3 否現実の人 3

「あ、お帰りなさい〜」
みのりがアパートへ戻るとそこに居たのは隣の部屋に住む一家の1人娘だった。犬を連れていてみのりを見ると尻尾を振りながら飛び付こうとする。
「こら!」
少女は小さく怒鳴ると犬の首から伸びるロープを引っ張る。
「今散歩に言ってきたの?」
「うん」
「夜は危ないから、夕方の早いうちに行くほうがいいよ」
「うん、解ってるよ。今日はちょっと部活で遅くなっちゃって」
少女は微笑みながらみのりに言葉を返す。
木村みどり、みのりの住む部屋の隣の家族の1人娘だ。
みのりがアパートに引っ越して来てから、木村家に色々とお世話になっていた。今時に珍しく近所付き合いのいい家庭だ。その近所付き合いのいい家族の1人娘の「人なつこさ」がみのりの女性に対する抵抗感を無くしていた。引っ越して間もないのに親しみを込めて「みのり姉さん」と呼ばれていた。
男の時のみのりからはそういう今の境遇など想像もしなかったことだ。みのりが人との接点を作ることも出来たのはすべてこの家族のお陰だった。
「ねぇ、みのり姉さん、お部屋みたいな。片付いた部屋見てみたい」
「まだあんまり片付いてないよ」
犬のロープを傘立てに付けるとみのりと一緒に部屋に入るみどり。
「ひとり暮らしって憧れるなぁ〜」
部屋を見て周るみどり。ふと首を傾げる。
「なんか、みのり姉さんの部屋って、すごい簡素…」
「うん。よく言われる」
「あのさ、あたしインテリアコーディネーター?っていうの目指しているんだ。よかったら、みのり姉さんの部屋のをコーディネートさせてよ。凄くカワイイ部屋にするから」
「え〜、凄いお金掛かるじゃんか」
「大丈夫、お金掛からないようにするからさぁ」
「じゃぁ今度お願いしようかな」
「ありがとう!」
みのりが買い物袋などをテーブルに置いていると、みどりはそれを覗き込んでもの欲しそうに言う。
「お?その買い物袋は今から料理するのかな?」
みどりは近付いて買い物袋を覗き込む。
「うん、これから夕食」
「よろしければ…ご馳走になってもいい…かな?みのり姉さんの作る料理ってもの凄く美味しいから!」
「いいよ。上がって。散歩はもういいの?」
「うん、今帰ったとこだから」
みのりが料理をご馳走することは珍しくないことだった。時々、みどりの家族の食事によばれることがあるので、そのお返しに時々そうやって、料理を楽しんでもらうのだ。