しさがみのりの心を覆った。そして涙が零れた。
「…すいません。こんな家族みたいに接してもらって。自分の家族のこと思い出してしまいました」
涙に笑いを混ぜながら答えるみのり。
「いつでもおいで。食事はやっぱり賑やかなほうがいいからね」
泣き出してしまったみのりに少し動揺しながら、みどりの父親が言う。
「みのりさん、両親はどこにお住まいなの?」
みどりの母親が心配そうに質問する。
「あ、両親は…」
(両親…)
(家族なんているんだろうか?)
(…いや、居ない)
(…家族なんて呼べる人はいない…)
(自分はずっと1人だった)
みのりはこれ以上彼らから何かしらの質問を受けるのが苦痛になるのを察知して、一言、
「両親は…死にました」
と言った。