3 否現実の人 2

「あ、あの、菅原さん」
突然口を開いた守山。それに少し驚いてみのりは向き直す。
「あ、はい?」
「前から思ってたんだけど、何でこんなところをバイトに選んだの?」
「あ、それは、よく知っている店だし…」
「え?でも菅原さんを見かけたことないな…ずっとここでバイトしてるけど」
「あぁ、それは…良く知ってるけどまだ店に入ったことは無かったから」
本当は店の客の常連だった。
みのりがバイト先を考えるとき、自分が安心して仕事が出来る、そういう場所は自分が良く知るこのゲームセンターだった。守山はみのりがまさか常連客のデブ男だったとは知らない。だがみのりにとっては会話を交わすことのない他の男性客や、たまに話していた守山も顔見知りだった。
「ああ、そうなんだ。菅原さんみたいな可愛い娘がこんな店で働くから、俺もお客さんもビックリしてるよ」
守山は少し緊張した風に話す。
「ありがとう…」
(この人、緊張するぐらいならそんなこと話さなけりゃいいのに)
みのり自身が男性だったときも女性と話すときはそんな感じだった。
そう思い出していた。
ふと、店の前に人影が出来たのに気づく。男性客が数人。だがそれはみのりや守山にとってあまりいい印象のものではなかった。自動ドアが開いて入ってきたのは「不良」だと誰が見てもわかる輩。
「うひょ〜、超カワイイじゃん!」
その悪印象の人集りはみのりの周りに集まった。
みのりは怪訝な顔でカウンター奥まで数歩下がる。
「な、すげ〜カワイイだろ?こんな店になぁ〜」
そういうと不良の1人はみのりの隣にいる男性店員を睨む。
「あの…ゲームをプレイされる方ですか?」
恐る恐る守山は不良達に話す。
「何だよ?誰だよ手前は?このカワイイ娘を見に来ただけだよ」
「キモいんだよ、ウセろクソが!」
不良の1人は守山の胸ぐらを一度掴むと突き放した。
「警察呼びますよ…」
みのりも恐る恐る声を絞り出した。
「おい行くぞ」
不良の中で一番落ち着いた男は『警察』というキーワードから何かを察知したように他の不良達を引き連れてゲームセンターを出ていった。
しばらく間を置いてみのりと守山はため息をついた。
「あの人達、いつも来るの?」
みのりが聞く。
「いや、ずっと前に来た事があるよ。酒を飲んでゲームをプレーしようとしたんで、止めてくれって言ったら、突き飛ばされたことがあるよ。あの時は店長とか警察とか呼んだかな」
「大変だね…また来るかな…」
「あ、あのさ。菅原さん、毎日夜は1人で歩いて帰っているの?」
「うん」
「なんだったら、俺が送ってあげようか?あいつら本当にヤバイよ。あいつらに目付けられたとしたら…」
「暴走族か何かなの?」
「噂だと、どっかの女子高の生徒さらってきて…暴力とか振るって殺したらしい。やっぱこういう場所だし、ヤバい奴等が夜はウロウロしてるからさ」
「え、うん。送って帰って」
みのりも守山と同じく不良達を恐れていた。ピアスをした顔から直ぐには解らなかったが、不良達の中には高校の時の同じクラスの男がいたからだ。みのりもイジメの対象になったこともしばしばあった。
男の時には殴られ、女になってからレイプされたんでは洒落にならない。そんな不安から守山の誘いは救いだった。